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ヒューマンファクター調査研究委員会第5回検討作業部会
(議事概要)
1. 日時 平成14年11月5日(火) 午後2時30分から同5時
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 小坂委員、喜多(祐)委員を除く部会メンバー
 加藤委員長、黒田委員、冨久尾委員、峰委員、厚味委員
4. 議題
(1)(議事テーマ)船舶分野におけるヒヤリハット情報の収集と有効活用の現状について(その2)
5. 資料
(1)議事次第
(2)座席表
(3)講演用説明資料(矢野輝夫氏)
(4)講演用説明資料(松岡委員、伊藤博子氏)
(5)ヒューマンファクター調査研究委員会調査団の訪米について
6. 議事概要
6.1 講演 「ヒヤリハット情報の収集と有効活用について」
  講演者 矢野輝夫氏元住金物流株式会社内航営業部副参与
  講演目次 (1)はじめに
    (2)ヒヤリハットとの出会い
    (3)ヒヤリハットを集める
    (4)事故防止への取組
    (5)ヒヤリハットの活用
    (6)今後の展望
(1)主な講演内容
 社内で毎月定期的に開く安全会議にヒヤリハットの体験を持ちだし、何故そういう態勢になったのか、それに対してどう対処すべきなのか熱心に討議していた。
 事故にならなかったヒヤリハットは、責任の追及がない。あらゆる角度からフリーに問題が取り上げられる。それは責任がないから言えるという利点がある。
 安全会議で取り上げられた事例の結論を再び船舶、船主、船長に資料として返すという使い方をしていた。
 社内の資料をすべて持ち出して、ヒヤリハット集を作ることにした。
 まず、似たような事例をグループ毎に集めて、発生順に並べ、概要について船の人にイメージしてもらいやすいように漫画を描いた。
 ヒヤリハットの集め方について、沢山のヒヤリハット情報を集めるには社内だけではとても足りないので、そこで、社外の人にもこのヒヤリハット集を活用して貰い、その代わり資料の提供とか交換を呼びかけてはどうかということで会社に図った。
 報告と言うことになると、なかなかでてこないのは、書くことに抵抗があることがわかった。理由としては、(1)事故にならなくて良かったが、そのようなまずいことをいつもしているのかと見られる。(2)書くことが非常に面倒である。(3)書いても、それをどのように有効活用してくれるのかが見えてこない。書くだけだったら何の役にも立たないのではないかという思い。これらから、ヒヤリハットの報告がなかなかでてこないと感じた。
 運航船はおよそ60隻であり、ハインリッヒの法則に照らしてみるとすべての船が8.5回のヒヤリハットを体験していることになる。しかし、報告されている数字は、報告事例が最近は3倍に増えたと言っても実際にあったであろう事例の30%程度というのが実態である。
 各船の感性も違い、自主的に報告してもらう現行のシステムでは、これ以上の報告は、何らかの義務付けをするか、あるいは大きな目的がないとちょっと無理かと思う。
 報告するにしても出来るだけ簡単な様式でないと長続きしない。
 集まった情報はきちんと分析し、検討し、報告者に活用され、生かされているという満足感を持ってもらわないと、次の使命感も芽生えない。
 海難審判庁の特に、テーマ毎に海難の対応や原因を系統的に調査・分析されている資料は活用している。海難レポートによると事故の7割から8割がヒューマンエラーと分析されている。
 事故原因を究明するのに最初はなぜそうなったのかということを調べていたのが、いつの間にかヒューマンエラーが全面に出てきて、悪いのは誰だ、どういう処分をするんだというふうになりがちである。そうなると、誰もが自分を守りたいという一心で防衛本能が働いて、真の原因にたどりつくのに限界が出てきた。
 今の海難審判のシステムでは、どうしても責任追及型にならざるを得ない。
 その点、事故に至らなかった、間一髪でさけたヒヤリハットは責任の追及は全くなく、いろんな面から自由な話が聞ける。これを活用すれば、なぜそういうことになりそうだったかということが明らかになってくる。
(2)講演に対する質疑応答、意見
 インシデント情報収集に関し、アメリカの航空における報告すれば罰金が免除される例、我が国の船の会社における報告に対する表彰制度等の話もあるが、社内でそうした制度的なものはあるか。
 自主的スタンスであり、正直に言った船には、よくやったの誉め言葉ぐらいである。自分の分は隠し、他人から不利益を受けたものは膨大にするというのが人間の習性である。とてもじゃないが今のシステムで義務化はできない。道徳的な面をどんどんレベルアップし、報告することが皆のためになるという大目的を進めていくのが一番かと思う。
 ヒューマンファクターのアンケートを取ったりするのは、最終的には事故を減らそうという目的のために使われなければならない。海関係で驚くべきことは、コミュニケーション以前の問題に非常に問題がある。
 最終的にこの結果、どういう対策を講ずればよいのか。自己防衛という話があるが、自己防衛を広げていったら何になるのか。
 この海域では、この時間帯、このような船舶が多いので、こういうふうにしたらどうかという助言をする。そういう形でその都度しのいでいるのが実態である。自主防衛と書く本人が一番じくじたる思いであり、それならどうしたらいいのかと聞かれたときには、実際答えに困っているのが現状である。
6.2 講演 船舶運航上のヒヤリハット事例とその研究
  講演者 松岡猛委員 海上技術安全研究所 海上安全研究領域長
    伊藤博子氏 海上技術安全研究所 海上安全研究領域総合安全評価研究グループ研究員
  講演目次 海難インシデント情報に基づく未然事故のモデリングについて
    (1) はじめに
    (2) インシデント報告制度について
    (3) 自主報告と事故事例
      i) 使用したデータ
      ii) 事例における態様および推定原因の特徴
      iii) 発生時の状況による差異
    (4) 未然事故のモデリングについて
    (5) まとめ
(1)主な講演内容
 研究の目的として、船舶運航を取り巻く状況の変化は、船員の勤務状況や機密化や情報の多様化、大量化をもたらしてきた。国際的な動向として、運航管理会社に労務管理等、安全の確保が要求されるようになった。運航者側では、学習、情報取得、注意配分等における努力が要求されている。
 そのため、運航過程におけるインシデントの例として、実際に運航者が「ヒヤリ」としたり、「ハット」と思った状況について情報を収集し、その共有化を行うこととした。
 調査研究の手順としては、一次アンケート項目の選定、一次アンケート回答の回収、分析、二次アンケート項目の選定、二次アンケート回答の回収、分析となっている。
 そういう中で、ヒヤリハットを感じさせる原因として、航行上の航法は海上交通法規にもみられるように、大別して時刻、視界の良否、水域、船舶の種類、船型(大きさ)、速力などに応じて決められていることがわかった。
 操船者のヒューマンファクターについて、次の3点が上げられる。知識・技能に関しては、海上資格を取得した海技従事者として、免許を行使するために必要な程度の知識や技能を示している。注意力としては、問題が発生した時によく注意義務違反等として問われるような内容となっている。協調としては、個人が持つこのような知識、技能や注意力を有効に機能させたり、高めていくために必要な個人の間の心情、動作のあり方、つまりチームワークを示している。
 比較研究の結果、事故のデータとヒヤリハットの報告における差異のあり方は、自船よりも他船の異常に気づき易い。これは自身の制御が及ばないものをより重要なものとして考えることから、これらの差異が操船者の状況の認識、報告への動機付けというものに関して発生しているといえる。
 海上技術安全研究所で用いているデータベースシステムは、海難審判裁決書検索・閲覧のシステムであり、今後、研究成果を公開していくことを念頭に置いて検討している。
 また、海上技術安全研究所では、航行上のインシデントを対象としたアンケート調査を継続的に実施しており、今回の分析は収集データの一分析例である。
(2)講演に対する質疑応答、意見
 審判庁の審判とインシデントのギャップの説明では、例えば審判の方から見る他船について若干甘く、自船については厳しいというようにも読み取れないこともない。
 審判で事実認定をしているところが、自船については十分されているかどうか、他船について十分されているかどうかという問題として利用可能か。
 データのソースが違うので、なかなか厳密な比較は難しい。もう一つ、審判のときに事故を起こした人が本当のことを言っているのかどうかの問題もある。
 ただ、それでも大きな差が出ているということで、今回は、それらのことを考慮しても、差として認めていいのではないかということで報告した。
 海難審判の方はある程度厳密にやっているのではないかと言える。インシデントレポートの方は、全く実質的で、相手が悪いときだけはどんどん言うが、自分に落度がありそうなときにはだいぶ隠しているのではないかということが顕著に出ているのではないかと理解している。
 他船の航行違反であるなどが圧倒的に多いが。
 インシデントの報告中では、はっきりと相手が悪いというような報告がどうしても多くなる。
 こんなに航行違反をしていて、しかも航法が不適切となっている。航法不適切というのは国が決めている。これにはどのような対策が存在し、やがて安全になっていくのか。
 分析の結果、例えば法律を変えるということがいえるのかどうか、見張りをしていないのであるから、自動的に他船が3海里以内に近付いたらアラームが鳴るような装置をしない限りは東京湾においてはだめとか。そんなことが分析を続けていくと言えるのかどうか。もしくは、そういう徴候が少しでも見えているのか。
 特にこういった海域での見張りが重要だということがわかったときに、人の手でできないものであればそれを支援する装置や設備を開発するなり、ある地域の運航形態を変えるというようなことを、最終的にはもちろん考えていかなければならないと思う。そのときの資料になればということは常に考えている。
 実際にどのような手段を取るか、どのオプションを選択するかということに関しては、我々のところではないと考える。
 こういうものをたくさん集めて最終的に何が言えるのかをつかむのは難しい。1つのアプローチとして大変優れているが、このような方法をとることによって、最終的に当委員会が望んでいるようなものが出るのかどうか、そのあたりの感触はどうか。
 例えば確率を用いて、こういったケースには、これだけの確率で危険が発生することを計算し、その対策を行うのにはどれだけの費用がかかるかを計算して、それを照らし合わせることによって、この対策をとるのだったら、又はこれだけ事故を減らすためにはこれだけ費用がかかるという分析もある。
 費用対効果の話では、その対策と経済性という問題まで踏み込むのか、あるいは、一つのデータによって統計的な側面からこういうリコメンデーションになるというリコメンドにするのか、そのところは議論があろう。ただ、今まで何もこうした視点がなかったので、これだけやるだけでも進歩と理解する。
 安全対策をやれというような規制のようなところまで踏み込むと、やれということが本当に妥当かどうかを納得させるためには、費用対効果まで踏み込まなければならない。
 費用対効果を出すのは難しいが、確率論的な安全評価ということで、船舶事故に対して評価の試みを行っており、衝突事故、座礁乗揚について発生頻度、それを構成する要因、それぞれの寄与度を数量的に評価している。機会があれば議論の参考に紹介したい。
 外に向かって説得力のある対応をするためには、費用対効果ということがないと世の中は認めてくれない。
 政策のオプションの中から費用対効果の高い施策をとっていけるような手法ができないかということの例の一つとして、救命胴衣着用の措置の導入に対して分析を行い、1人の死者を減らすためのコストが6百数十万円かかり、国の施策としては極めて効果的であるというレポートをまとめたものがある。こういう学際的なところを、あとどうやって使っていくのか非常に難しい問題である。研究者にいろいろデータを広く提供してもらい、そのデータを基に、業界、役所が一緒になって考えていくテーマと理解している。







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