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ヒューマンファクター調査研究委員会第4回検討作業部会
(議事概要)
1. 日時 平成14年10月22日(火) 午後2時30分から同4時50分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 全部会メンバー
 加藤委員長、堀野委員、黒田委員、冨久尾委員、峰委員、厚味委員
4. 議題
(1)(議事テーマ)船舶分野におけるヒヤリハット情報の収集と有効活用の現状について
5. 資料
(1)議事次第
(2)座席表
(3)講演用説明資料(松倉委員)
6. 議事概要
6.1 講演 「水先分野における事故防止データの共有について」
  講演者 松倉廣吉委員(社)日本パイロット協会前会長
  講演目次 水先業務に関する安全対策実施概要(資料1)
    各水先人会における対策
    日本パイロット協会における対策
    Pilot Safety Reporting System(PSRS)の実施について(資料2)
      趣旨
      実施時期
      情報の収集・分析を行う機関
      報告の範囲
      情報の収集及び分析
      情報の活用方法
    PSRSシステムの構成
      PSRS運用要領
      報告様式
      提出先
      報告者への返信
      コールバック
      分析・対策の検討
      データベース入力
      分析結果のフィードバック方法
      海難防止研究会への報告
    報告制度と安全文化
      PSRSシステムの目指すもの
      予防安全が求められる背景
      ハードウエアに偏った安全対策
      安全対策のグローバリゼーション
      リスク・マネジメント・システム
      安全文化の重要性
 
  平成14年度 総合研修の実施について(資料3)
      事故に関する水先人の責任
      安全操船へのガイドライン
      裁決書「油送船ダイヤモンドグレース乗揚事件」
(1)主な講演内容
 日本の現状は、恥の文化ということで、自分の恥になるようなことは人に公開しない。それから人の不幸が我が幸せのような、潜在的な心理状態が人間にある。これをいかに払拭して、本当の安全な世界を作る方向に向かうことこそ、社会的要請ではないかと思う。
 ダイヤモンドグレースの裁決書で、右側の浅いところになぜ行ったのかという原因、あるいは背景というものを軽視できない。
 審判においては、ある行為が、個別的な問題ではなく、あらゆる側面から見て内容を考慮すれば、今後、社会的な要請に応えられるのではないかと思う。
 インシデント・リポート・システム(PSRS)を考えたとき、アメリカに調査員を派遣して、事情を調査したが、日本の考え方とアメリカの考え方とではあらゆる面で違っていることがわかり、日本にあったバージョンに作り替えた。
 ネックになったことは、情報の収集と集まった資料の解析である。
 情報の収集をいかにするか、資料をどのように解析し、公開し、将来に資するかが問題である。
 我々が先ず取り組んだことは、内在する問題と意識改革である。そして、次に技術的な対応であった。船が専用船化し、荷物は大変なエネルギーの物を一つの単位の船で運んでいる現状、実情をいかに意識し、それを現場の仕事に反映させるかということについては、専門的な知識が必要である。
 物事に対する的中性とか確実性、それから永続性、具体性、あるいは普及性、整合性、経済性、可能性について、合理的な判断をする必要があるということを学んだ。
 データを共有すると言うことは、データを出し、咀嚼し、必ずそれを還元させることで一つのサイクルができるということになり、これを忘れないようにする必要がある。
 データベースで処理するためには、データおよびその解析が正確でなければならない。
 裁決書を中心としたデータを収集するなら、主因という概念だけで物事を処理すると言う考え方は、懲戒主義としては合理的かも知れないが、事故防止のためのデータという意味ではあまり意味をなさない。主因は主因としてよいが、事故は多くの要因が複合して生じており、原因には多数の要因を併記する必要がある。データとして使う場合は、そこをうまく処理する必要がある。
 社会的責任ということが最近言われるようになった。例えば、免許の停止問題、罰金、刑法上の罰以外に社会的責任が問われるようになったと思う。つまり、法律を守る。社会的な反応を意識する必要があると思う。最近は行政まで行政評価といって、いわゆる自己評価ではなく、社会評価という考え方が入ってきており、各組織は自覚する必要があり、海難審判庁も例外ではない。
(2)講演に対する質疑応答、意見
 水先人の職業柄、衝突のおそれがあるヒヤリハットが多いのではないかと思われる。水先人自身の情報のほか相手船の情報も非常に大切と思われるがこれについてはどうか。
 事故に至らない問題について双方から上がってくることが望ましいが実際には非常にまれである。文書にしないで両方から聞いた場合は、自分は良いが相手が悪いといった自己防衛となり、資料にならない。
 怒られてはいけないという警戒心の問題、あいつはしょっちゅう危ない目に遭っているという信用の問題、自分の恥になることはできるだけ言わないというのが一般的であり、将来、連続的に資料が集まるかどうか心配である。
 外国人が操舵に当たっている場合のBRMに関連したヒヤリハットの報告に対して、パイロット協会はどのような対策をとったか。
 現状のブリッジの中でリソースを共有することが希薄になっている。安全に対する意識も希薄になっており、明らかに世界的に海運の現場における人的資源は質が落ちてきている現象が現れている。世界的にボットムアップをする必要がある。
 水先人はあくまで1人1人が独立して開業しており、協会はそれをまとめているということで、組織と個人の問題は難しいと思う。会社のような形で上からの命令を全部守れといった形に持っていきづらいところがあろうが、日本のパイロット協会はどちらの方向に行きそうなのか。
 個人事業主に対する管理をどう構築するかの問題である。自分の責任で事を処する範囲においては自己責任主義でよいかと思うが、グループ全体とか他の人に影響を与えるような場合には、自己責任で処理するということでは難しいという説明をしている。
 集まった情報をどのような形で具体的にフィードバックしているのか。
 現在収集した資料は200例ほどであり、いよいよこれから答えを出す段階となっており、分析を日本ヒューマンファクター研究所に依頼している。
 ヒヤリハット情報が集まってくると研究所で分析を行い、その背後の原因を探求して水先人の方に流し、事故の再発防止というか、事故に至っていないが事故にならないような根本的な、本質的なところを解明するという仕組みと考えてよいか。
 目的とするところは「もって安全に資する」であり、これを最終目標に置いている。
 現段階そこまで行っていないが、目標ははっきり設定している。
 現在分析中との事であるが、実際に調べていくとヒヤリハットに終わっている事実がある。もう1つ、スイスチーズモデル的に言うと、1枚のチーズの板がうまくかみ合ったから事故に至らなかったというものもあろうが、これらについて整備をしているか。
 原因がたくさんある中で、最後に事故にならなかったための要素について、委員の中に水先人の専門委員も入れており、出てきたデータを最終的に咀嚼してフィードバックすることはやっている。
 具体的に、このケースでは事故にならなかったのは、こういう理由があるからだということが特定でき一つの知恵が得られたら、守秘義務を守る枠内で一旦普遍化する。協会の会員にいい意味で普遍化して、デイリーなアクティビティの教訓として、こういうことをやると、こうなるから、こういう風に手を打つとうまくいくぞと言える。一見マイナスだが、よく整理するとプラス情報が潜んでいる。
 自動車について、長時間にわたる観察から、事故データは取れなかったが、間一髪というデータが取れた研究がある。それを細かく見ていくと、そこから逆に、なぜ事故にならなかったかということで正しい情報が得られる。それを公開すると皆が助かることになる。水先人の情報も200例あるということなので、そういうものが中にきっとあると思う。
 指摘のとおりである。海難審判についても、斎藤浄元先生が、将来のためにどうすればいいのかという視点に立って審判法を見なければならないということを指摘されたそうである。一番大切なところと思う。
 水先人の社会的責任とあるが、説明の事件についてはオーナー、船長の方が大きいような気がする。水先人の方が制裁を多く受けたような感じがするが。
 専門の技術者としての水先人への期待は高いという立場に立って自ら反省して対応をしている。水先における道義的とか社会的というのは、普通の問題と少し違い、社会通念というような形で、物差しはなかなか定めにくいが、世論には逆らえないというところで対応していく必要があると考えている。
 
6.2 各船社におけるヒヤリハット情報の取り組み状況の紹介
【日本郵船(株) 喜多祐次郎委員】
(1) 外航船社におけるヒヤリハット情報の収集状況、情報の種類、外国船も含めたその活用方法等について報告された。
(2) 報告に対する質疑応答、意見
 船舶数としてはメンバー企業以外の方が多いが、これらに対しては成果をどのように流通、普及させているのか。
 かかわり方の問題があり、直接管理、管理委員会のメンバー会社といったつながりの深いところから始めて進めている。できるだけ外枠に広げ、外国のマネジメント会社、できれば傭船まで、事故を防ぐ意味ではもちろん必要であるが現状ではメンバー企業以外は、なかなか集めきれない現状にある。会社としては、傭船の船主、管理会社まで要求事項として、報告をお願いしているが、まだまだこれからという状況である。
 400件ぐらいのニアミスの中で、実際に1つ1つではなく、400件を見ていくと、この辺にどうも間題がありそうだ、人間の原因ではなく、船の構造上の問題とか、いわゆるこの委員会で問題にしているようなポイントが見つかった例はあるか。
 一番欲しいところではあるが、全体の中で占める割合は少なく100件程度にすぎない。これから積み重ねた上で、傾向を見ていこうという状況である。
 現実にはまだそのような例が1件もないことだが、例えば船の構造上の問題で、誰がやっても事故が起こりそうだというような例はないか。
 まだない。
 
【(株)商船三井 頼成 功委員】
(1) 外航船社における事故に至らないインシデントの報告システムについて、インシデント・レポートの提出方法、提出状況、インシデントの内容、その活用方法について報告された。
(2) 報告に対する質疑応答、意見
 外国人船員が多いという説明があり、報告数から見ると外国人の船員からの報告もあると考えてよいか。
 含まれている。
 報告の使用言語は何か。
 英語である。
 インシデント・レポートの調査表そのものが英語で作られているということか。
 英語で作られている。
 フィリピンの船員教育機関の研究をした例から、今のインシデント・レポートにあること、例えばセーフティーマネジメントというテーマで日本人が講演するといった交流がなされるとよいと思うが。
 既に10年前から行っており、ここで議論しているようなテーマを教育カリキュラムに取り入れている。
 日本の船会社は、アジア各国にトレーニングセンターを作っており、船乗り前の若い人間をピックアップして訓練を行い、資格を付けて乗船させている。レベルの点では、以前に比べると相当高くなっている。
 海には、プレジャーボート、漁船、内航船、外航船、さらには外国人のノーパイロット船等多種多様な船がおり、もう少しきちんとした交通整理が必要である。これがなければいくら審判庁で主因、副因を示し、ヒューマンファクターの観点を裁決に取り入れたところで、具体的な交通ルールや行政指導に結びつけて事故再発防止策を具現化しなければ、海難事故はドラスティックには、減少しないであろう。
 海は多様な船が供用している共通の職域という認識で、十分に認識し整理して捉え、具体的な交通整理の施策を行うことが重要である。
 
【川崎近海汽船(株) 羽山憲夫委員】
(1) 内航船社におけるヒヤリハット情報の調査について、調査方法、報告状況、情報の内容、その活用状況について報告された。
(2) 報告に対する質疑応答、意見
 ヒヤリハットの事例からは、決まった航路で当事者は日常的に当たり前と思っていることでも、結構なことが起こっているのではないか。ニアミス報告であり事故になっておらずヒヤッと胸をなでおろして終わってしまっているが、一歩間違えばぶつかっていたはずである。なぜぶつからなかったかという視点でたった1例でも2例でもそれがあるという事例があれば、個人の秘密は守った上で、いい意味で抽象化して役立てるべきである。そのうち必ずハインリッヒの法則で1件ドカンと来る可能性があるわけで、そうなる前に手を打つべきである。そういう意味では、もうけっこう情報が取れていると考えられる。







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