1. 日時 平成14年7月16日(火) 午後2時から同4時50分
2. 場所 高等海難審判庁 審判業務室
3. 出席者 全部会メンバー
4. 議題
5. 資料
6. 議事概要
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違反を何回も繰り返してというのは、違反をするというような規則に問題があるのではないか。もっと高い次元の安全のあり方という発想の転換が必要である。 |
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安全というのは、組織とか企業が達成しようとしている目的ではない。目的を達成するためにとられている手段の価値である。その価値をどういうふうに高くとるかその組織の持っている哲学によると思われる。 |
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海難審判庁は、原因を明らかにした後、どのような防止の方策につなげていくかということが表面に見えてこない。それは海難審判庁が考えればいいことであるということかも知れないが、どうもこの辺が海員懲戒法の流れの延長線上にあるような感じがする。 |
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海難審判庁のやり方は、事故が発生すると、いつ、何が、どこで起こったのかは正確に記載されているが、問題なのは、誰がやったのか、その結果処罰した後、一件落着というようなふうにみられることである。 |
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もしこれが非常に有効であって、防止に役立っているのであれば、事故はだんだん減っていかなければいけない。減ってこないということは、この方式の中だけでは駄目かもしれないということである。 |
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考え方は、再発防止の方向に行かなくてはいけないと思う。再発防止の方向に行くためには、管理、情報、機械、環境、人間という事故事象の連鎖というものを追いかけていかなければいけない。このサークルを繰り返し回さなければいけない。これが対策指向型の事故調査のあり方であると思う。 |
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自分に不利になる証言は行わなくても良い。そうすると、今度は真相が解明できないことになりかねない。一番聞きたいことが聞けなくなる。そうすると、背後要因に踏み込めない。結果的に、原因の考察に推論が入って自分たちで考えなくてはいけなくなる。この推定原因というものも懲戒の対象になるわけです。この推定原因の根拠をよほどしっかりもっていないと不利益な結果の引き金をひくことになる。 |
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航空事故調査委員会の場合、証言してくれた人の証言をもろに報告書に入れない。最終的な責任は、判定をし、推定した航空事故調査委員会にあるのであって、証言してくれた人にはないということを非常に注意深くコントロールしている。海難審判においても、この考え方を取り入れるのは、可能であろうと思う。 |
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事故調査、あるいは、対策を講じるときに考えなければならないことは、M−SHELモデルを頭に置きながら、証言をとったり、話を聞いたり、いろいろすることである。 |
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ヒューマンファクターの分析要領として、事例の識別→ 発生経緯の時間的流れの調査(Variation Treeの作成)→ 事故事象の連鎖の分析・識別→背後要因の探索(M−SHELモデル、なぜなぜ分析)→ 再発防止対策の検討という順序方法が考えられる。 |
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再発防止対策の条件として、的中性、確実性、永続性、具体性、実施可能性、普及性、整合性、経済性という8つの条件を考えなければならない。 |
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インシデント・レポート・システムにおいて、大切なことは、免責性、匿名性、運用者との信頼関係、報告の流れの明確化、報告者が安全推進に貢献できること、簡単に報告できること、制度が確立していることである。 |
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誇り高い専門技術集団が陥りやすい問題点として、無謬主義にこだわること、失敗を素直に認めないこと、失敗者を排除して誇りを維持すること、権威性が強いこと、相互の通風性が悪いこと、組織防衛に団結すること、情報公開性が低いこと、他の集団の意見を取り入れない等が考えられる。 |
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もしヒューマンファクターというものを主体にアプローチするとするならば、その辺の人間に対する礼儀作法というものがあると思う。それを忘れないでスムーズな形でもって動いていける方式を作っていくことが肝要である。そういう知恵がこれからすごく大切ではないかという気がする。 |
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海難審判法の「もってその発生の防止に寄与する」は「それによって」として、これからは海難防止に寄与する方に主眼を置いていかなければならないと思う。それについて講演で述べられたいろいろな手法は非常に参考になったのではないかと思われる。 |
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海難審判法第1条と第8条の2には微妙な違いがある。 |
○ |
海難審判法第8条の2と3はまだ3年しか経っていない。この8条の2が入ったことにより、原因の究明をさらに強化して再発防止に役立てなければ任務をまっとうできないということに至っている。 |
◎ |
航空事故調査委員会の設置法に「少数意見を付記する。」という規定があり、意味のあるものと思うが、実際に調査・対策をする上でどのような例があるか。 |
○ |
今までの報告書の中に「こういう意見もあった。」と記載しているものがいくつかあり、これが少数意見と思われる。
具体的な例としては、御巣鷹山の事故の中で、ハイポキシアの影響について、大ディスカッションをしたり、調査したり、いろいろやったが、はっきりつかめないということで2つの意見を入れながら記載された例がある。 |
◎ |
海難審判において、いくつか原因がある場合、両論併記という思想はあるか。 |
○ |
やっていると思われる。因果関係が連鎖する。 |
◎ |
海難審判において、飛行機のように両論併記的な発想は一般論としてあると考えられるか。 |
○ |
複合的な原因は複数あげているが、対立する原因は併記していない。 |
◎ |
ヒューマンファクターを進めていくと、いずれ組織や体制の問題に言及する状態が出てくると考えられる。そのような問題で具体的に組織とか体制に対して強制力を持って変更のようなことをさせ得て、なおかつ実行のある結果が得られた例はあるか。 |
○ |
航空鉄道事故調査委員会の設置法では、結果・対策のところで「勧告」と「提案」がある。 勧告は重いもので、受けた国土交通大臣はそれを実施したこと、勧告に関してこのような結果になったということを必ず委員会に対して通知しなければならないことになっている。 |
◎ |
今後、海難審判の場合も同じようなことができることになるのか。 |
○ |
海難審判の勧告は、海難の原因に関係あるものに対して行うので相手が違う。
行政処分と再発防止に関して、勧告として固有名詞で名指しをすることによって得るものと失うものがあろうし、更に検討を要すると思われる。 |
◎ |
事故調査における事実認定は、証拠が全部明確であればはっきりするが、ほとんどそうでない、つまり事実を認定しなければならない。さらに海難では、ある意味では飛行機よりも証拠の収集が困難と思われる。生きている関係者からどう聞くか、あるいは誰もいない場合はどうするかといった点はどうか。 |
○ |
全然証拠が出てこないものに関しての事故調査は大変である。証言を聞くときにはこの話がけっして不利にならないということを十分に説明し、何回かやっているうちに本当のことが出てくる。特に直接関係者でない場合には、何回も何回も行くうちにやっと本当のことを話してくれるということが非常に多い。 |
○ |
ボイスレコーダー的発想を船に持ち込むという考え方は始まっており、やがて物証が残るような形をとる方向にある。 |
◎ |
焼津上空で発生したニアミス事故について、新聞の報道では当初の機長から、管制官の刑事責任を追求する方向に変化しているようだが、機長は免責されるか。 |
○ |
免責されないだろうと思われる。事故に至る過程には、管制官であったり、TCASであったり、いろいろな問題があるが、最終的に乗客の安全を守るのは機長の役目である。飛行中に何人ものけが人が出たという責任は、普通の場合は機長にある。 |
◎ |
衝突せず、ニアミスを回避してけが人だけで済んだという点は機長を誉めてもいいという考え方もあるのではないか。 |
○ |
けが人の発生場所の分布はすべて後部であり、「びっくり舵」と呼ぶ操縦をした結果とも考えられる。逃げ方の問題としては、そういう段階になる前に逃げる方法はあったと考えられ、けがをさせてでも逃げなければいけないような舵のとり方は正しいのかという問題がある。フライト・データ・レコーダーの解析をしているが、避けることによって接触を回避したのか、接触の危険が終わってびっくりして操縦桿をとったのか、しっかり決めないと、どちらがいいのかわからない。 |
◎ |
事故を調査する、つまり調査について判断するメンバーとして専門性だけを持った集団がいいのかの問題。海難審判については、調査をするスタッフ、審判をする、最終的な報告書を書くといった連なるメンバーはどういう集団がいいか。また、専門家集団、高い技術性を持つ専門家集団の場合に考えられる弊害といったものはどうか。 |
○ |
航空の場合は、パイロット、整備関係、気象関係、医者等、安全に関するSHELモデルの専門家が集まっている。互いに何回かやっているうちにみんな専門家となる。一方、立場が違うことから分裂状態となったケースもある。
専門が違うと、証拠も利用されるものと利用されないものとが生じるが、証拠に関しては、捨てるということに一番危険性がある。 |
○ |
同じ専門の分野に偏らないことがいいのではないか、いろいろな専門家が多面的に見ることができる構成メンバーが真実に迫る一番良いスタッフではないかとの指摘と理解する。この点については、いろいろ議論があるかと思う、今後更に検討してはどうか。 |
◎ |
海難審判における行政処分がどのように役に立っているのか、そもそも行政処分を何の目的で海難審判の中に入れているのか。 |
○ |
いいと思ってやってきたことが、それが本当にどんな効果が全体の安全の中にあるかということを振り返ってみる必要がある。そろそろいろいろな面において、安全の問題に、イベントベースのやってきた結果がどのくらいの効果があったかということを調べなければならない時代と思う。 |
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国によっても様々である。なぜ懲戒についての規程が、目的にも、任務にも、海難の原因を明らかにするところにも結びついていくのか難しいところである。 |
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いろいろ考えるべき問題である。 |
○ |
罰で安全を担保するという思想があったと思う。本日の講演は、現在では、罰則だけでは不十分で、原因と結果にヒューマンファクターを加えて多面的に改正する必要があるという指摘であったと思う。 |
○ |
現状においては、認識をもっての過失、重過失、さらには保険金目当ての故意の海難も発生しており、それらに対して一定の抑止力になっているということは言えよう。 |
○ |
抑止力はあるにせよ、それだけでは問題で、原因はいろいろあり、安全にウエイトをシフトし、もう少しいろいろ考えた方がいいのではないかという講演の主旨であったと考える。 |
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海難審判制度は名前と歴史がある。ただしそれで十分対応できているかというのが本日の話であった。せっかく事故調査をやるのであれば、今は責任追及よりも防止を考えるべきであろうという問題提起であったと思う。
これからの役所においては、法律ありきではなく、法律なんて必要ないというところから出発したらどうか。国民が必要としているから法律がある。
もうこれは必要ない、陳腐化したというものは捨ててよいのではないか。
審判庁が世の中に役立っためにはどうしたらいいのかという話であり、そこから出発した方が役立つ審判庁になるのではないか。そういうことでこの委員会はスタートしたのであるから、そのためにも大いに勉強してもらいたい。 |
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海難審判の裁決では、見張り不十分を原因として船員を懲戒しているケースが非常に多い。
最近、日本人間工学会で発表された論文に「海上交通におけるヒューマンエラー研究の基礎としてのインフォメーション・キャパシティに関する実験的研究」というのがあり、夜間、船からたくさんの船が見えるという想定で、人間が識別できるのは9隻程度が限度であり、さらにその中の1隻が動いていると人間のインフォメーション・キャパシティは落ちるというデータがある。見張り不十分として懲戒しても、繰り返し繰り返しその種の事故が起こるのは、多分誰がやっても同じ事が起きるだろうという科学的なデータである。
これはまさにヒューマンファクターである。環境側で、人間の視覚情報処理能力の限界をシステムでサポートする必要があり、これをやらない限り見張り不十分は繰り返される。
この種の研究がもっと日本で増えることを期待したい。また、こうした専門的に扱う学問をする人と連携する必要がある。 |