2.3 配電装置
2.3.1 配電方式の選定
発電機によって発生した電力は配電盤に送られ、遮断器又はヒューズを通して配電盤から直接又は区分電箱を経て負荷に配電される。
配電方式の選定には、その系統の用途と重要度並びに経済性を重視し、次の諸点に留意する必要がある。
(1)電力の供給が持続的であり、信頼度が高いこと。
(2)安全であること。
(3)操作が簡単であり、かつ容易であること。
(4)回路の故障時には、他の健全な回路に悪影響を及ぼすことなく、直ちに故障回路を分離できること。
配電方式の形態には樹枝状式と環状式の2種類がある。樹枝状配電方式は図2.2.9に示すように母線から配電線が樹枝状に分布している方式であり小型船を含む一般船舶に採用されている。
図2.2.9 樹枝状配電方式
環状配電方式は、母線を環状に配置し、その間に断路器や補助配電盤などを適当に配置して、これにより給電する方式である。この方式は樹枝状配電方式に較べて信頼度が高く、また電圧変動や電力損失が少ないことから大型の旅客船や艦艇などに採用されている。
配電盤とは、発電機の発生電力を船内の電気設備に給電する目的で、電路の開閉・監視・制御及び保護を行うものをいう。小型船の場合は、主に壁掛け型又は埋込み型が使用されている。参考として、図2.2.10にこれらの例を示す。
配電盤は発電機や負荷の容量等によりその仕様が決定されるが、その構造等については下記の諸点に留意しなければならない。
(1)盤材料はエボナイト、鋼板等難燃性で非吸湿性のものとする。難熱処理及び非吸湿性の処理をした合板は盤材料として使用できる。
図2.2.10 配電盤の例
(2)配電盤には少なくとも次表の計器及び保護装置を備え、監視及び操作が容易なように配置すること。
発電機の種別 |
計器類 |
保護装置 |
直流発電機 |
電圧計 |
自動遮断器 |
交流発電機 |
電圧計 |
自動遮断器 |
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注) |
1 充電専用の発電機にあっては、充放電の状態を確認できるものでもよい。 |
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2 回路の電流を自動的に遮断できる装置としてはヒューズでも良いが、海上という条件からMCCBの方が好ましい。 |
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3 必要に応じて電流計を備えること。 |
(3)振動、衝撃に対して十分考慮すること。
(4)ケーブル引込み口や端子盤の位置は艤装が容易なように考慮すること。
(5)特別な場合を除き、感電防止の点からデッドフロント型とすることが望ましい。
(6)定格電圧が35Vを超える配電盤にあっては取扱者の保護のため、配電盤の前後及び床面に絶縁マット、手すり等の感電防止のための措置を施さなければならない。
配電回路の過電流保護として前述のように自動遮断器又はヒューズを配電盤に備えなければならない。
船内配電系統における過電流保護装置の使命は、船内の電気設備(電気機器及び電路)を、短絡を含むすべての過電流に対し保護することであって、これらの保護装置は故障回路を遮断し、回路の損傷と火災の危険を除くとともに、他の回路をでき得る限り連続して使用し得るものでなければならない。
そのため、船内配電系統の保護方式並びに保護装置の選定にあたり、それぞれ保護すべき電気機器や電路の過電流特性(過負荷及び短絡電流特性)に対して適切なものでなければならない。船の航行及び人命の安全の立場から単に故障回路を切り離すだけでなく、特に船内の重要負荷に対しては、それらの回路への給電の持続性を考慮し、保護装置相互間の協調により切り離す回路を故障回路だけに局限するような保護方式、即ち、“選択遮断保護方式”を採用することが望ましい。
選択保護方式とは、系統の電気機器又は電路の異常あるいは故障によってその回路に過電流や短絡電流が流れたとき、故障回路に直接関係のある回路だけを系統から切り離し、他の健全な回路への給電が停止されないよう、保護装置相互間で協調のとれた保護方式のことである。
図2.2.11のような配電系統で、下位保護装置B2の負荷側F点から短絡等の故障が発生したとき、過電流は電源から上位保護装置B1下位保護装置B2を通ってF点に流れ込むが、この過電流によってF点に最も近い保護装置B2だけが動作して故障回路を切り離すようにすれば、上位保護装置B1は遮断に至らず、したがって、他の健全な回路B3、B4への事故の波及を防ぎ、停電の範囲を必要最小限に留めることができる。
図2.2.11 保護装置のカスケード接続
保護装置相互間の協調は、特に選択保護方式を採用する場合に問題となる。
図2.2.11の配電系統においてF点で短絡等の過電流が流れたとき、下位保護装置B2の遮断器のみを動作させるためには図2.2.12に示すA、B、Cのごとく電源側に近い方(上位保護装置)の遮断器の電流対時間特性は、必らず給電回路の負荷側(下位保護装置)にある遮断器より長限時側、すなわち図において右側にあり、その特性曲線は交わらないような遮断器を選定しなければならない。
例えば、図2.2.12において、下位保護装置がCの特性の遮断器の場合は、上位保護装置にはA又はBの特性の遮断器を採用する。
図2.2.12 電流対時間特性曲線
保護装置の組合せにおける保護協調特性の例を図2.2.13及び図2.2.14に示す。
図2.2.13 MCCBとMCBBの選択保護
図2.2.14 MCCBとヒューズの選択保護
優先遮断方式は船内の重要回路への給電の持続を確保するため、発電機が過負荷状態となった場合、重要でない負荷への給電を自動的に切離し、発電機の負荷状態をその定格出力以下に戻す方式である。
優先遮断方式の実行は、重要負荷と非重要負荷を適当な群に分けておいて、発電機回路に設けられた過電流継電器によって発電機の過負荷状態を検出し、船内の非重要負荷への給電用の遮断器を遮断させる。
重要負荷としては、小型船舶安全規則及び小型漁船安全規則に規定されている「小型船舶の推進、排水その他の安全性に直接関係のある補助設備」としての次の設備を考慮しておくとよい。
(a)冷却水ポンプ、潤滑油ポンプ、燃料油移送用ポンプ、空気圧縮機等推進機関の運転に直接又は間接的に関係のある設備
(b)セルモーター
(c)操だ設備
(d)ビルジポンプ
(e)船灯
(f)揚錨設備
(g)係船設備
(h)無線設備
発電機は、自動遮断器又はヒューズ付スイッチによって過負荷保護を行うこと。
動力及び照明用変圧器の一次側は、配線用遮断器(MCCB)又はヒューズによって過負荷保護を行うこと。
小型電気機器を除き電動機には配線用遮断器(MCCB)又はヒューズによって過負荷保護を行うこと。
機関始動用の蓄電池を除き蓄電池には、配線用遮断器(MCCB)又はヒューズによって過負荷保護を行うこと。
配電盤から電力を受けて、さらに分岐して直接負荷に給電する盤で、一般にスイッチパネルと称されている。
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