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(2)蓄電池の定格電圧
 蓄電池の定格電圧は一般に12Vと24Vが採用される。小型船の場合、この定格電圧の決定は、搭載される主機が電気始動方式であることが多いことから、これに使用される始動用電動機の電圧に合わされるのが普通である。小型船に使用される直流電気機器には、12V及び24Vの両仕様がおおむね準備されており、特殊な場合を除いていずれかに統一又はいずれか一方を主として他を従とする関係で選択することが可能である。
 もし12V及び24Vを併用する場合であっても、直列に結線された2個の12V(計24V)の蓄電池の一方から12Vを取り出すことは、蓄電池の片減りを起こす基となるので避けるべきである。必ず別系統を設けるか、コンバータにより変換して使用しなければならない。
 主機始動用電動機の蓄電池の容量については、小型船舶安全規則第33条(始動装置)第4項及びJCI細則、並びに小型漁船安全規則第19条(機関に関しての小型船舶安全規則の準用)JCI細則により、再充電しない状態での始動可能回数が自己逆転機関及び可変ピッチプロペラを有する船舶の内燃機関にあっては、1機1軸の場合は6回以上、2機2軸の場合は9回以上とすると規定されているのでこれに従って決定されなければならない。また、可能な限り一般電源用の蓄電池と別にすることが望ましいが、需要電力の少ない小型船にあっては共用されていることが多い。特に船の安全面から考えて、主機を2基以上搭載する場合は主機毎に専用の蓄電池を備えることが望ましい。
 主機始動用電動機以外の用途として装備される蓄電池の所要需要電力の計算にあたっては、発電機の電圧喪失等の非常時での給電時間など、事前にその起こり得る可能性を十分考慮した上で計算しておく必要がある。
 従来から行われている蓄電池容量計算を、表2.2.1にその計算例として示す。この計算例は限定沿海区域を航行区域とする小型船舶で直流発電機を備えるものである。この容量計算にあたっての動作時間の設定は、法的に規制のある場合はその時間、規制のない場合は使用実態に合わせて十分な余裕を持った状態で設定されなければならない。なお、運行時間の特に短いか又はたまにしか運行されない船(レジャーボート等)は陸上での車と同様蓄電池の自然放電が心配される。この点の心配をある程度補うため、太陽電池による充電システムをサブシステムとして併用することは大変有効な方法である。
 
表2.2.1 蓄電池容量計算(例)
設備名 員数 出力W 電流A 合計電流A 動作時間h 所要容量Ah 備考
電池灯 10 40 1.67 16.70 3 50.10  
1 30 1.25 1.25 3 3.75  
6 20 0.83 4.98 3 14.94  
6 10 0.42 2.52 3 7.56  
航海灯 5 20 0.83 4.15 6 24.9  
拡声装置 1 60 2.50 2.50 1 2.50  
電子ホーン 1 60 2.50 2.50 0.5 1.25  
船舶電話 1 80 3.33 3.33 0.5 1.67  
ワイパー 1 80 3.33 3.33 1 3.33  
合計(Ah) 110Ah
蓄電池 鉛式24V 200Ah×2群
 
 小型船舶安全規則第85条(発電設備)、小型漁船安全規則第43条(電気設備についての小型船舶安全規則の準用)及びJCI細則により、限定沿海区域又は平水区域を航行する小型船舶を除くすべての小型船舶及び小型漁船は、充電装置付きの発電機及び蓄電池の備付けが義務付けられている。しかし、安全上限定沿海区域又は平水区域を航行する小型船舶でも同様に備えつけることが望ましい。
 また蓄電池へ充電する場合は、小型船舶安全規則第91条及び小型漁船安全規則第43条(電気設備についての小型船舶安全規則の準用)により、逆流防止装置の備え付けが義務付けられている。
 一般的な充電方式としては、浮動充電方式又は交互充電方式が採用されている。
(a)浮動充電方式
 浮動充電方式は、蓄電池及び充電用機器を各負荷と並列に接続する充電方式である。
 充電に際し、蓄電池が良好な充電状態を維持するため、蓄電池には蓄電池電圧より少し高い電圧を加え常時微少充電電流(10時間率で0.3〜1%程度の電流)を流し、常に充電状態とする。
 浮動充電は、常時蓄電池が満充電の状態を保持しているので、電源の喪失時等でも各負荷に対し必要な電力を連続して供給することができる。
 しかし、この方式は均等充電時に蓄電池の端子電圧が定格電圧より高くなるので、そのままでは負荷に悪影響を与える危険があるため、負荷への供給電圧を定格値に保つように電圧を降下させる目的でレギュレーター付きの充電器が使用される(図2.2.5参照)。小型船では、この充電方式が広く採用されている。
 
図2.2.5 浮動充電回路例
 
(b)交互充放電方式
 2群の蓄電池のうち1群を充電している間、他の1群で負荷に給電する方式で2群の蓄電池は充電、放電の切換が可能となっている。(図2.2.6参照)
 
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図2.2.6 交互充放電回路例
 
 船舶で使われる蓄電池は、前述のようにほとんどが鉛蓄電池であり、その放電特性と充電特性は図2.2.7及び図2.2.8のとおりである。
 放電中、電解液密度は、図2.2.7のように放電量に比例して直線的に降下する。
 全充電時の電解液密度は始動用鉛蓄電池(JIS D 5301:99)の場合、1.28±0.01(20℃)(船用鉛蓄電池(JIS F 8101:92)の場合1.24±0.01(20℃)である。
 放電された蓄電池は、充電によってもとの状態にもどるが充電時の電圧の変化は、図2.2.8のように13V付近まで徐々にあがりその後は急激に単電池あたり2.75〜2.95Vに達し、密度は1.28付近の一定値を示す。
 電圧の上昇が止まったとき(図2.2.8の13h付近)を充電完了のときとみなしてよい。
 
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図2.2.7 始動用鉛蓄電池の放電特性
 
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図2.2.8 始動用鉛蓄電池の充電特性







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