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3 実船の操縦性能の簡易推定法
 操縦性能推定法としては、いわゆる数学モデルによる推定法が一般的であるが、多くの操縦微係数を精度良く推定する必要がある。一方、基準の適合性のみを判断するのであれば、基準で定められた指標[1]を直接簡単に計算できれば便利である。本章ではそうした視点から、精度よりむしろ船の主要寸法等から簡単に操縦性基準で定められた指標を推定する方法について検討を行った。
 本章で示す推定法は、操縦運動方程式から求められる針路判定の判別式および旋回力の指数から得られるパラメータを利用して回帰式を作成し、Z 試験のオーバーシュート角や旋回試験におけるアドバンスやタクティカルダイアメータを推定する方法である。回帰式中のパラメータには操縦微係数、フレームライン影響を表す変数、操縦運動の影響を考慮した舵力を表す変数を含むが、操縦微係数の推定には井上の推定式[2]を用いているため、いずれのパラメータも初期設計段階で用いられる主要目等から求めることができる。また、推定式の物理的な意味もかなり明瞭である。
 
 満載状態における操縦性指標の推定式の導出過程の詳細については、文献[3] において公表されているので、ここでは推定式のみを示す。
 まず、10°/10°Z試験における第1オーバーシュート角ψ10−1、第2オーバーシュート角ψ10−2、20°/20°Z試験における第1オーバーシュート角ψ20−1、10°/10°Z試験において舵角を10°取ったときに初期方位から10°変針するまでの船舶の航走距離STの推定式は次式のように表される。
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 また、アドバンスADおよびタクティカルダイアメータTDの推定式については、次式で与えられる。
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 ここで、b0〜b6は各性能指標ごとに異なる値をとる係数、Y'ν、Y'r、N'ν、 N'r井上の推定式[2]から求められる操縦微係数である。また、Δ=(m'm'y)(I'zzi'zz)であり、m'yは船体固定座標系y軸方向の付加質量の無次元値、I'zz、i'zzは鉛直軸まわりの慣性モーメントおよび付加慣性モーメントの無次元値である。γは整流係数、l'Rは船舶の重心から舵までの距離であり、それぞれ次式で与えられる。
 
γ=1−aγσal'Ral0al1σa (3.3)
 
 ここで、aγ、al0、al1は実験係数、σaは(2.7)式で定義されているものと同じ係数である。さらに、l'νN'ν/Y'νであり、CYRは舵の直圧力である。
 
 1998 年までに収集した実船の満載状態における操縦性試験結果から求めた(3.1)式および(3.2)式中の係数を相関係数とともに表3.1に示す。また、推定値と計測値の比較を図3.1に示す。図中の点線は推定値からの標準誤差(Standard Error)の値だけ上下させた値である。図3.1を見ると全般的には各性能の指標がほぼ推定できていることが分かる。
 
表3.1 簡易推定法における相関係数および簡易推定式の係数
Item Turning Ability Initial Turning Ability Course Keeping Ability & Yaw Checking Ability
Test Turning 10°/ 10° Zig-zag Manoeuvre 20°/ 20° Zig-zag Manoeuvre
Index Advance / L Tactical Diameter / L Track Reach/L 1st Overshoot Angle (deg.) 2nd Overshoot Angle (deg.) 1st Overshoot Angle (deg.)
Coefficient of Correlation 0.657 0.718 0.668 0.785 0.815 0.837
Standard Error 0.211 0.288 0.163 3.337 7.022 2.493
Observed Data 30 30 25 25 25 21
Number of Parameters 3 3 5 5 5 5
b0 6.288 0.356 -0.425 109.824 129.985 54.325
b1 0.112 1.761 -0.456 6.965 -14.023 -1.063
b2 0.290 1.185 4.958 -119.877 -160.810 -59.357
b3 4.096 -2.599 1.152 4.466 -14.474 -13.994
b4 - - 1.638 -76.321 -63.442 -24.287
b5 - - -5.719 197.039 127.863 27.173
 
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図3.1 実船試験の計測値と推定値の比較







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