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2 操縦性能の推定精度向上
 船の操縦性能を推定する方法としては、過去の船のデータを基に推定する方法、模型実験に基づく方法等が考えられるが、最も有効なそして実用的な方法としてシミュレーション計算による方法があげられる。このシミュレーション計算による方法では、操縦運動時の船体に作用する流体力(操縦流体力)を如何に精度よく推定するかが基本となる。操縦流体力の推定には、一般にデータベースによる方法、模型実験による方法、そして理論計算による方法があるが、その何れも利点、欠点がある。例えばデータベースによる方法では、そのデータの母集団の中に設計しようとしている船型と類似のものがあれば、比較的容易に性能を推定することが出来るが、その母集団の中に存在しない新しい船型の場合には推定が困難になる。また模型船による方法では試験水槽の制約を受けたり、模型船の製作費用・実験工数等を考えると時間と費用の面から得策ではない等々のデメリットが数多く存在する。しかも設計の段階で船型が決まり、その船型に従って操縦性能を推定する場合、出来るだけ簡便で短時間に精度よくその性能を求めることが要求される。
 このような観点から、操縦流体力の推定精度の向上を図り、さらに船体・プロペラ・舵相互の干渉を表わす諸係数等を簡便に推定する方法について検討を行うことにより、操縦運動特性を実用的な見地から充分な精度で、簡便に推定するための方法について検討を行った結果について述べる。
 
 図2.1に示す座標系において、無次元化された操縦運動方程式は次式のように表される。
図2.1座標系
 
ここで、
 
m'、m'x、m'y:船舶の質量およびx、y軸方向の付加質量の無次元値
I'zz、i'zz:船舶の慣性モーメントおよび付加慣性モーメントの無次元値
L、U、β、r':船長、船速、偏角、回頭角速度の無次元値
X'、Y'、N':外力のx、y軸方向成分およびヨーモーメントの無次元値
 
ただし、(2.1)式の無次元化は次式に従う。
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ここで、dは吃水、ρは流体の密度である。また、(2.1)式に示した操縦運動方程式における右辺の外力項X'、Y'、N'については、以下に示す表現を用いて数学モデルを構成する。
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ただし、添字“H”は主船体、“P”はプロペラ、“R”は舵をそれぞれ表わすものとする。船体に作用する横力Y'Hおよび回頭モーメントN'Hについては、次式の表現を採用する。
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ここで、Y'β'、Y'r'、・・・、N'βrr等は操縦流体力微係数である。(2.3)式右辺のその他の項の詳細については、文献[1]に詳しく示されている通りであるので、ここでは詳細な説明は省略する。
 
 前節に示した操縦運動方程式に基づいたシミュレーション計算により、操縦性能の推定を行う場合、流体力微係数等については模型実験等により計測された値を適用することもできるが、設計段階で簡便に推定するためには各微係数に対する近似式を用いて求める方法が最も実用的であるため、文献[1]に示された操縦流体力微係数の近似式を応用して、操縦流体力の表現の違いにより操縦性能推定精度がどのように異なるかについて検討する。
 主船体に働く横力および回頭モーメントの表現は(2.4)式に従うこととし、この式中の各流体力微係数の表現を二つのタイプに分け、それぞれType A、Type B とする。
 
 Type A は主船体に作用する流体力表現に関して、主要目だけではなく、次式に示すように船尾形状の変化も考慮した表現になっている。
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ここで、Bは船幅、k=2d/Lである。また、(2.6)式中のσa等は次式の定義に従う。
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ここで、Cpa、Cwaは船尾部における柱形係数および水線面積係数である。
 
 Type Bは主要目のみで主船体に働く流体力を表現する。
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 表2.1に示した実際に存在する4船型の各模型船に対して実施した舵角35°の旋回運動のシミュレーション計算による旋回航跡と運動要素の時系列を図2.2図2.9に示す。図中には模型試験による計測結果も合わせて示している。また、図2.10図2.13には、10°/10°および20°/20°Zigzag運動のシミュレーション計算結果により得られた舵角δと回頭角ψの時系列を示している。Zigzag運動については実験結果がないため、Type AとType Bに対するシミュレーション計算結果のみを示している。
 
表2.1 主要目一覧
  Ship A Ship B Ship C Ship D
Type Container Cargo VLCC Cargo
L (m) 3.0 2.5 2.5 2.5
B (m) 0.435 0.4194 0.4355 0.4082
d (m) 0.1629 0.1403 0.1573 0.1714
Cb 0.5717 0.6978 0.8023 0.7727
 
 船尾形状変化を考慮した操縦微係数を用いることにより操縦流体力の推定精度の向上を図り、操縦運動特性を実用的な見地から充分な精度で、簡便に推定するための方法について検討を行った。
 検討対象船として4隻の船舶を選び、船尾形状等の船型要素を十分に考慮した操縦流体力微係数の近似式を用いてシミュレーション計算を実施し、模型試験による計測結果との比較を行った結果、実用的な見地から充分な精度で、船舶の操縦性能を簡便に推定することが可能であろうと考えられる。
 
参照文献
[1]貴島勝郎、名切恭昭:船尾形状を考慮した操縦流体力の近似的表現、西部造船会々報、第98号(1999)







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