1 緒言
航行の安全性確保および海難事故防止の観点から、極端に操縦性能の劣る船を排除することを目的に、IMOでは設計設備小委員会(DE小委員会)において船舶の操縦性問題の検討が進められ、1993年にIMO操縦性暫定基準A.751(18)が採択された。この暫定基準は当初5年間の暫定期間を設け、各国でその内容について調査検討が進められてきた。
我が国でも運輸省指導の下、日本造船研究協会RR74操縦性ワーキンググループにおいて、その基準の適用性、妥当性そして問題点について精力的な調査・検討が実施された。我が国で建造された300隻近くの船舶の海上試験結果等多数のデータを収集し、これらを基に暫定基準値と比較検討することにより、幾つかの問題点を指摘した。即ち、10°/10°Z試験のsecond overshoot angleおよび20°/20°Z試験のfirst overshoot angleの基準値が不合理であることを明らかにした。また、停止性能についても、特に大型船に関する停止距離について見直す必要のあることも指摘した。
このことより我が国は運輸省の強力な活動により、平成11年5月開催のIMO海上安全委員会(MSC)において暫定基準に対する我が国の見直し請求案が承認され、平成13年3月開催のIMO第44回DE小委員会において見直しの審議が再開された。当初5年間の暫定期間とされたものが、結局8年間が経過してDE小委員会での審議再開となった。
本ワーキンググループでは、計測精度の高い、比較的信頼のおける実船の海上試験データの収集を行い、基準値そのものの検討をはじめ、実際に操縦性基準が適用される場合のことを考慮して、設計段階で操縦性を推定する実用的な手法の確立、さらに実際の海上試験の計測に関して風・波等の海象・気象状態による外乱影響およびその修正法等について検討を重ねてきた。
IMO、DE小委員会では、第44回より第45回の実質2回の審議により暫定基準の見直しの審議が行われた。我が国からは10°/10°Z試験のsecond overshoot angleおよび停止性能に関して、特に大型船の場合を考慮して主機特性を取り入れた修正案を提案した。種々の議論の結果、先のIMO第76回MSCにおいて、我が国の提案を取り入れた内容に修正され、“IMOResolution MSC.137(76)Standards for Ship Manoeuvrability”として採択された。但し停止性能については我が国提案は承認されず、暫定基準のまま残されることになった。
本成果報告書は主として平成11年度より平成14年度の調査研究の成果をまとめたものである。
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