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第1部総括
川野 重任
(APDA理事・東京大学名誉教授・文化功労者)
 
 第1部のモデレーターとして全く無力であることを最初にお詫びしておかねばなりません。それは人口問題におよそ2つの局面があります。生物的存在としての人間の問題と社会的存在としてのそれです。第1部の主題は前者の生物的存在としての人間の問題であり、私として従来全くと言ってよいほど不勉強の領域だからです。
 
 したがって、教えられること多大であり、一々、目から鱗の落ちる思いでした。全体としての印象は地球上、生物の存在し存続し得る領域は極めて小さい。その中で人間は他の生物群を犠牲にし、環境を犠牲にし、資源を貪欲に利用、消費して今日、世界人口60億というところまで増えてきた。この人口増加の結果、今や砂漠化防止、森林荒廃の防止、温暖化の防止など、特に環境改善、その悪化防止については全世界が力を合わせて努力しなければならない事態にまで立ち至ったということです。
 
 食料資源についても技術改良への期待はあるにしても、水、土地利用の将来の可能性については極めて厳しいものがあると承りました。総じて地球人口の収容能力の将来については厳しい限界を考えなければならないという総括的な意見として拝聴いたしました。
 
 ただ社会的存在としての人間、その意味で人口問題の現況からすると、途上国の人口が激増しつつある反面、所得の高い、いわゆる先進国の人口の増加は停滞ないし、漸減しつつあるという現状があります。これは食料不足や環境汚染が原因ではありません。食料を十分に摂取できる関係にあるにもかかわらず、そうなのです。その原因・理由をどう考えるかが問題です。
 
 過去において、また現在でも低所得国、途上国の場合は、食料や資源利用の可能性がその増加、存立のいわば決定的条件となっているとしても、一定の所得水準に達した人間の場合には、何かその他の条件が、その増加、存立の決定的条件になるのではないか、という疑問が出てきます。
 
 そうすると当面、60億を超え、70億、80億に達するとされる人口にしても、その過程で所得水準があるところまで高まれば、その理由でその人口増加も停滞ないし、漸減に至るのかという疑問も出てきます。そういう意味で第2部では、この第1部のご報告を受けて社会的存在としての人口の存立、存在の条件が論議されるのかと思っています。
 
 私見としての人口観は、人間は食料なくしては存立、存続し得ないし、またそれが増加の条件にもなりますが、同時にそれに先立つ出生の条件そのものが所得水準の上昇その他の条件とともに変わってくるのではないか、そしてそれを特に現在の日本の少子化問題に関連して考えざるを得ないのではないかということです。
 
 晩婚、離婚率の高さ、産児の少なさ、それは決して直接的に資源関連の問題ではなく、基本となる男女の関係が変わってきたことに起因します。極言すればお互いに関心、あこがれを持ち合う男女間の人間関係が消失し、すべて、いわば中性人口になったことがこの減少を生み出しているのではないでしょうか。
 私見ではありますが、昔は「あこがれ」に出発した結婚の結果として、子供はいわば「生まれる」ものでした。それが今や意図的に「つくる、つくられる」ものとなったと言います。青年期の性的な交流が自由になったことで男女間の距離が失われ、結婚にかける夢がなくなっています。これでは出生率の低下は当然ですし、人口減は当然です。
 
 そしてこれは、戦後の無定見な、特に公立学校を中心として男女混合教育、マゼコゼ教育がその根源となっているのではないでしょうか。現在、かろうじて私学の伝統的教育体制でいくらか救われている面がありますが、それさえも国は制限し、解消させようとしています。この教育体制を出発点として今や日本では人口抑制、出生率抑制の強大な社会的実験が行われつつあるというのが私見です。
 
広瀬:
 第2部「人口問題とは何か−医学、社会構造、生命倫理の視点から−人類社会の未来」は2時10分からこの場所で開催いたします。どうしても、午後のセッションに出席できない方がいらっしゃいましたら、皆様のこのお手元のアンケート用紙にご意見をお書きいただき、受付でお渡しいただきますと、国連人口基金のご厚意でいただきました「人口モニター」を全員にもれなく贈呈させていただきます。
 「人口モニター」はボタンを押しますと世界の人口がリアルタイムで出てくるものです。先程、私がちょっとテストをして、12時40分から2分間押してみましたら、世界中で301名増えていました。機械による計算ですので若干誤差が出るかもしれませんが、世界人口や各国の人口が刻々とリアルタイムで出てくる便利な機械です。どうぞ、午後も皆さんのご参加をお待ちしています。ありがとうございました。







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