3.3 電気防食法
1)流電陽極法と外部電源法の2法があるが、一般には流電陽極法が用いられる。
2)アルミニウム合金船体は、海水中でアルミより自然電位の高い鋼、銅合金、或いはSUS製のシャフト、プロペラ、舵等と電気的に接触しているため腐食を起こす。之を防ぐため、アルミより低電位の金属を船体に取付け、之を身代わりとして腐食させる。之が流電陽極法である。身代わり(犠牲)となる陽極には亜鉛(Zn)又はアルミ合金(Al−Zn−In計)を使用する。(図3−4及び図3−5参照)
3)船体に取付ける陽極板の所要数の計算には色々の経験式があるが、後掲のSR 172報告書をベースとした「アルミニウム合金製船殻工作標準」の算式が適当である。
4)外部電源方式は官公庁船等に採用されている。この方式では消耗陽極板はなく、非消耗電極を通じて防食電流が強制的に流される。
5)流電陽極法実施上の注意点(図3−6)
(1)陽極板は主として船体後半部の舵、プロペラ、シャフト付近及びトランサムに設ける。又、シーチェストにも設ける。
(2)陽極板の表面には塗装しないこと。逆に取付部外板は十分に塗装すること。
(3)上架毎に陽極板の減り具合をチェックすること。
(4)長期係留の場合には吊下げ用陽極板を増設することが望ましい。
(5)適当時期毎に船体電位計測を行うことが望ましい。
(6)船内電気配線の絶縁チェックを時々行うこと。
(7)海上での現場溶接工事の場合、溶接機のアース取りに注意すること(流電陽極法には限らないが)。
6)金属の自然電極電位
金属の自然電極電位
区分 |
材料 |
自然電極電位(V) (飽和カルメル電極基準) |
シャフト |
ステレス鋼(SUS 304) |
+0.1〜−0.1 |
プロペラ |
アルミニウム青銅鋳物 |
-0.2〜−0.27 |
舵、船尾金物など |
ステンレス鋼、圧延鋼材 |
−0.45〜−0.65 |
船体 |
5083,5052など |
−0.67〜−0.80 |
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7)防食陽極金属の所要量の算出基準
陽極金属の所要量は下記の式により求める。
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LWS W 8101 による |
ここに、 |
W: |
陽極の合計質量(kg) |
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w1: |
使用陽極の単位質量(kg)(芯金の質量を含まず) |
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n: |
所要陽極数(個) |
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Ii: |
計画防食電流密度(mA/m2)で材質ごとに次の値 |
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没水部アルミニウム合金船体(塗装部):5 アルミブロンズ(A1BC3)(裸):300 ステンレス鋼(裸):200 軟鋼系及び鍛鋼系など(裸):100 |
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Ai: |
Iiに対する防食対象部材の表面積(m2) |
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L: |
陽極の耐用寿命(年) |
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C: |
陽極の有効電気量(AH/kg)で下記の値 |
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亜鉛陽極:780 アルミニウム陽極:2300 |
3.4 異種金属の接触腐食の概念
3.4.1 海水中での異種貴族の接触腐食の機構(図3−7参照)
異種金属の接触腐食は次の条件がなければ起こらない。
a)異種金属の接続
b)水の存在
c)電解質の存在
アルミニウム合金と、それより電位の高い金属、例えば軟鋼を金属線で結んで海水(塩化物が溶存、電導性が良い)に浸すと、電位の高い軟鋼から電位の低いアルミニウム合金の方へ電流が流れる。之を腐食電流と云う。この時逆に電子(e-)はアルミ合金から軟鋼の方へ流れ、アルミニウムはイオンとなって海水中に溶出して腐食する。
この場合の低電位の極(アルミ)を陽極、高電位の極(軟鋼)を陰極と云う。
この原理を利用して船体にアルミ合金よりも低電位の亜鉛陽極を取付け、船体を防食するのが流電陽極防食法である。
3.4.2 腐食電池作用の概念図(図3−8参照)
今、軟鋼等アルミニウム合金より電位の高い金属(陰極)と、アルミニウム合金等それより電位の低い金属(陽極)の電位を、それぞれEc及びEAとする。
両者を結ぶと陰極の電位は陽極の電位に近づいて来るが(これを分極と云う)、回路抵抗があるためRI(抵抗×電流)相当の電位差のところでバランスする(自然腐食状態)。実際にはR(抵抗)は非常に小さいから、E=E’と考えて良い。この時に流れる電流を腐食電流と云う。
この状態でアルミ合金の腐食を止めるには、別にアルミより電位の低い金属(亜鉛等)を設けて、アルミ合金を陰極側にシフトし、別金属を陽極とするような電位差を与えてやれば良い。
このようにするとEcの電位はE(≒E’)から更にE”の方に下がる(分極)とともに、EAの電位は逆にEからEAの方向に復極され、遂にE”=EAに達するとアルミの腐食電流は零となり、腐食は止まる。
この時に必要な電流が防食電流(I+i)であり、その時の電位が防食電位である。
この別金属(犠牲陽極)の代わりに非消耗電極を設け、これから腐食電流相当の電流を流す方式のものが外部電源方式である。
図3−7 海水中での異種金属の接触腐食の機構
図3−8 腐食電池作用の概念図
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