8. 構造基準の骨部材に対する前提荷重条件
軽構造船暫定基準やアルミニウム合金製漁船構造基準(案)では、荷重の形式の外に各主要部材の端部固着条件をそれぞれ規定しており、従ってこの規定乃至前提に合致した端部固着条件で設計されなければ所要断面係数の要求式を適用することはできない。
一方、高速船構造基準では、このような各主要部材に対する箇々の規定はなく一般式のみ定め、要求断面係数は端部境界条件係数で処理するようにしてをり、条件は設計者の選択に任されている。
前者の場合、もし設計者が基準の前提に気付かずに、それとは異なる設計を行うことがあると大きな問題を生じかねない。
図8−1は、軽構造船暫定基準及びアルミニウム合金製漁船構造基準(案)の骨材の前提荷重条件を確認するため参考用にまとめたものである。
図8−1 各構造基準の骨材前提荷重条件
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図8−1を見ると、高速艇を出発点として作られた暫定基準と、小型鋼製漁船構造基準を下敷きとして作られたアルミニウム合金製漁船構造基準(案)では構造に関する考え方が異なるのが判る(塑性/弾性設計の差は別として)。
例えば、縦構造方式での両者のトランスリングの取合い条件を比較して見ると下表のようになる。
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暫定基準 |
アルミ漁船基準 |
船底肋板 (特設肋骨) |
中心線縦桁で固定 |
〃〃固定 |
チャイン部で支持 |
〃〃固定 |
船側横肋骨 (特設横置肋骨) |
チャイン部で固定 |
〃〃固定 |
ガンネル部で支持 |
〃〃固定 |
甲板横置ビーム (甲板横桁) |
ガンネル部で支持 |
〃〃固定 |
船体中心線で支持 |
〃〃固定 |
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6−3)でも述べたように、高速船構造基準では、固定とは「当該部材に隣接する桁部材の寸法(断面積、断面係数、断面2次モーメント)が当該部材より大きい場合をいう」としてをり、技術的にもまたこれが常識的と考えられる。一方、実際の設計では船側横肋骨は船底肋板より寸法が小さいのが普通であるから、アルミ漁船構造基準(案)の規定は実際とは乖離してをり、暫定基準の方が適切であるということもできる。
即ち、アルミニウム合金製漁船構造基準(案)によって設計する場合には、トランスリングの各取合い部は全て固定端であることを前提としていることを良く知って置かねばならない。
〈補足〉船底肋板(縦構造方式)の固着条件による曲げモーメントの変化
アルミ漁船基準(案)では固−固であるから、最大曲げモーメントは両固定端即ち中心線縦桁とチャイン部に生じ、その値はw1/12となり、スパンの中央部ではw1/24となる。然し実際の設計で船側横肋骨の寸法を船底肋板より著しく小さくすると両端固定とはならず、暫定基準のようにチャイン部で支持された固−支の場合に近くなる。固−支の場合、中心線縦桁部の曲げモーメントはw1/12から最大w1/8まで増加し、スパン部分での極大値は9w1/128となる。前者は固−固の場合の1.5倍、後者は約1.7倍である。従って基準(ルール)の背景を知らないと設計ミスを犯し、強度不足を招くことになる。
9. 傾斜した板付骨材の断面係数低下率
右図のように、例えば大きな船底勾配を持つ外板に船底縦通肋骨を取付ける場合、BLに垂直、即ち外板とは傾斜させて取付けるとその板付き断面係数が減少するので、その減少分を加算した部材寸法としなければならない。
(備考)
アルミニウム合金製漁船構造基準(案)の解説の(110)−船首尾部の肋骨等−の項では、「−外板に直角に取付け難い部材であって、その角度が70°より小さくなる場合には、−−断面係数の値を角度に応じて増すようにしなければならない」としている。
骨材の取付傾斜角度と断面係数の減少率についての計算例を右図に示す。
従って傾斜取付とする場合には、その採用値は
採用断面係数=ルール値/減少率
としなければならない。
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なお、参考用として、板の傾斜した軸に対する断面二次モーメントの計算式を示す。本式は縦強度計算時に傾斜した船底外板の自軸周りの断面二次モーメントの計算に用いられるが、上記の傾斜した骨材の自軸周りの計算にも利用できる。
i=1/12×b3×t×sin2θ+1/12×b×b3×cos2θ
10. 肋板を支持する船底側桁
軽構造船暫定基準にもアルミニウム合金製漁船構造基準(案)にも、船底肋板を支持する船底側桁の断面係数規定はない。ただ、前者には横肋骨方式の項に、後者には縦横両方式の項にそれぞれ船底側桁の規定はあるが、これらは肋板の倒れ止めの目的のもので、これにより肋板を支持するとみなすことはできない。従ってこの場合、肋板のスパンは中心線縦桁〜チャイン間の長さを採らねばならない。
然しこのスパンが大きくなると肋板の深さが過大となり、色々な面で不利となるから、有効な側桁を中間に設けて肋板の寸法を減らすことが得策である。
●肋板を支持する船底側桁の断面係数の算定(アルミニウム合金製漁船構造基準(案)ベース)
本項はもともとアルミニウム合金製漁船構造基準(案)の原案にはあったが、成案からは除かれている。
肋板と船底側桁は中心線縦桁の場合と同じような相持ち構造と考え、側桁は肋板から受ける集中荷重を前後の肋板に伝えるものとし、側桁はその両端を肋板に固定された梁として計算する。
従って断面係数zは、
z=C・p・S・l2/σy (cm3)
茲に C=係数
p=0.0344L−0.0185 (kgf/cm2)
L=船の長さ(m)
s=船底側桁の支える巾(m)
l=肋板の心距(m)
σy=材料の耐力(kgf/mm2)
Mmax=1/8×s×102×l×102×2l×102(kgf・cm)
∴z=Mmax/102×σy
=2,500・p・s・l2/σy
これは倒れ止め目的が主の船底側桁の計算式(解説318の式)
z=830・p・s・l2/σy
の3倍となり、この断面係数を持つ船底側桁であれば肋板は船底側桁で支持されると見なされる。
同様な考え方は甲板縦桁にも準用できる。
支持
相持ち船底側桁の荷重
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