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2. 船舶用アルミニウム合金
2.1 種類と特徴
 船舶用に使用される主なアルミニウム合金の種類と化学組成を付録2表5に示す。船体溝造用に使用される材料の特徴と用途を付録2表6に示す。
 
付録2表5 船舶用アルミニウム合金の種類と標準化学成分
区分 合金 化学成分(規格の中央値、wt%) 備考
Mg Si Mn Cr Cu Al
船体用 5052 2.5 0.25 残部 (JIS規格に規定なし)
5083 4.45 0.7 0.15 残部
5086 4.0 0.15 残部
5454 2.7 0.75 0.13 残部
5456 5.1 0.75 0.13 残部
6061 1.0 0.6 0.20 0.28 残部 形材(JIS規格に規定なし)
6N01 0.6 0.65 残部
6082 0.9 1.0 0.7 残部
艤装用 1050 ≧99.5 主として内装用(板)
1200 ≧99.0
3203 1.25 残部
6063 0.7 0.4 残部 窓枠、内装等(形材)
AC4A 0.45 9.0 0.45 残部 ケース類、エンジン部品等
AC4C 0.35 7.0 残部 油圧部品、ケース類、エンジン部品類、電装品等
AC4CH 0.3 7.0 残部
AC7A 4.5 残部 舶用部品全般
 
付録2表6 船体構造用アルミニム合金の特徴
合金 質別 特徴 備考
形材
5052
H14
H34
H112
約2.5%のMgを含有する中強度の合金。耐食性並びに成形性が優れている。 上部構造、その他二次的部材。小型船舶の船体。
5083
H32
H112
約4.5%のMgを含有する代表的な溶接構造用合金。非熱処理型合金の中では、強度が高く、溶接性、耐食性が優れている。 船体主要構造
5086 H112 約4%のMgを含有する合金。5083合金と同等の溶接性、耐食性をもつが強度は若干低く、押出性は多少改善されている。 船体主要構造(薄肉広幅押出形材として使用。)
6061 T6 Al−Mg−Si系合金。強度は高いが、溶接継手効率が劣る。海水に接する部分への用途は避ける方がよい。 上部構造、隔壁構造、フレーム等
6N01 T5 Al−Mg−Si系の中に中強度押出用合金。6061合金よりも起用度は低いが、耐食性、溶接性もよい。 上部構造(薄肉広幅押出形材として使用。)
 
 5083合金は、Mgを約4.5%含む非熱処理型合金の内で最も強度が高く、溶接性・耐食性も良好であり、船体構造用として最も一般的に使用される材料である。しかし、押出性が悪いので薄肉の広幅押出形材用として4.0%Mgの5086合金が使用される。
 6N01合金が薄肉の広幅押出形材が製造できる利点を利用した上部構造に使用されている。
2.2 物理的性質
 船舶用アルミニウム合金の物理的性質を付録2表7、8に示す。この表のようにアルミニウム合金の優れた性質は軽いことであり、強度と比重の比が鋼材よりも大きいので軽量化がはかれる利点がある。一方,注意すべき点としては、
 
(1)縦弾性係数が鋼材の1/3 船舶用アルミニウム合金の引張強さ及び
(2)線膨張係数が鋼材の2倍 耐力のJIS値及び実際使用材の代表値を
(3)熱伝導度が鋼材の2倍 Table5に示す
(4)溶解温度が鋼材の1/2
 
であることがあげられる。(1)は鋼材の3倍たわむことを示し、必要があれば変形の制限を考慮しなければならない。(2)は溶接時におけるひずみ発生量が大きく、(3)と(4)はひずみ取り加熟、特に点加熱などが難しいことを意味している。
 設計に用いる物理定数は、個々の材料の数値を必要とするときのほかは、次の値が用いられている。
 
縦弾性係数 E=7,200kgf/mm2[70.6GPa]
せん断弾性係数 G=2,700kgf/mm2[26.5GPa]
ポアソン比 ν=0.33
比重(5083合金) ρ=2.66
 
2.3 溶接継手の機械的性質
 船体構造用に使用されるアルミニウムの板及び押出形材について、突合せ溶接継手の代表的性質を付録2表9に示す。質別○は母材と同強度であるが,加工硬化材及び熱処理材は溶接熱影響によって継手部が軟化するので注意が必要である。
 
付録2表7 物理的性質(1)(1)
合金 比重、
ρ
縦弾性係数(2)
E
せん弾性係数
G
ポアソン比、
ν
[20℃] (kgf/mm2) [GPa] (kgf/mm2) [GPa]
5052 2.68 7170 [70.3] 2640 [25.9] 0.33
5083 2.66 7240 [71.0] 2690 [26.4] 0.33
5086 2.66 7310 [71.7] 2690 [26.4] 0.33
5454 2.68 7170 [70.3] 0.33
5456 2.66 7240 [71.0] 0.33
6061 2.7 7070 [69.3] 0.33
6N01 2.7 7000 [68.6] 2630 [25.8] 0.33
注:
(1)6N01合金以外は、Metals Handbook(9th ed.)による。
 
(2)引張りと圧縮の平均値を示す。
 
付録2表8 物理的性質(1)(2)
合金 溶解温度範囲 平均線膨張係数(×10-6/℃) 熱伝導度(2)[20℃] 導電率(3)[20℃]
(℃) −50℃〜+20℃ 20〜100℃ (cgs) (LACS,%)
5052 607〜649 22.1 23.8 0.33 35
5083 574〜638 22.3 24.2 0.28 29
5086 585〜640 22 23.8 0.3 31
5454 602〜646 21.9 21.9 0.32 34
5456 571〜638 22.1 23.9 0.28 29
6061 582〜652 21.6 23.6 0.4 43(T6)
6N01 615〜652 21.2 23.5 0.45 46(T5)
注:
(1)
6N01合金以外は,Mctals Handbook(9th ed.)による。
 
(2)
cgs単位は,cal/℃・cm・sである。熱伝導率は、合金順に上から137、120、127、134、116、167、188W/(m・K)である。
 
(3)
軟銅(比抵抗17,241μΩ・cm、20℃)の導電率を100として示す。なお、5000系合金は全質別の平均値を示す。
 
Table 5 船舶用アルミニウム合金の引張強さ及び耐力
合金 区分 質別 引張り強さ、σ3(kgf/mm2,N/mm2) 耐力、60.2(kgf/mm2,N/mm2)
JIS規格 代表値 JIS規格 代表値
5052 18〜22(177〜216) 20(196) ≧6.5(64) 9(88)
H14 24〜29(235〜284) 26(255) ≧18(177) 22(216)
H34 24〜29(235〜284) 26(255) ≧18(177) 21(206)
形材 H112 ≧18(177) 19(186) ≧7(69) 9(88)
5083 28〜36(275〜353) 31(304) 13〜20(127〜196) 16(157)
H32 31〜39(304〜382) 35(343) 22〜30(216〜294) 26(255)
形材 H112 ≧28(275) 33(324) ≧11(108) 18(177)
5086 形材 H112 ≧24.5(240) 29(284) ≧9.5(93) 15(147)
6061 形材 T6 ≧27(265) 31(304) ≧25(245) 28(275)
6N01 形材 T5 ≧25(245) 28(275) ≧21(206) 25(245)
(注)代表値は軽金属車両委員会報告書による。
 
付録2表9 アルミニウム合金突合せ溶接継手の引張強度
区分 合金記号 厚さ(mm) 質別 溶接方法 溶加材 余盛の有無 引張強度(JIS 5号試験片) 継手効率(1)(%) 破断位置
引張強さ
(kgf/mm2[N/mm2]
耐力
(kgf/mm2)[N/mm2]
A5052P 4〜10 ミグ 5356 20.2[198] 9.6[94] 99.0 熱影響部
5554 削除 20.0[196] 9.2[90] 98.0
6 H32 ミグ 5356 21.7[213] 14.0[137] 88.2
削除 21.7[213] 13.0[127] 88.2
3〜6 H34 ミグ 5356 22.3[219] 13.2[129] 86.1
A5083P 4〜8 ミグ 5183 30.7[301] 15.1[148] 97.8 熱影響部
4〜7 削除 28.6[280] 14.0[137] 91.1 溶接金属部
6 H32 ミグ 5556 33.0[324] 17.0[167] 93.0 熱影響部
形材 A5052S 6 H112 ミグ 5356 19.1[187] 10.0[98] 98.5 熱影響部
削除 19.0[186] 9.2[90] 97.9
A5083S 5 H112 ミグ 5356 30.0[294] 15.5[152] 92.0 熱影響部
削除 29.1[285] 14.6[143] 89.3 溶接金属部
A5086S 4.3〜5 H112 ミグ 5356 28.1[276] 13.0[127] 94.6 熱影響部
削除 26.2[257] 12.9[26] 88.2 溶接金属部
A6N01S 3〜5
(主として3)
T5 ミグ 5356 19.0[186] 11.9[117] 67.1 熱影響部
削除 19.0[186] 11.8[11.6] 67.1
注:(1)継手効率は、母材引張強さの代表値に対して示す。
 
図1 5083−O材の突合せ継手のS−N曲線
(拡大画面:32KB)
 
突合せ溶接余盛を残したもの、現場的にグラインダー仕上げしたもの、余盛りを削除したもの、及び母材のS−N曲線。
アルミニウム合金は、繰返し数が107辺りから曲線の傾斜が水平に近づき、これ以下の応力では破断しなくなる。この点を疲れ限度という。
現場的にグラインダー仕上げしたものは、余盛を残したもの(溶接のまま)に較べ、疲労寿命は約2倍に伸びている。
 
図2 5052及び5083合金の質別、応力集中率と疲労強度の関係
 
応力集中率が大きくなるにつれ、疲労強度に対する質別差は殆どなくなる。
 
アルミニウム合金製船殻工作精度標準 LWS Q 8101 解説







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