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2. 高速船とは
2.1 船の抵抗
 船が水面上を進むと、水には粘性があるため、水に接する船体表面(浸水面)は摩擦による抵抗を受ける(図2−1参照)。又、船は水を押し分けて進むので、水に波動エネルギーを与え波を起こすため、造波抵抗を受ける(図2−2参照)。船体形状が不良な場合は、船体周りの水流が完全な流れとならず、或る箇所から流線が破れ渦を生じることがあり、このため渦抵抗を受ける。渦抵抗は船体の形状並びに流れに対する船体の姿勢にも関係するので、形状抵抗とも呼ばれる。その外にも船体の受ける抵抗があるが、空気抵抗を除いたこれら抵抗の構成を纏めると船の抵抗は図2−3の様になる。
 造波抵抗は、船が走る時船側に生じる圧力差のため水面の隆起並びに降下が起こり、水の慣性と重力により波が生じて抵抗となるもので、主として船首及び船尾から発生するが、前後部の肩部からも発生する。発生する波は、船の進行方向に直角な横波と、船首から中心角約39°で発散する縦波(ケルビン波)の2種類である(図2−2参照)。これらの波は船と同じ速度で前進する。
 排水量型船の場合、低速航行時は摩擦抵抗が大部分を占めるが、高速になるに従い造波抵抗の比率が増加し、高速域では造波抵抗が大部分を占める(図2−4参照)。
 摩擦抵抗には船の浸水面積とその表面粗度の大小が、造波抵抗には船の長さと船体の形状が大きく影響する。
 
図2−1 水の摩擦低抗
 
(a)
(b)
図2−2 船の作る航走波
 
図2−3 船の抵抗の構成
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(a)速力と抵抗曲線
 
(b)無次元値による抵抗曲線
図2−4 船の速度と抵抗
SRCNews No.3 1988.10
 
2.2 フルード数
 船型が相似な大小2隻の船の航走状態を比較した場合、それぞれの船の速度(V1,V2)と船の長さ(L1,L2)に関して、V1/√L1=V2/√L2であれば、船体と船の作る波系(又は波形)との関係は等しくなる。従ってこの大小2隻の相似船は同一(相似)条件下で航走していることになり、言い換えれば、この場合の造波抵抗の比率(造波抵抗係数)は等しい。
 即ち船型の相似な船の造波抵抗係数は、船の大小に拘わらずV/√L(V;kt,L;m)によって決まる。このV/√Lを速度長比(又は速長比)と呼び、これを無次元化したV/√gL(v;m/sec,g;重力の加速度,L;m)をこの法則の発見者W.Froudeに因んでフルード数(Fn)と言う。
 この法則の発見により、実船の縮尺モデルを使用した水槽試験により、実船の性能推定が可能となった(図2−5参照)。
 
図2−5 航走条件の相似則
 
 なお、半滑走型以上の高速艇の場合、航走中に艇体が動圧を受けて浮上するため、静止時の船の長さを使用するのは無意味であるとして、v/√gLの代わりに容積フルード数F=V/√g▽1/3をしようすることが多い。現在使用されているものは次の通り。相互関係を図2−6に示す。
 
図2−6 速度長比の相互関連
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2.3 造波抵抗とラストハンプ
 前述の様に、船が前進すると、船首は水を押し分けて進むためその部は高圧となり、水面に波の山が出来、船尾部は船体に押し下げられ凹んだ水が盛り上って来る、谷から始まる波が出来る。この外に前後部の肩部からも波が発生するが、船首尾波に較べれば小さい。これらの船首波と船尾波は波長は常に等しく、かつ船の速度の増加とともに波長は長く、波高も高くなり、造波抵抗も増加する。ただし、船首波の谷と船尾波の谷が船尾で重なれば、波の干渉により造波抵抗は大きくなり、逆に船首波の山と船尾波の谷が重なれば、造波抵抗は小さくなるので、速度増加に伴う造波抵抗の増加傾向は一様ではなく、山谷を画いて増加する。
 そして、船首波の波長が船の長さの2倍となると、その半波長に当たる波の谷が船尾波の谷と重なり、造波抵抗は最大となる。この位置をラストハンプ(Last Hump,Hunp:山)と呼ぶ。このラストハンプを超えると造波抵抗は急激に減少して行き、遂に船首波の山と船尾波の谷が重なる様になると、造波抵抗はなくなるか小さくなる(図2−7参照)。
 
(拡大画面:39KB)
(a)
 
(b)フルード数と造波抵抗係数
図2−7 抵抗曲線とラストハンプ
 
図2−7(a)
アルミニウム合金製漁船の設計、小林務、(財)小船工アルミニウム合金船建造技術講習会テキスト(H8)ベース
 
 このラストハンプの位置をフルード数(Fn)で示すと次の様になる。
重力波の進行速度をvw、船の速度をvs、波長をλとすれば
vw=r/√gλ/2π=vs
∴vw/√gλ=√1/2π
 船首波の谷と船尾波が重なる場合は、船首波の波長は船の長さの2倍となるから、
λ=2L
∴vw/√gL=Fn=、√/π=0.564
 即ちFnが0.56を超えると造波抵抗は減少に転じる。ただし、実際には船首波や船尾波は理論通りに船首、船尾端で発生するものでないので、実船のラストハンプはFn≒0.5付近にあると考えて良い。
 又、高速艇の造波抵抗は一般に船首波系成分の影響は小さいので、ラストハンプの機構は別のものと考えられる。







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