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6.2.3. オーストラリアの高速旅客船メーカーによる売り込みと高速旅客船の需要調査
オーストラリア造船会社の売り込み等 (オーストラリア造船会社からの情報)
 前述のように,フィリピンの高速旅客船航路の大手は、PFFC社とCebu Ferries Corporationで、両社ともAboitiz企業グループに属する。Aboitiz社は、セブに造船所を持っており、PFFC社は同造船所から、1998年に数隻の船舶を購入している。また、香港の造船所FBM社がAboitizグループの主要株主(25%所有)であり、PFFC社はFBM社から優先的に旅客船を購入することになっている。このため、他の造船所から購入することは不可能ではないが、それなりの理由、すなわち他の造船所から購入するメリットがなければならない。
 
 また、フィリピンも景気の低迷から脱却できていない。さらに、フィリピンペソ建ての低運賃で収入を得ているなか、フィリピンの船社が、高価な新建造の高速旅客船を購入することは採算の面から非常に困難である。小規模船社のほとんどは、船価の問題から、中古高速旅客船の購入に傾きがちで、新造船を購入する場合は、フィリピンペソ建ての低利、高融資比率(可能であれば100%)の融資を求めている。
 
 こうした中、オーストラリアの高速旅客船メーカーの成功例は多くはない。オーストラリアでのヒアリングの結果、入手できた情報は以下のとおりである。
 
・Sabre Catamarans社
販売した船舶 36mのカタマラン2隻
販売先 Jet Ferry Company Manila
ファイナンス オーストラリア輸出金融保険公社
納品 1998/1999年
利用航路 マニラ−ラマウル間 26km
 
 2隻のうち1隻は、就航初年度に台風で壊れてしまった。Jet Ferry社は現在、100人程度の旅客規模の旅客船3隻で、同航路を運行している。
 
・Wavemaster社
販売した船舶 48mの単胴船1隻
販売先 在マニラの、ギリシャ系フィリピン人がオーナーの会社
ファイナンス オーストラリア輸出金融保険公社
納品 2000年
利用航路 マニラ−マリヴェレス間
 
 販売先の船社は1年ほど前に閉鎖し、旅客船は売却された。
 
 なお、契約が成立したという情報はないが、オーストラリアの高速旅客船メーカーは、次のようなフィリピン企業にもアプローチをした形跡がある。
 
・Balcolod Real Estate Development社
 同社はバコロドに港を建設した民間企業。1999年当時、同社は、バコロド−イリオ間の高速旅客船分野への進出を計画したが、その際、オーストラリアの造船所からも提案を受けていた。実際に購入したか、どこから購入したかについては、不明。
 
・ACG Express Liner社
 1999年の同社へのインタビューによると、当時すでに、Brisbaneの造船所から2隻の高速船を購入、1隻を発注済とのことであった。購入した2隻のうち1隻は、就航初年度に台風で壊れてしまった。
 
・El Gleco Jet Ferries社
 2000年にジェトロが実施した調査に対するインタビューによると、同社はWavemaster社から高速旅客船を購入しており、同種の船舶をもう1隻購入する予定があるとのことであった。(実際に購入したかどうかは不明)
すでに購入した船舶は、MTU社およびHamilton Water Jets社のエンジンを搭載していた。
 
オーストラリア造船会社の売り込み等 (フィリピン船会社からの情報)
 フィリピンの船会社については、St Samat社にヒアリングしたところ、下記の情報を得ることができた。
 
・St Samat社
 同社は1996年にオーストラリアSabre社建造の200人乗り新造高速旅客船を2隻購入した。しかし、同社によると、オーストラリア船は船体が弱く、すぐにひび割れが起こり、駐在員の人数も少ない。修繕を頼んでも部品がオーストラリアから届くのが遅い、などの問題がある。一方同社は、1999年に米国のキャタピラから180人乗り新造高速船を2隻購入した。その詳細は以下のとおり。
 
建造: FBMA社(在フィリピンのイギリスとAboitiz社の合弁会社)
ファイナンス: 米国キャタピラー
  利率−11から12%
  融資期間−7年
  担保−船舶と20%のエクイティー
F/S 新船を導入する航路においての運航がビジネスとして成り立つか(需要予測および運賃設定も含む)、Mt Samat社が行ったものを詳細に審査した。
 
 米国キャタピラ社はフィリピンの主要都市にオフィスをもち、修繕等のアフターサービスも万全である。融資に際しての調査も迅速・的確である。キャタピラ社は、収益性の高い高速旅客船航路を対象にF/Sを行い(上記のケースはMt Samat社が行った)、ビジネスとして成功の確率の高いものであることを確認し、融資を行うことにより、顧客である船主が購入しやすい環境をつくっている。船主が船を購入すると、修繕収入および利子が確実にキャタピラ社に支払われることになる。
 キャタピラ社にとっては、エンジン、部品、オイルなどすべてキャタピラ製品であることから、修理が必要になれば自社の利益となり、融資を行うことで利息収入も見込める。また、収益性の高い高速船航路にF/S、融資をパッケージ化して売り込むことにより、手堅く売り上げを伸ばしているものと思われる。
 なお、このスキームで債権回収などの問題が生じているとの情報もなく、成功しているものと思われる。
 
6.3. その他のアジア諸国に対する売込み
(オーストラリア造船会社からの情報)
6.3.1. シンガポール
 Wavemaster社が旅客船6隻を販売している。旅客船オペレーターのBerlain Ferriesは、シンガポールとマレーシアの合弁企業で、利用客・頻度の高い、シンガポール−バタム航路で運行している。この契約が結ばれた時点では、キャタピラ社が融資することになっていたが、この事業のシンガポール人パートナーが死亡し、キャタピラ社はプロジェクトから手を引いたため、1年ほど先送りとなっていた。最終的に、この契約は、シンガポールの銀行の融資、オーストラリアEFICの保証によって実行されたといわれている。
 
6.3.2. 中国
 中国はオーストラリアの高速船業界にとって重要な市場となっている。これは、オーストラリア政府がEFICを通じて支援しているためである。しかし、オーストラリアの高速旅客船メーカーから中国市場についてのコメントを得ることはできなかった。
 
6.4. オーストラリア造船業界の東南アジアの中古船に対する見方
 オーストラリアはこれまで、ほとんどアジアに中古船を販売しておらず、東南アジア向けは皆無である。東南アジアは、中古船市場としては大きく、とくに100人〜150人乗りの中古船の需要が高いとみている。
 
 日本からは、多くの中古の鋼製カタマランがフィリピン向けに輸出されており、例えば、Batangasの旅客船オペレーターであるShip Shape社は、中古船2隻を使って低運賃で運航し(中古船の維持費は新造船より低いため)、PFFC社から市場シェアをある程度奪うことに成功した。







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