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6.1.3. オーストラリアの高速旅客船建造造船所による売り込みと高速旅客船の需要
オーストラリア造船会社の売り込み等 (オーストラリア造船会社からの情報)
 オーストラリアの高速旅客船の中で、インドネシアに対して売り込みを継続してきたのは、Austral社である。しかし、再三の売り込み努力にもかかわらず、過去数年、成功した例がない。オーストラリアの高速旅客船メーカーがインドネシアに売り込む際の最も大きな問題点は、次の3点である。
・  旅客船オペレーターの財務状況が悪い。旅客船オペレーターの収入はルピア建てで、外貨建ての融資や金融パッケージに対する支払い能力がない。
・  オーストラリア企業全般に、取引先が支払能力のある大企業でない限り、インドネシアとの取引は難しいと考えている。
・  オーストラリアの輸出金融保険公団(EFIC)は、インドネシアとの取引はリスクが大きく、政府の保証がない限り、高速旅客船の契約の保険を付与しない。
 
 こうしたことから、オーストラリアの高速旅客船メーカーは、インドネシアヘの売込みには積極的に取り組んでこなかった。また、Austral社の売り込みが成功していないことも、インドネシアは高速旅客船の市場としては魅力的ではない、という印象を強める結果になった。さらに、オーストラリアの高速旅客船メーカーは、インドネシアの旅客航路の大部分はルピァ建ての運賃で航行されているため、高速旅客船を運航することは難しいと考えている。船社が高速旅客船を購入したいと考えても、オーストラリアのメーカーは「時間の無駄」と考え、EFICが要求するフィージビリティースタディーを行っていないのが現状である。
 
オーストラリア造船会社の売り込みと高速船の需要
(インドネシア船会社・造船会社からの情報)
 オーストラリアで実施した調査では、上記のように、インドネシアでは高速船の需要があまりなく、また需要があったとしても船社の支払能力や融資の面で困難なため、旅客船メーカーは積極的な売り込みを実施しなかった、というヒアリング結果となった。一方、インドネシアの船社に対しても、高速船の需要やオーストラリアの高速旅客船メーカーの売り込みについてヒアリングを行った。一方でインドネシア造船工業会(IPERINDO;Indonesia National Shipbuilding Industries Association)によると、「オーストラリア造船所がPT.PALと高速船建造ジョイントベンチャーを摸索している」という話もあり、また、「PT.ASDPが民間船会社と共有するスキームで高速船をメラク〜バカウニ航路に就航させようとしている」との業界筋の情報もあった。そこで目標を既存短距離旅客船社とその他の二つに分けて、オーストラリアの売り込みと高速船の需要について、聞き取り調査を実施した。
 
(1)インドネシア短距離旅客船会社からの情報
 
 聞き取り調査にあたっては、国営海運会社ASDPが直接このような高価高速船を購入する事は考えられないので、幾つかの有力民営旅客船事業者にヒアリングを行った。GASPADAFの紹介で各社のGMまたはその代理と会うことできた。このうち4社がオーストラリア製高速船について何らかのアプローチを受けた経験を持っていた。
 
 既存旅客船社の幾つかは現在、高速船を運航しているが、これらは何れも定員20〜60人の小型船で、かつ、老齢等のため実際の運航スピードは12〜15ノットが常態である。4社共に「通常の旅客船との組み合わせで高速船を就航させること」に大きな関心を持っていた。通常旅客船と高速旅客船の組み合わせで運賃の二重化、差別化を図りニーズに対応すると共に収入の拡大を図ろうとの意図によるものである。オーストラリアの高速船は3つの魅力を備えていた。第一は支払い金利条件が有利なことである。具体的な金利条件は聞けなかったが国際マーケットでも低いレベルであり、更にファイナンスについて造船所側の紹介があったとのことである(これについても詳しい説明は聞けなかった)。最終的には「ファイナンス条件で旨く行かなかった」との事から憶測するところ、担保条件等で受け入れ難い条件が重なってあったものと推測された。もう1つの魅力は、船舶の保守管理に造船所からの支援が得られること、通常の保障サービスに加えて資材の手配、造船所技師による船社側保守管理要員の養育サービスを長期間受けられるとのことであった。
 
 インドネシア船社が最終的に断念した理由は、ファイナンス条件の他に「為替リスクの不安」が依然として大きい事もあった。経済危機によるルピアの暴落からは安定的に回復基調にあることは間違いないが、再びドル高に振れる可能性も大きい。ルピア収入に頼る船社としてはこのリスクは大きい。以下は、個々の船社との面談の詳細である。
 
1)PT.Dharma Lautan Utama
 同社は、スラバヤ〜バリ間の旅客船航路を中心に約20隻の純旅客船、カーフェリーを運航しているインドネシア最大手の旅客船会社である。国営のPT.ASDPとも数隻の旅客船を共同運航している。所有船舶のほとんどは日本から購入した中古船である。中古船のニーズは特に大型船、高速船について非常に大きい。アルミ製高速船は大型であるほど良い。インドネシアの旅客船、RO-RO船のニーズは非常に大きい。日本の中古船は品質が良く使い方によっては船齢30年でも使用できる。問題は、機関部品の入手が困難なことである。同社は、シンガポールの代理店を利用して部品を確保しているが、特殊部品は直接日本から輸入する場合もある。交換予備品の不足が常態で、就航率の低下の原因になっている。
 オーストラリアの高速カタマランについては、シンガポール代理店を通じて照会があった。「バリ島とジャワ島東部を基軸にした観光周航ツアー」に就航させるという提案であった。同社はこの分野のノウハウに不足しているため、フローレス島観光ツアー会社と当社の組み合わせで検討した。現在、バリ島にはオーストラリアの観光会社の単独運航による高速観光船が周航している。この分野に参入する事は非常に魅力がある。ニーズは充分あると思われた。
 
 また、ファイナンス条件も妥当なものであった。国内銀行の金利は15%前後で、高すぎて利用できないが、海外からの金融は、はるかに低いものもある。オーストラリアのカタマランもこのような低い金利の融資条件がついていた。また、船舶の保守管理にオーストラリア造船所からの技師を常駐させる体制にも魅力があった。
 
 しかし、初期投資額が高すぎるため、同社単独では対応出来ない事から共同運航を検討した。その結果「リスクが高すぎる」事から断念した。スラバヤ〜バリ間の航路での使用も検討したが、この航路では運賃が高くなりすぎて政府の認可を取れないと判断した。同社は、初期投資額が妥当な額であればインドネシア旅客船業界は10年償還、10%までの金利に対応する事は可能と考えている。
 
2)PT.Jembatan Madura
 インドネシアの3大短距離フェリー航路の全てで、カーフェリーを運航している。20数隻の所有船舶の大部分は日本から購入した中古船である。老齢船で、かつ、小型船中心の船隊からの脱却を当面の目標にしている。200人乗り以上であれば中古船でも新造船でも欲しいと考えている。
 
 オーストラリアの高速カタマランについては過去に何回かコンサルタントを通じて照会があったが、価格が高いため対応出来なかった。このような高価格の船舶に対応出来る船会社は現状では多分ないと同社では考えている。
 
 短距離フェリーの場合、載貨門が前後にある日本の船型よりも後部、又は側部に1つの載貨門を持つ船型がインドネシアには都合が良い。大量積載が最重要点で、速力はその次である。この点で同社は在来型のフェリー船型を望んでいる。
 
 同社は、高速船を持つことを考えている。200人乗りで20ノット程度のアルミ製純旅客船を1〜2隻の購入で、新造と中古の両方で検討している。日本の中古船にも関心がある。
 
 国内の運賃レベルは年々向上しているが燃料費の高騰で採算性は未だ低い。輸送需要は増加傾向ではあるが、急増している訳では無い。それでもインドネシアは旅客船の絶対量が不足している。サービス向上のためにも船隊拡充が必要と考えている。
 
3)PT.Prima Vista
 メラク〜バカウニ航路を中心に6隻の大型フェリーを運航している。近年、日本で建造の中古フェリー運航で成功している新鋭の会社である。以下、同社のGMによるコメント。
 
 オーストラリア製高速カタマランは、非常に魅力のある案件ではあるが、船価が高すぎるため、同社が運航する事は考えられない。対応出来るのはドル収入が期待できる国際観光資本のみであろう。ルピア運賃が今の3倍にならないと国内旅客航路で採算を取る事は難しい。バリ島では既にこのようなカタマランが周航しているが新規投入の話は聞いた事が無い。今後、東部インドネシアの観光開発は進むであろうが今は未だこのような船を投入する時期ではない。
 
 インドネシアは大量輸送手段としての旅客船やRO−RO船を必要としている。現在、国営PELNIの旅客船がインドネシアの全域に長距離旅客船を運航しているが、今後はPELNIのハブ航路に対応したスポーク航路の開発が課題になる。「PELNIの大型旅客船は基幹航路に限定して就航させ、地方のハブ港からのスポーク航路は民間の小型フェリーに任せる」という考え方である。現在でも民間に任せれば収益性が成り立つ航路はたくさん考えられる。ジャワ島を基軸にした基幹航路でも民間経営のRO−RO船のニーズは大きいと考える。中古船の需要は大いにあるが供給(日本及びヨーロッパからの輸入)は非常に少ない。旅客船の絶対量が不足している実情から安価な大型新造船を必要としている。小型船のニーズは大型船よりも更に高い。
 
 現在、PT.PALなどジャワ島内の数箇所の国内造船所で小型旅客船の建造は行なわれている。しかしファイナンスの難しさと品質信頼性の問題で同社としては国内新造に踏み切れないでいる。日本の技術力を投入してインドネシアで建造するスキームを期待している。
 
 PT.Putera Master Sarana Penyeberangan、及びPT.Windu Karsaともヒアリングをしたがこれまでにヒアリングした船社と同様の内容であった。
 
(2)インドネシアの造船会社からの情報
 
 オーストラリア造船所のコンサルタントは既存船社だけでなくインドネシア造船所等にも様々なアプローチをしたとの情報があったので、IPERINDO(インドネシア造船工業会)のメンバー造船所に問い合わせをしたところ、その1つであるDUMAS造船所から以下の情報を得る事が出来た。
 
 DUMAS造船所はスラバヤにある小規模造船所であるが、インドネシア海運総局のタグボートの建造実績があり、インドネシア海軍フリゲート艦の定期修理を担当するなど活動的な造船所である。バリ海に就航するクルーズ船の定期修理も行っている。
 
 オーストラリアのカタマラン船は、インドネシアの大手スーパマーケット(華僑系)が実質経営するクルージング会社と、インドネシア大手の不動産開発会社「チプトラグループ」のジョイントベンチャーで、更にオーストラリア系観光会社との業務提携も図るということで計画された。バリ島、ロンボク島、スンバワ島を周航する複数の旅客船による広域クルージングの一部を高速カタマランが担当するというスケールの大きい計画であるが、実現の見通しは明確ではないとのことであった。計画では、DUMAS造船所はスラバヤとバリにおける定期修理を担当することになっている。オーストラリア建造造船所及びエンジンメーカー技師が常駐して技術指導を図り、就航後2年間で技術移転を完了させるという内容で基本合意が成立しているとの情報であった。
 
 なお、上記のヒアリングを行った直後、バリ島での爆弾テロ事件が発生し、インドネシアの観光事業は大きな打撃を受けた。DUMAS造船所に問い合わせたところ、大型観光計画そのものは未だ存在するが、実現可能性は遠退いたとの回答であった。







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