6. 豪州高速旅客船建造造船所の東南アジアにおける売り込みの具体例
この章では、輸出市場で大きな成功をおさめたオーストラリアの高速旅客船業界が、アジア市場で具体的にどのような売込み方法を使ったのかを概説する。
6.1. インドネシア旅客船市場
6.1.1. インドネシアの旅客船航路の概要
インドネシアの旅客船航路は短距離航路と長距離航路に分けられ、短距離航路はDepartment of Land Transport,長距離航路とそれに付随するスポーク航路(フィーダーサービス)は、Department of Sea Transportが管轄している。短距離航路はスマトラ、ジャワ、マヅーラ諸島を結ぶ陸上幹線道路の一環との位置付けをされており、年間延べ5千万人の輸送量がある。また、長距離航路の輸送量は年間延べ6百万人を超えるといわれている。
INSA;International Shipowner's Association(船主協会)に登録されている船社の数は約70社で、これらが約300隻の旅客船舶を運航している。
1)長距離航路
長距離航路の最大手は、国営旅客輸送会社PT.PELNIである。同社は2,000人乗り、500人乗りの純旅客船28隻と5,000〜10,000DWTタイプのRo-Ro船3隻を所有し、ジャワ島を中心としてスマトラ、カリマンタン、スラベシを結ぶ大動脈長距離輸送を独占している。(PT.PELNI社の運航船舶リストは表6のとおり。)
PELNIの民営化、新規民営船社参入は望めず、国家企業独占体制が続いて来た。しかし、近年、国営企業の民営化と経営効率化論議のなかで、民営船社の参入による競争が必要との世論が高まっており、今後の動きが注目される。
表6 PT.PELNIの運航船舶
船型 |
DWT |
GT |
最大搭載人員 |
搭載車両数(4輪換算) |
船舶数 |
純旅客船 |
14,701 |
3,375 |
2,000 |
0 |
4 |
− |
13,900 |
2,200 |
0 |
2 |
14,000 |
3,200 |
2,000 |
0 |
7 |
− |
9,600 |
650 |
0 |
1 |
6,400 |
1,400 |
1,000 |
0 |
4 |
6,041 |
1,400 |
1,000 |
0 |
2 |
5,588 |
1,450 |
1,000 |
0 |
2 |
4,000 |
1,450 |
1,000 |
0 |
1 |
2,600 |
400 |
500 |
0 |
3 |
Ro−Ro船 |
11,315 |
4,168 |
1,106 |
420 |
1 |
9,401 |
1,604 |
1,048 |
80 |
1 |
4,931 |
2,765 |
466 |
140 |
1 |
4,851 |
780 |
520 |
100 |
1 |
合 計 |
55,127 |
45,492 |
− |
− |
31 |
|
旅客船隊の現状
20GT以上のインドネシア籍船はBKI;Biro Kelasifikasi Indonesia(インドネシア船級協会)に登録されている。建造国別でみると、約半数の130隻が国内で建造されている。PT.PALで建造された3隻の2,700GTタイプ(ドイツから技術援助を受けている)を除き全てのインドネシア建造船は1,000GT以下である。輸入船のうち、日本製(大部分は中古輸入船)は80隻(30%)、ドイツ製は21隻(8%)である。ただし、これをトン数でみると、日本製は28%、ドイツ製は40%となっており、ドイツからは大型船を多く輸入していることがうかがえる。インドネシア籍船の建造国別シェアは、図7のとおり。
また、261隻の登録船の内66%以上は船齢12年以上である。更に、船齢20年以上の船舶が全体の40%を占める。大きさでみると、500GT以下が55%、500〜1,000GTが20%、1,000GT以上は25%となっている。更に、このうちの100隻(85%)は500GT以下の船である。
図8に船齢別および重量別内訳を示す。
図7 インドネシア籍船の建造国別シェア
総隻数261隻
(隻数べース)
(総トンベース)
図8 インドネシア籍船の船齢別および総トン別内訳
総隻数261隻
このように、インドネシア国内では主に小型船を建造し、大型船は輸入に頼っているのが現状である。
日本からの中古船は、品質の良さと性能の良さでインドネシア船主に非常に評判が高いが、部品や予備品が入手困難なため、保守管理上の問題を抱えている。部品や予備品は通常シンガポールから調達するが、シンガポールから調達できない場合は、日本などに特注品として直接注文する。国内で類似品を作る場合もある。いずれにしても、部品が調達できるまでは、船の稼動ができないため、効率の悪化につながっている。
長距離用RO-RO船の需要
1980年代に国内で長距離RO-RO船の沈没事故が相次いだため、政府は長距離航路へのRO-RO船の就航を禁止する条例を発効した。このため、インドネシアには純旅客船が多くてRO-RO船が少ない。しかし、近年旅客の増加とコンテナ輸送のニーズが増加し、RO-RO船の需要が高まったためこの条例は廃止された。PT.PELNIは現在、3隻の3,000型RO-RO船を運航している。
業界関係者の多くは、現在、スマトラ、ジャワ、カリマンタン、スラベシの4つの島を結ぶ長距離航路用RO-RO船が不足しており、新規航路、既存航路拡充が必要であると指摘している。特に、a)ジャワ島内のジャカルタ、スマラン、スラバヤを結ぶ航路、b)カリマンタンのバンジャルマシン、スラベシのマカッサル、ジャワのスラバヤ、ジャカルタを結ぶRO−RO船航路、c)スマトラ(メダン、バタム、パレンバン)とジャカルタを結ぶ航路のニーズが高いと言われている。
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