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4.4. 軍用艦艇の今後のビジネスチャンス
 高速旅客船の様々な軍事利用の可能性を調査している国は、数カ国ある。米国軍やオーストラリア軍、そして英国艦隊は最近、戦闘状態をシミュレートすることにより高速旅客船の利用の可能性について調査を行っている。
 
 Austal社は、兵士や軍用車両を大量に輸送する場合には、従来の船舶よりも高速旅客船が適していると考え、1999年に軍需市場への参入を始めた。Austal社やIncat社の大型カタマランは米軍やオーストラリア軍に好評であり、英国艦隊は、Vospers Thornycroft社(英国)が特注で建造したアルミ製カタマランを試用中である。
 
 高速海上輸送カタマラン船は、スピードと戦術的柔軟性において大幅に改良が施されている。オーストラリア海軍のHMAS Jervis Bay号(Incat社の96メートル級波浪貫通型カタマラン)を試用中だが、これは高速カタマランを軍用に使用するコンセプトの検証、今後の改良と技術革新に役立つであろう。
 
 米国陸軍は、Incat社の96メートル級波浪貫通船型双胴船(HSV-X1 Joint Venture号)がノルウェー沖での冬季演習を無事に終了した後、ペルシャ湾に配備されたことを明らかにした。また、Austal社の101メートル級カタマラン、West Pac Express号が海兵遠征軍にリースされたことは、この種の船舶がアジア全域における演習のため海兵隊や装備の輸送に十分対応できることを示した。このように、オーストラリアの高速旅客船業界は、今後の軍需高速旅客船の市場では、優位にたっている。しかし、政府から船舶建造の仕事を請け負うためには、当該国の企業と合弁企業を設立することが成功の鍵となる。
 
4.5. 沿岸警備船の今後のビジネスチャンス
 オーストラリア政府の最近の予算では、国境の防衛を含む国家安全保障の必要性が増大していることを認識し、13億Aドルが割り当てられた。西オーストラリア州の一部のアナリストは、海軍用艦船としてAustal社のものが採用される可能性が最も高いと見ている。
 
 また、オーストラリア海軍のフリーマントル級巡視艇の買い替えのため、3億Aドルの一般入札が予定されており、近々、入札参加者が公表されることになっている。これは、事業規模にかかわらず国内のアルミ製高速建造業者が、数少ない軍需高速船舶市場に参入する絶好の機会である。
 
4.6. 高級クルーザーの今後のビジネスチャンス
 クルーズ船市場、特に「高級」クルーザーの市場は急速に拡大している。この背景には、若い世代の顧客が、モダンで多目的な高速クルーザーを求めていることが挙げられる。現在クルーズ市場の40%はカリブ海内であるが、新しい市場の開発や、アドベンチャーやエコツーリズム産業の成長により、新造の特注船舶の需要が高まっている。
 
 Austal社は、初の「高級クルーザー」、60メートル級のカタマラン「Rivages St.Martin号」を1999年11月にフランスの顧客に引き渡した。また、同社はその後、タヒチのBoa Bora Cruises社から、フランス領ポリネシアで運航される予定の69メートル級の高級クルーザー2隻の受注を確保した。この船舶は単胴船で、37の客室に旅客定員78名である。納期は2003年初頭の予定。
 
 この市場は、当初期待されていたほど拡大してはいないが、デザイナーは多種多様の魅力的な新しい「高級クルーザー」を生み出しており、顧客の需要が増大するにつれ、従来の船舶運航会社はこの新しい市場に参入することが期待されている。
 
4.7. まとめ
 オーストラリアの高速旅客船業界は、ひとつの転機にたっている。Incat社の問題はタスマニア地域には大きな打撃であったが、一方で恩恵を受けた国内の他の造船業者もある。大型カタマランを建造していたIncat社の淘汰で、最も利益を得るのはAustal社であろう。
 
 以下の3点により、国内の小規模造船業者の売上げは今後増加することが見込まれる。
 
・  2002年、2003年の船舶受注件数の世界的な増加
・  小型旅客専門船に対する世界的な需要の増加
・  オーストラリア政府の国境安全保障の強化と、軍事予算の拡大による国内需要の大幅な増加。
 
 Austral社などの大手企業は、大型船、小型船など多種類の船舶の受注を獲得している。Austral社は、船舶サイズ、フル種類、船舶の用途の多角化で成功しただけでなく、従来、顧客ではなかった米国の軍隊など顧客の多角化でも成功した。
 
 Incat社は大型船舶に固執し続けたため、近年の市場低迷で打撃を受けたが、今後、軍用船舶市場や高速貨物船市場が本格的に始動すれば、大型船舶を得意とする同社が有利となる可能性もある。しかし、2002年や2003年に見られた小型船舶に対する市場の需要が今後も増加するようであれば、同社は長期的な生存のために、ターゲットとする市場の戦略を修正する必要がある。
 
 オーストラリアの設計・技術競争力は、海外への技術移転により、かなり低くなってしまった。海外の競合他社はオーストラリアのデザインを簡単に入手することができる。シドニーのIncat Designs社(高速カタマランのデザインの先駆け)では、世界中の顧客向けに設計を提供してきた一方で国内の顧客は少ない。また、Incat社やAustal社に近接する技術系の大学では、留学生(主にアジア系)にオーストラリアのアルミ製船舶の造船技術を教えている。
 
 一部の業界のアナリストは、オーストラリアの造船業界が世界のリーダーであり続けるためには、かつて、アルミ製高速旅客船を開発したときのような「大飛躍」が必要であるとしている。そのために必要な研究開発(R&D)費用を各企業が賄うことは不可能であり、業界の共同研究センターを設立するべきだという意見も多い。しかし、造船業界は、既存の船舶改良のために付加的な研究開発を行うという現在の方針を変えずに競争力を保ちたいとしている。
 
 オーストラリア造船業者は、政府から多くの助成金を受けているヨーロッパの業者と(最高で船舶建造費の30%)今後も競争していかなくてはならない。同国の造船業者は今後も、競争に勝ち残っていくためには、政府に頼るのではなく、自らの建造技術や生産技術、マーケティング力を頼みにする必要がある。また、船舶のデザインや建造技術における競争力は失われてきたものの、オーストラリアの造船業者は、アルミ製高速旅客船建造に関わる専門知識と20年以上にわたる実践的な経験が、依然大きな強みであると考えている。海外から多くの造船業者がアルミ製高速旅客船市場に参入し、ほんの数隻の建造で撤退していることが、この見方の正しいことを示している。
 
 オーストラリア造船業界はアルミ製高速旅客船の建造において、特に品質の面で自信を持っているが、世界の競合他社の追随も著しい。オーストラリアが今後長期的に造船市場において重要なプレーヤーであり続けるためには、海外の企業との提携や合弁企業の設立はまさに時期に即しており、これらは今後、重要な要素となるであろう。







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