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4. 旅客船業界の市場トレンドと見通し
4.1. 全体的アプローチ
 オーストラリア政府は、業界における長期的な国際競争力を高めることに重点を置き、競合環境を整えることにより業界の成長を促すことを方針としている。これには、技術革新、設備投資、ハイテク技術の開発および市況情報の提供が含まれる。
 
 世界的な商船市場不況を切り抜け、生き残りをはかるため、オーストラリアの造船会社は、アルミ製高速船舶建造の専門知識を活かせる他のビジネスチャンスを摸索している。これらのメーカーは高速旅客船だけでなく、高速貨物船や軍用船舶、沿岸警備用船舶、そして専門的知識を必要とする新興成長市場においても、各企業は専門知識の活用を考えている。
 
 また、今後は海外他社との競争が厳しくなることも視野にいれておく必要があるとオーストラリア造船業界はみている。特に、高速貨物船舶が市場で広く受け入れられるようになり、海外の競合他社が市場シェア拡大のため、高速船舶建造用の専門施設の建設を考えることもあり得る。将来、競合他社の中には、得意のロボット製造技術を駆使し、自動加工プロセスによる、高速専用の専用施設を持つところも出てくる可能性もある。これは、オーストラリア造船業者の労働コストの面における競争力を低下させることになり、オーストラリアのアルミ製高速旅客船業界には脅威である。
 
 一方、顧客側の立場にたつと、高速旅客船業界は、原油価格や物価など、広範囲にわたる不可抗力要因にも影響を受ける。業界にとっては、将来の船舶デザインや顧客の要求を満たしていくために、船の運航経費がより重要な課題となろう。
 
 カタマランや単胴船、最近ではトリマランの比較優位性に関する論議が活発になっている。オーストラリアで建造される主な旅客船はアルミ製カタマランであり、特にAustal社、Incat社の二大業者が生産している他、Sabre Catamarans社などの小規模建造業者も取り扱っている。またオーストラリアでは単胴船の建造も行われており、Wavemaster社やSBF Shipbuilders、Austal社の子会社であるOceanfast社やImagine Marine社が主要業者である。広く安定したプラットフォームをもち、運航中及び停留中の抜群の安定性、損傷した際の浮揚性と復元性を併せ持つ商用三胴船(トリマラン)の開発にはビジネスチャンスが見込まれる。
 
 従来型船舶のデザインの大幅な変更、トリマランが市場に受け入れられ建造数が増えれば、アルミ船業界に急激な変化がもたらされることになるが、この点オーストラリア造船業界の革新的な技術には定評があり、率先して世界におけるアルミ船建造の技術革新を牽引していくであろう。
 
 オーストラリアの高速船業界の今後の成功には、革新的なデザイン開発や、高度生産技術の一層の開発、高い品質の維持や費用競争力、新しい隙間市場の調査及び参入(特に小型船舶)、そして既存市場の成長促進が重要な要素となろう。
 
4.2. 高速旅客船の今後のビジネスチャンス
 高速旅客船市場は現在、オーダーに対してすべて即納できるほどの在庫を抱え、今後2年間は低迷を続けると思われる。しかし、原油価格に左右される可能性があるものの、大型車両輸送船については軍需が見込まれ、高速貨物船についてもビジネスチャンスが見込まれる。技術開発面で今後研究の価値があるのは、海洋環境保護に関する船の特性や、抵抗低減、軽量化そしてトリマランについてである。
 
 一方、高速旅客船市場は不況から立ち直り、中長期的な回復に向っているという見方もある。2002年以降の受注が大幅に増加していることもこれを裏付けている。また、ヨーロッパ、特に地中海で航行している旅客船の多くは数年の内に買い替えが必要になる。例えば、2000年にギリシャで発生した旅客船事故により、ギリシャでは老朽化した船舶の見直しが行われており、政府は建造から30年を超える全ての船舶の買い替えを義務付けたが、これは現存する船舶の40%にあたる。
 
 しかし、旅行者の増加と、一般的な人の輸送量の全体的な増加により高い需要は期待できるものの、この需要の対象が大型旅客船である可能性は低い。2002年、2003年の受注を見ても、小型の高速旅客船に対する需要が増えている。
 
 アジア経済が回復すれば、シンガポールの造船会社との競争が激化するものの、オーストラリア製船舶への需要も増えることが見込まれる。日本にも多くの旅客船が運航しているが、これらが高速カタマランヘ買い替えられる可能性もある。日本市場への参入はオーストラリア造船業者にとって容易ではなく、今までの成功も限られていた。しかし、日本市場には大きなビジネスチャンスがあり、合弁企業の活動を展開する新たな市場としての可能性があると、オーストラリアの造船業界はみている。
 
 北米は、オーストラリアのアルミ製高速旅客船建造業者が米国企業との協力で、一層の拡大を期待できる市場である。また、世界には、南米、中東、ロシアなど、高速旅客船市場が未発達な小規模市場もある。オーストラリア造船業者の中には既にこれらの市場とも協力関係を結び、特注船舶を建造しているところもある。
 
4.3. 高速貨物船舶の今後のビジネスチャンス
 新しい市場として最も将来性が高いのは高速貨物船舶である。オーストラリアをはじめとする世界中の造船業者は、新しい重要な活動の場として高速海洋貨物船市場に期待を寄せている。この市場の今後を左右する主な決定要因は、船舶輸送と航空輸送の中間の需要を見つけることができるかという点にある。このため、ヨーロッパ、日本、オーストラリアの企業は、より多くの貨物を載せ、可能な限り高速で費用対効果の高い貨物船の実現に向けて研究を行ってきた。
 
 オーストラリアの造船企業は、500海里を40ノット以上のスピードで航行し、航空輸送に匹敵する船舶の開発に成功した。たとえば、Austa1社は数年前、ガス・タービンを使用し、1,000トンの貨物を搭載して、速力42ノットのスピード655海里を航行できる95メートルの船舶(カーゴ・エクスプレス号(Cargo Express))を設計している。Incat社についても、出力28,000kWのディーゼルエンジンを搭載し、35ノットで運航できる高速貨物船を保有している。このタイプの船舶については、絶えず改良が施されている。
 
 北ヨーロッパや地中海、カリブ海、そしてアジアには、高速海上貨物船に適した航路が多く存在する。高速貨物船の航路として重要な要素は、二国間の貿易量が多いこと、短納期で納期厳守の高付加価値な貨物が大量にあること、そして、コンテナ輸送に比して航空貨物量の伸び率が高いこと、などである。
 
 現在、高速貨物船舶のコンセプトや技術はすでにあり、船舶も提供できる状態になっている。この分野の市場が伸びないのは、船会社が、新しいサービスの導入、貨物取扱いのための適切な設備投資に消極的であることが原因となっている。しかし、オーストラリア企業は、辛抱強くこのビジネスチャンスを追及している。







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