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2.4. 各輸出市場の特徴
 オーストラリアの高速旅客船造船業界に影響を与える、国際的な傾向を市場別に下記にまとめる。
 
北欧市場(英国、スカンジナビア、ドイツ、フランスなど)
 
 高速旅客船は、特に競争の激しいイギリス諸島付近の航路で、従来の船舶と急速に取って代わるようになってきた。英仏海峡トンネルが市場の方向性を変え、不法入国者による活動を管理するため近頃鉄道サービスが差し止められたことにより、この傾向がますます顕著となっている。
 
 東ヨーロッパの統合が依然実現しない一方、デンマークやスウェーデン、ドイツおよびオランダでは、従来の船舶を交換する動きが定着してきている。
 
 Incat社およびAustal社の両社は、多くの旅客船とカーフェリーを北ヨーロッパに供給してきた。1990年以来、Incat社は同社が建造した高速フェリーの40%を北ヨーロッパ市場へ供給しており、この内半分以上がイギリス市場向けである。
 
南欧市場(スペイン、イタリア、地中海諸国)
 
 地中海諸国内部および周辺ではここ数年間、高速旅客船市場が変化してきている。スペイン、イタリアおよびギリシャでは民営化がすすみ、競争力を維持するためにより大型で速い船舶を利用する必要がでてきた。1990年以来、Incat社は同社で建造した船舶の31%を南ヨーロッパに供給しており、その内64%がスペイン向けであった。
 
 ギリシャのピレウスにはおよそ50社の旅客船事業者に拠点をおいており、これら事業者の所有する単胴船および水中翼船の平均使用年数は24年である。2000年にギリシャで旅客船による事故が発生したことにより、政府当局は老朽化した鋼製旅客船を早急に交換させるための法制定を急いだ。従来から、ギリシャ国内の銀行は、ギリシャ人が新しい旅客船を購入する際の融資には消極的であった。従ってギリシャ人オーナーが新しい旅客船を購入する際には、海外の金融機関から融資を受けることになるが、その多くは造船会社が関与するものであった。
 
 予定されているアテネオリンピックもギリシャ市場に好影響を及ぼしたが、海外の造船業者が期待していたほどではなかった。
 
北米市場(米国、カナダ、およびカリブ海沿岸諸国)
 
 北米の高速旅客船市場は1997年には世界市場の5%を占めたにすぎなかったが、2002年には32%まで拡大すると予測されている。前述のように、米国市場へ参入するには障壁があるが、合弁事業およびライセンス契約により、海外の高速旅客船事業者に参入の道がある。Austal USA社は、2002年5月に同社が初めて建造した26mの旅客船を販売したことを発表した。業界アナリストは、世界で最も短期成長が見込めるのは北米市場であると分析している。
 
 Incat社は2002年5月初旬に98mの波浪貫通船型双胴船(船体番号:59−The Cat)を、タスマニアから16日間の航行を経て、ノヴァスコシアのBay Ferries社に納品した。BayFerries社がこの船を検査した後、販売が成立した。
 
 カナダ西海岸では、前述のように、Incat社による設計、カナダのBC Ferries社子会社の造船所が建造し、BC Ferries社が運行管理を行うはずであった3x122mの高速旅客船“PacifiCat”が、深刻な運営上および財務上の問題を抱え、カナダでは現在、高速旅客船の利用について見直しが行われている。
 
 カリブ海では、高級クルーザーの需要は見込めるが、様々な目的地を訪れたいとする乗客に柔軟な選択肢を与えるため、高速旅客船をクルーズ客船の補完として使うべきだと考えている旅行業者もある。
 
アジア市場
 
 アジアの高速旅客船市場は、域内の主要市場が大きく変動する度にその影響を受けてきた。1997年には、建造された高速旅客船の45%はアジア市場に販売された。アジア市場への販売比率は1999年に9%まで激しく落ち込んだものの、2002年には約20%まで改善することが見込まれている。
 
 アジアの大半の国々では今後数年間は、外貨準備や外貨の調達コスト、そして購入者の信用度が、船舶の購買力を制限することになろう。一般的にフィリピンやタイ、インドネシアでは米ドルと連動させた自国通貨を使って船舶の購入や改造、運航を行っているが、収入は切り下げが進行している自国通貨で得ている。
 
 多くの域内の旅客船事業者が、国内通貨の切下げや、燃料および予備部品の大幅値上げが業界に大きな衝撃を与えたと主張している。事業者の収入は政府によって管理されており、政府は運賃の値上げを実費の高騰とは関係なく法規に基づいて決定する。これらのサービスは民間企業が提供しているにもかかわらず、地域社会への社会貢献事業とみている政府もある。
 
 これらの国々では自国通貨の価値が下がり、高速旅客船市場における売上げ回復には限界がある。また高速旅客船の建造に際しては、これに必要な主要設備(電源装置、付帯設備など)を米ドルで購入しなければならないため、国内通貨の切り下げによる影響は必至である。
 
 フィリピンやタイ、およびインドネシアでは、定員100〜200人で最大速度28ノット、かつ従来のオーストラリア製のものより運用経費が、かなり安い小型旅客船に需要がある。
 
 アジアにおける最近の販売傾向は、自国通貨を米ドルに連動させている中国や、経済危機の間も自国通貨が依然強固であったシンガポールのような国が主な顧客であった。また旅客船は、予約をした国の通貨で運賃を前払いした旅行者が多く利用する航路でも使用され、その結果旅客船事業者の純利益が増加するような航路に使われることもある。特にシンガポールからバタム島への航路がその良い例である。
 
 シンガポール市場はこうした通貨切り下げなどの影響をそれほど受けておらず、最近の不況を克服して、高速旅客船市場として中短期的に成長する可能性もある。また中国も成長市場であり、当初はAustal社が市場を独占していたが、最近ではシンガポールの造船会社も市場に参入してきている。
 
 現在中国は、Austal社(オーストラリア)に8隻、Marintek社(シンガポール)に5隻を発注している。また5隻の高速旅客船がシンガポールに納入されることとなっており、1隻がDamen社(シンガポール)、4隻がWavemaster社(オーストラリア)建造することとなっている。
 
 アジア市場でのビジネスチャンスは大きいと思われるものの、インドネシアの場合、市場に参入するには合弁事業(JV)やライセンス契約が必要となる可能性もある。
 
 中東や南米、アフリカなどの海外市場は常に隙間市場として認識されていたが、高速旅客船市場は比較的小規模であった。あるオーストラリアメーカーが中東で事業を開始したものの、南米やアフリカ向けの注文は通貨制限により未だ抑制されている。







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