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2.3. 海外旅客船メーカーとの競合
 世界には71の高速旅客船メーカーがあり、国際市場向けに旅客船を建造している。しかし、この71社のうち、51%は過去6年間に1隻か2隻の高速船しか建造していない。この期間、最も建造数の多かった15社で、高速旅客船建造数の66%を占めている。
 
 主要な世界の高速旅客船メーカー(1996年以来、7隻以上の船を建造した造船所)の地理的分類は表4のとおりである。表4にみられるように、オーストラリアの高速旅客船造船企業にとって最大のライバルはヨーロッパの造船所である。
 
表4 世界の主要造船所と建造隻数
造船所 過去6年間の建造隻数 地域別建造隻数 地域別シェア
オーストラリアの造船所   83 37%
Austal Ships(西オーストラリア) 40
Wavemaster International(西オーストラリア) 18
Sabre Catamarans(西オーストラリア) 11
Incat Tasmania(タスマニア) 14
米国の造船所   41 18%
Allen Marine(西海岸USA) 17
Gladding Hearn Shipbuilding(東海岸USA) 16
Derecktor Shipyards(東海岸USA〉 8
欧州の造船所   74 33%
Kvaerner/Fjellstrand(ノルウェー〉 22
Oma Baatbyggeri(ノルウェー) 9
Batservice Mandal(ノルウェー) 7
Rodriquez Cantiera Navali(イタリア) 16
Fincantiera Cantiera Navali(イタリア) 9
FBM Babcock Marine(英国) 11
シンガポールの造船所   28 12%
Marintek(シンガポ-ル) 20
Kvaerber/Fjellstrand(シンガポール) 8
合 計   226 100%
 
 競合各社や他国の国際的な造船所が高速旅客船市場に参入をはかったが、追加注文を確保することができたのはそのうちのほんの数社に過ぎなかった。造船所によってはオーストラリア製の旅客船よりも大型かつ高速の船を建造していたが、船の料金も運行費も高く、性能も基準に満たないものが多かった。こうした船は“1度限りの利用”で終わることが多く、スケールメリットも少なく、オーストラリアの造船所のように修理による収益を得ることもできなかった。
 
 少数ではあるが、鋼製船舶の造船技術を有するヨーロッパやアジアの多くの造船所や、財務的にも組織的にも堅固な造船所で、アルミ製高速旅客船を建造しているところもある。これらの造船所の大部分は基本的には海軍向けあるいは昔からの鋼船の造船業者で、こうした企業によるアルミ船市場参入は成功していないものが多くみられ、またオーストラリア製の船舶ほど洗練されていないと、オーストラリアの造船会社はみている。
 
 米国における造船業界は、乗客および貨物用沿岸貿易船の同国への参入を制限する1920年の米国商船法(ジョーンズ法)2によって保護されている。この法律により、外国の旅客船メーカーによる米国市場への参入は阻害されており、参入の唯一の手段は合弁事業、あるいはデザインライセンス契約を結ぶことである。こうしたことから、Incat社とAustal社の両社は、米国企業との合弁事業を設立している。Austal USA CompanyはAustal Ships(オーストラリア)とBender Shipbuilding(米国)の合弁であり、2001年2月に最初の造船所をアラバマ州モビールに開設した。Austal USA社の初の売り上げは、2002年2月に納入した高速旅客船であった。また、Incat社は、Bollinger社と合弁企業を設立している。
 
 カナダでは、BC Ferries社がシドニーのIncat Designs社の設計による122mの高速旅客船3台を建造した。PacifiCatsと名づけられたこれらの高速旅客船は、1999年6月に就航されたが、その建造費は予定より大幅なコストがかかったこと3、多額のカナダ国民の税金が投入されたこと、および、性能が予測していたものより低かったこと、などで、大きな批判を浴びた。このプロジェクトに関しては、運航費に対する疑問や、航路の収益性(このような短い航路での就航の経済性)といった疑問も投げかけられた。建造を担当したのは、BC Ferries社の子会社のCatamarans Ferry Interational社であったが、建造経験がないにもかかわらず技術移転を受けてこのような大型旅客船を建造したことに対しても問題が指摘された。現在3隻のPacifiCatsは、オークションで販売に出されている。
 
 一方アジアの造船会社は、市場シェアを伸ばしつつある。アジア市場が不況を抜け出し、ヨーロッパの造船業者が労使関係問題に混迷する中、アジア造船業者が高速旅客船市場においてシェアを拡大するチャンスともいえる。現在シンガポールやフィリピンでは、ヨーロッパの造船業者による現地生産も始まった。例えばFBM Babcock Marine(イギリス)は最近、フィリピンのセブ島に新しい造船所を開設し、シンガポールや香港、そしてフィリピンにオフィスを持っている。
 
 アジアはオーストラリアの高速旅客船産業にとって、最大のライバルとなる可能性がある。景気が上向き、旅客船の需要が増えれば、日本や韓国の大手企業が東南アジアで高速旅客船の現地生産を開始し、オーストラリアの造船会社よりも大きなスケールメリットを実現することができるようになるかもしれないからである。
 
2 米国内港湾間の貨物の水上輸送は全て米国内で建造された、米国籍船として登録され、米国市民が所有し、米国の船員が乗船している米国フラッグシップを使って行わなければならないとしている。
 
3 1999年5月24日のNorth Shore Newsによると、当初2億1,000万Cドルの予算が、報道時までに4億5,000万Cドルまで跳ね上がったとされている。また、航行時の波しぶきの高さなどに問題があったとされている。







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