2. 高速旅客船の国際市場とオーストラリアの輪出
2.1. 国際市場の現状
高速旅客船の国際市場は、これに影響を及ぼす多様かつ複雑な要因により急速に変化している。2001年9月11日の同時多発テロ事件、船舶燃料の値上げ、法規制の変更、海外における旅客船事故、そして金融市場の変化などすべてが高速旅客船産業に影響を与えている。
Fast Ferry International社が年次調査を開始して以来、2000年と2001年の旅客船納入件数過去最低となった。2001年1月時点での発注予測は29隻であり、実際に2001年末までに納入された船舶数も44隻に留まった。2002年はこの状況がかなり回復し、発注予測は71隻と1997年以来最高となった。(1997年〜2001年の高速船の建造納入数については、 別添3を参照)
発注隻数が増えていることは市場関係者にとっては明るい話題ではあるが、発注された船舶の内訳をみると、4年前とはかなり異なることがわかる。市場は小型旅客船に傾いてきており、2002年には50人から199人乗り旅客船の発注が53件あったにもかかわらず、車両運搬旅客船は8隻のみであった。1997年末時点における未処理注文数は、50人から199人乗り旅客船がll件であったのに対し、車両運搬船は、22件であった。これは国際市場における需要の大きな変化を表しており、顧客の関心は価格が安く運航経費のあまりかからない小型の高速旅客船に移ってきている。
2002年のインターナショナル・オーダー・ブックの分析によると、以下の71隻の船舶の注文が確定している。その内訳は表2のとおり。
表2 |
船舶サイズ別船舶注文(2002年インターナショナルオーダーブック) |
船舶サイズ |
隻数 |
オーダーに占める割合 |
15から30メートル |
34 |
47% |
31から50メートル |
32 |
45% |
51から70メートル |
3 |
4% |
71から90メートル |
1 |
2% |
91から110メートル |
1 |
2% |
合 計 |
71 |
100% |
|
オーストラリアで建造される船舶の55%が50m級以上であるため、市場の変化は同国の旅客船産業に重大な影響を与える。また、オーストラリアや海外の小規模造船所が市場に参入し、既存の造船所からある程度シェアを奪う可能性のあることを意味する。
1997年1月1日から2002年12月31日までの期間、全世界で344隻の高速旅客船が建造された。また、オーストラリアでは同時期に103隻の高速旅客船が建造された。これらの旅客船の納入先の内訳は図2および表3のとおり。
図2 1997年〜2002年に建造された高速旅客船の仕向け地別割合
世界で建造された旅客船の仕向け地
オーストラリアで建造された旅客船の仕向け地
表3 1997年〜2002年に建造された高速旅客船の仕向け地
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世界で建造された旅客船 |
オーストラリアで建造された旅客船 |
仕向け地 |
隻数 |
仕向け地別割合 |
隻数 |
仕向け地別割合 |
北米 |
84 |
24% |
5 |
5% |
南米 |
11 |
3% |
2 |
2% |
欧州 |
134 |
39% |
43 |
42% |
アフリカ |
10 |
3% |
7 |
7% |
中東 |
6 |
2% |
3 |
3% |
アジア |
80 |
23% |
32 |
31% |
豪州/NZ/太平洋諸国 |
19 |
6% |
11 |
10% |
合計 |
334 |
100% |
103 |
100% |
|
表3から、世界で引き渡しされる高速旅客船のおよそ30%がオーストラリアで建造されていることがわかるが、建造された船舶の価格およびトン数でみると、オーストラリアのシェアはこれをかなり上回る。つまり、オーストラリアの高速旅客船業界は、大型旅客船のデザインと建造において成功している。大型旅客船の分野に限ると、50m級以上の船舶の55%および70m級以上の船舶の89%がオーストラリアで建造された。
これまでのトレンドをみると、国際市場における大型旅客船市場の需要が大きく縮小することを示唆しており、Incat社の業績不振、破綻に陥ったのも、この世界的な市場の変化がその一因ともいえる。しかし、軍需用の輸送手段に高速旅客船を使う試みも始まっており、この分野では新しいビジネスチャンスがある。例えば、米国海軍は既にAustal Auto Express101号のチャーター契約を3年更新している。Incat社の設計したJervis Bay号は最近オーストラリア海軍が3年間のリース契約を結び、さらに同社は米国の合弁会社Incat/Bollingerも米国海軍から軍用高速旅客船のリース契約を受注した。
2.2. オーストラリアの輸出実績
オーストラリアは世界の高速旅客船の世界市場におけるマーケットリーダーであると認識されており、同国製の高速旅客船が「人気が高い」船であることに疑いの余地はない。
Austal社は最近ノルウェーの旅客船事業者より、アルミニウム乗客/貨物カタマラン2隻、総額2400万豪ドルの受注を確保した。Austalグループがこの注文を受けたことにより、既に順調であった同社の業績はさらに拡大し、さらに米国海軍とのAustal Auto Expressの3年間リース契約、そして第3米国海兵隊との高速一般商船、WestPac Expressのリース契約が結ばれたことにより、Austal社の将来は明るい。
他のオーストラリア造船企業もまた、引き続き海外からの受注を受けている。西オーストラリアのSBF Shipbuildersは最近、ギリシア人の旅客船事業者と単胴船6隻の造船契約を結んでおり、また2002年における全世界からの注文の25%はオーストラリアの造船業者に対して発注されたものであった。
1997年以降(2002年の受注を含む)にアジア市場へ販売されたオーストラリア製高速旅客船の船舶数は合計32隻であった。これらの32隻の内、17隻が1997年に販売され、残りの15隻はここ5年間に渡って販売された。2000年のアジアヘの販売実績はゼロであった。この32隻の仕向け地は図3のとおりである。
図3 |
オーストラリア製高速旅客船のアジア向け輸出
(1997年〜2002年受注分) |
1997年1月1日から2002年12月31日までにアジアに販売された船舶は80隻である。従って、オーストラリアはこの期間、アジア市場において40%のシェアを確保したことになる。
なお、Fast Ferry International社の統計は、隻数ベースのみで発表されている。金額ベースの船舶輸出額は、図4のとおり、1999年が11億1,300万Aドル、2000年が6億5,500万Aドルと、2000年は対前年比41%減と大幅に落ち込んでいる。しかし、このうち、旅客船・貨物船(HS890110)は、4億8,664万Aドルから4億5,779万Aドルヘと、6%の微減となり、ヨット・レジャー船(HS8903)については、8,310万Aドルから1億2,566万Aドルヘ、50%増となっている。落ち込みが激しかったのは、「その他の船舶及びROW BOAT」で、1999年の5億2,669万Aドルから4,125万Aドルヘと10分の1となっている。
図4 オーストラリアの船舶輸出額推移
(拡大画面:23KB) |
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出所:オーストラリア統計局(World Trade Atlas CD-ROMより抽出)
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