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二、二十世紀初期における中国船舶工業発展の環境と条件
 新世紀に向かう中国の船舶工業は、前人の業績を受け継ぎ、新しい発展に道を開く歴史的重任を負っている。二十一世紀初期の5〜10年間の国際船舶市場、中国船舶市場、経済発展の情勢を展望すると、中国の船舶工業は発展のチャンスと共に、厳しいチャレンジと試練に直面しており、中国船舶工業の発展上、歴史的に重要な時期を迎えようとしている。
 
(一)中国船舶工業発展のチャンス
 将来の国際船舶市場に対し、国内外の権威ある各種機関が様々な予測を出しているが、2005年以前の船舶市場の発展の趨勢についての結論は基本的に一致する。即ち、世界の船舶市場は、世界経済の持続的かつ安定的な発展、大量の老朽船の廃棄という背景のもと、新規需要と代替需要の効果で、新造船に対する需要は引き続き高い水準を維持する。
 国内外の権威ある各種機関の予測では、二十世紀90年代後半から始まった新造船に対する旺盛な需要は二十一世紀初頭まで続き、2003〜2004年頃にピークを迎え、新造船に対する年間需要量は1980〜1995年の平均レベルより約50%高い3,500万〜4,500万重量トンを維持すると見ている。
 その後、二十世紀70年代半ばに建造した大量のVLCCタンカーの更新が一段落し、代替需要は減少するにも関わらず、二十世紀90年代前半の水準は維持できると予測されている。この国際船舶市場の明るい将来性は、中国船舶工業の発展に多くのチャンスをもたらす。
 同時に、中国経済と対外貿易の発展、河川整備の全面的な進展につれ、中国国内市場における新造船需要も伸びる。特にWTO加盟後、中国経済は、世界経済と全面的に一体化し、経済発展は新しい段階に入り、対外貿易も迅速かつ安定的に伸び、中国の海運業に更なる発展を求める。中国遠洋船隊の深刻な老朽化により大部分の船舶は代替しなければならず、中国国内における船舶市場の需要も旺盛になる。「十五」期間中、中国の中遠、中海と中外運の三大海運会社だけでも1,062万重量トンの新船を建造する計画がある。この他の需要を加えると、近い将来における中国国内の外航船に対する年間需要は、200万重量トン以上と見られる。その後数年間も、需要は更に拡大する見通しである。内陸河川船舶と各種の専用船舶に対する需要も明らかに増加する。これらの需要は、中国船舶工業の発展に市場とチャンスを与える。
 二十一世紀は、人類が海を大規模に開発する時代でもある。海洋漁業、海上輸送、海洋石油、天然ガスのような伝統的な海洋産業は、更に発展すると共に、海洋空間の利用、海洋エネルギーの利用、深海掘削、海底産業施設などのような一連の新興海洋産業も迅速に立ち上がる。伝統的需要とこれらの新しい海洋開発、海洋構造物に対する大量の需要により中国の船舶工業には新しい重大な発展がめぐってくる。
 
(二)船舶市場における過酷な競争による厳しいチャレンジ
 今後、5〜15年間の世界の船舶需要は旺盛であるが、一方、世界の造船能力も急速に拡大し、需給のバランスは崩れ、国際船舶市場における競争は、益々激烈になる。イギリスのクラークソン研究所の統計では、1990年〜1998年の新船に対する需要が年平均2.6%のペースの伸びであるのに対し、世界の造船能力は年平均6.6%のペースで伸びている。その結果、世界の造船能力過剰は急速に拡大し、1998年は29.9%にも達した。
 供給が需要を上回る深刻な状況にアジア金融危機と韓国ウォンの暴落が加わり、新造船の価格は下落を続けている。中国で多く建造されているパナマックス型ばら積船は、1992年の船価は3,200万米ドルであったが、1996年、1997年は2,700万米ドルに下がり、1998年は更に下がって2,000万米ドル以下になった。1999年末にようやく国際的な船価の下落が止まり、緩やかな小幅な上昇という傾向に戻った。
 世界の造船能力が過剰という局面では、将来の5〜10年では大きな変化は望めない。そのため、当分の間、世界の船舶市場は、取引は活発、船価は低迷、競争は激烈という厳しい状況が続くであろう。
 造船市場と伺様、今後、十数年にわたり世界の修繕船市場も供給が需要を大幅に上回る状況にある。1999年から2010年にかけ、世界の修繕船需要は29%増える。年平均約23%である。これに対し、2002年の時点で東アジア地域で8基の大型ドライドックが新たに増え、東南アジア地域には4つの船舶修繕工場が新たに建設される予定であり、船舶の修繕能力は需要をはるかに上回る。船舶修繕市場における競争も益々激烈になる。
 市場を奪い、更に独占的地位を確立するため、日本、韓国、ヨーロッパの造船業は、大規模な企業の吸収・合併による大手企業グループの設立、幅広い多国籍企業間の提携、技術投資の強化、政府の強いサポートなど多くの効果的な措置をとり、競争能力を強化する。標準船の販売を大いに促進し、生産体制を調整し、ハイテクによる近代化などの措置により更に生産効率を向上し、建造コストを下げる。これらの措置の効果で、近年、日本と韓国造船業の市場シェアは常に拡大している。両国が保有する新船受注の世界市場シェアは、1995年の7割弱から現在は8割以上に伸びた。世界の主要造船大国のシェア拡大傾向は、中国の造船業に益々大きな競争、プレッシャーとなっている。
 
(三)中国船舶工業の発展は、重要な時期にある
 「十五」期間中、船舶工業の発展は、全く新しい環境にさらされる。政府は引き続き積極的な財政政策、国債運用で投資を促進するなど内需を拡大するマクロ政策をとり、重点的伝統産業の近代化とハイテク産業の発展を推進し、船舶工業の技術開発が加速するよう支援を強化する。一方、中国のWTO加盟後、体制・環境に重大な変化が生じる。社会主義市場経済体制を更に完全なものとし、改革を大いに加速し、政府の国民経済に対するマクロ・コントロールの方式も市場経済に適応する方向に転換し、船舶工業の発展を促進、支持する新しい方法と方向を探らなければならない。
 二十世紀80年代に中国船舶工業が解決しなければならない主要な問題は「生残」であり、90年代は「発展」が課題であったとすれば、次の十年、或いは更に長い期間、中国の船舶工業は、「生残」と「発展」という二大問題に同時に対応しなければならない。中国の船舶工業は、党と政府に大いに期待されており、国民経済の新しい成長と輸出産業の柱になるために懸命な努力が続いている。国内外の市場にチャンスを与えられているという状況からも我々は、大きく発展する必要があり、それは、歴史が我々に与えた回避できない光栄な使命でもある。国際競争が益々激烈になる中で、我々の競争力に大きな改善がなく、船舶工業の成長が鈍いと業績不振、経営困難という厳しい現状に直面することになる。「生残」は、多くの船舶企業が再び直面しなければならない厳しい現実になっている。これからの5〜10年間、中国の船舶工業は、背水の陣を敷き、全力で自らを救うという勇気と決心で、困難を乗り越えできるだけ早く低迷から脱出しなければならない。チャンスを掴み、ポテンシャルを掘り起こし、優位を生かし、生残を図りながら発展を求め、新しい段階に躍進しなければならない。「十五」期問は、中国船舶工業の発展にとって、もう一つの重要な段階である。
 産業転換の規律に従い、世界の造船業は、次第に高コスト国から低コスト国に移転している。船舶工業における労働、技術、資金密集という産業的特徴、中国が備えた総合的優位により、中国の船舶工業は、二十一世紀に更なる発展を遂げる。
 
三、「十五」計画の基本構想と発展目標
(一)基本構想
 現在の船舶工業の実情、発展の環境と趨勢を考えたとき、中国の船舶工業における「十五」発展の基本構想は次の通りである。
 共産党十五回大会の精神を貫徹し、引き続き?小平氏の理論を指導とし、党と政府が積極的に推進する二つの根本転換という戦略思想と国民経済に対する戦略的な構造調整の配置によって、船舶工業の実情に合わせ、改革開放を更に堅持する前提で、市場に従い、経済効果を中心に、船舶の技術革新を動力とし、構造を調整し、資源配置を最適化することを重点にする。船舶工業の適切な速い成長と産業規模の拡大を維持すると共に、業界の総合的体質を強化し、国際競争力をアップする。
 
1. 改革を更に深化し、現代企業制度の確立と企業経営メカニズムの改善を積極的に推進し、国有船舶工業企業の再編を全面的に促進する。国有企業の改革、再編、改造を管理の強化と結合し多様な公有制を積極的に模索する。
2. 経済効果を中心に、全面的調整を戦略の重点とすることを堅持し、発展戦略の重点を確実に経済成長の質と効果を向上することに移し、内容を重視する発展を実施し、分散から集約へ、速度から質へと成長方式を転換する。
3. 競争力向上を船舶工業の生残と発展を確保する最も緊急の任務とする。有力な措置をとり、技術の進歩を促進し、科学的な管理を強化し、生産効率をアップし、建造コストを減らし、国際競争における中国船舶工業の総合的優位を確立する。
4. マクロ・コントロールを強化し、計画を統一し、配置を適正化し、盲目的投資や低いレベルの重複建設を制止し、造船と船舶修繕能力の発展に対する企画と指導を強化する。
5. 技術進歩を大いに促進し、各方面の技術資源を動員する。企業を主体とし、船舶工業技術の革新体制を作り、改善し、技術開発と生産・製造技術をレベルアップし、造船先進国との格差を縮小する。
6. 構造調整を強化し、市場動向に従い産業構造を積極的に調整、最適化し、大企業化と大集団化を推進する戦略を重点に優良企業をバックに資産流動と再編を大いに促進する。
 
(二)発展目標
 「十五」期間中の中国船舶工業の全体的な発展目標は次の通りである。
 大企業グループを中心に、大手、中堅、中小企業が協調して発展するよう構造を最適化し、配置を合理化し、大規模化と専門化を結合し、国民経済の発展と国防建設の需要に適応する産業構造の基礎を築く。船舶工業の総合的体質、労働生産性と経済効率を更に向上させ、全体の技術レベルを二十世紀90年代半ばごろの造船先進国のレベルに到達させる。国際競争力を大きく向上させ、船舶輸出を更に増加し、国際市場でのシェアを継続的に拡大し、本当の世界の造船大国になる。
 全体的な発展目標及び2005年を目途にした船舶工業の発展の主要目標は次の通り。
 
1. 総量目標
(1)建造能力と生産高
 国際的な通常の統計指標(鋼製・機関付・外航船)で2005年の建造能力を850万〜900万重量トンに拡大し、年間建造量650万重量トンを達成し、国際市場シェアで16%以上を占める。
(2)船舶修繕能力
 2005年の船舶修繕能力を450万重量トン以上、船舶修繕額(改造を含む)は120億人民元以上とし、国際市場で6%以上のシェアを占める。
(3)エンジン
 2005年に低速ディーゼル機関の生産能力を150万キロワットに拡大し、実際の生産高を130万キロワット以上にする。
(4)工業総生産と売上高
 2005年の工業総生産を820億人民元以上(1990年の価格ベースで計算)とする。「十五」期間の年間成長率は15.4%以上とし、850億人民元以上の売上高を実現する。
(5)工業増加値と利益
 2005年の工業増加値を200億人民元以上とし、年間成長率は約15%以上とする。2002年から業界全体で黒字経営に転換し、2005年には利益20億人民元を実現する。
 
2. 構造調整の目標
 2005年に二つの(集団公司の)年間建造量を200万〜250万重量トンとし、建造能力が日本の主要造船グループとほぼ同等で世界のトップ5に数えられる超大手の造船企業グループとする。年間建造能力が50万重量トン以上、高水準、高効率で特色ある自社技術と優位な製品を有する大手基幹企業を3つか4つ形成し、船舶建造の集中度をさらに向上させる。
 超大型タンカー、大型コンテナ船建造の壁を突破し量産を実現する。RO/RO船、化学薬品運搬船、コンテナ船などのハイテク船、高付加価値船、海洋プロジェクト関連装備の生産を更に拡大する。2005年には、この種の船舶の業界総生産額に占める割合を30%以上にする。
 既存の普通船型を不断に最適化し、シリーズ化、標準化へと発展させる。大手基幹企業ごとに、少なくとも二つのブランド製品をもつようにする。
 船舶修繕業界は船舶改装と特殊船舶修繕の割合を拡大する。
 関連設備企業は、専門化の方向に向かって発展し、普通船舶の国産船用設備の利用率を約50%にする。
 
3. 技術発展の目標
 技術進歩による貢献率を更にアップする。技術進歩の船舶工業の経済成長に対する貢献率を2005年には50%以上とする。
 
4. 輸出目標
 2005年の船舶輸出を500万重量トン、輸出額を40億〜50億米ドル以上とする。外国船の修繕割合を8割以上、生産額を12億米ドル以上とする。







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