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参考文献
発展目標
中国民用船舶工業における「第10次5ヶ年計画」(国防委制定)
(仮訳:ジェトロ・上海・センター舶用機械部)
 
 船舶工業は、現代重工業の縮図であり、国防・安全保障と国民経済の発展にかかわる戦略的産業でもある。改革開放から二十年以上の迅速な発展で、既に、船舶工業は、強い国際競争力をもつ中国の数少ない輸出型産業の一つに成長し、世界の船舶工業の重要な部分になった。二十一世紀の中国船舶工業は、新しい発展段階に入り、良好な発展のチャンスもあれば、日増しに過酷になる厳しい国際競争にも直面する。「十五」期間中、我々は、国際競争力を高めることを中心に、技術革新能力を強化し、船舶技術の進歩と産業の発展を促進し、船舶工業の構造と経済成長の質を改善し、国際船舶市場に占めるシェアを更に拡大し、船舶工業の更なる躍進を実現しなければならない。
 
一、中国船舶工業の基本状況
(一)概況
 改革開放以来、中国船舶工業では、?小平氏が提出した「船舶工業は国際市場に参入しなければならない」という戦略的指示を真剣に貫徹し、国内外の市場に対し、刻苦創業し、一生懸命に進取し、二十年の奮闘によって輝かしい成果を上げ、国際市場に注目される強豪チームになり、中国のメカトロニクス製品輸出の重要な柱にもなった。
 現在、中国船舶工業は、研究、設計、製造、関連産業、修繕を含む完全な産業体形が一応形成され、様々なトン数の船舶および多くのハイテク、高付加価値の船舶の設計、製造ができる。最新の統計では、中国に各種規模の造船、修繕、関連企業は2,000社、従業員数は約40万人である。年間売上高が500万人民元以上の企業は480社、従業員数は合計で31.5万人である。
 中国に5,000トン以上のドライドックは35基、浮ドックは11基、船台は53基もあり、造船能力は500万重量トンに近い。鋼製の機関付船舶を年間に300万重量トン以上製造し、世界の造船市場でのシェアは5%〜7%である。
 3,000トン以上の修繕ドックは約100、修繕ドックの能力は合計で313万重量トンになる。船舶修繕額は約50億人民元で、世界の船舶の修繕市場のシェアの約3%を占めている。
 海外の先進技術の導入と積極的な自主開発により、中国の船舶の主要設備・技術レベルは加速度的に高まり、中低速のディーゼル・エンジン、舶用補機、計器などを含む関連工業も一応形成された。
 中国の建造量は、既に六年連続で世界第三位を維持しており、世界市場で5%〜7%のシェアを占めている。この十数年間、中国で建造された船は、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、フランス、カナダなど先進国を含む五十以上の国と地域に輸出されており、2000年の船舶製品の輸出額は16.35億米ドルに達し、中国メカトロニクス製品の輸出の中でも上位にあり、中国船舶工業の猛烈な発展は、国内外の注目を集めている。
 
(二)「九五」期間中の発展状況
 アジア金融危機による深刻な影響と打撃を受けながらも、「八五」の高速の発展に基づき、「九五」期間中も中国の船舶工業は、引き続き進取、開拓の姿勢を保ち、発展の勢いを維持した。「九五」中の発展は、次のような特徴がある。
 
1. 高度な経済成長が維持され、造船の建造量も、安定的に増えた
 「九五」中、中国の船舶工業は、発展の勢いを維持し、約1,820億人民元の工業総生産(1990年の価格ベースで計算)を実現し450億人民元伸びた。「九五」中の建造量の合計は1,500万重量トンに、売上高も1,800億人民元に達した。
 企業ベースでみたとき、「九五」期間中、旧中国船舶工業総公司の工業総生産は1995年の150億人民元から2000年は238億人民元に躍進し、年平均の伸び率は11.7%であった。
 工業生産の増加値は1995年の41億人民元から2000年は58億人民元に増え、年間の平均伸び率は8.3%であった。建造量は、アジア金融危機に影響され伸びが鈍くなったにも関わらず、年間の平均伸び率は4%であった。
 江蘇、福建、山東、浙江など地方の船舶工業は、高い成長を維持し、福建船舶工業の総生産の年平均伸び率は13.2%であった。
 
2. 建造船舶は更に優秀に
 ばら積船、多目的船、原油タンカーなどの一般船舶に加え、大開口の多目的船、コンテナ船、プロダクトタンカー、ケミカルタンカー、LNG船、セメント運搬船、半潜水式石油掘削用プラットフォームなどのハイテク、高付加価値船の割合が増加した。旧中国船舶工業総公司が「九五」期間中に完成した船舶の中で、ハイテク、高付加価値船舶の生産額の割合は23.4%に達した。一部の中堅造船所は、大型自動積降船、RO/RO船、高速フェリーなど一連のハイテク船の建造に成功し、ハイテク船の建造に必要なブレイクスルーを実現した。1999年に中国の造船所は、初めて5隻の30万トン級のVLCC型タンカーを受注し、更に2000年には8隻の5,618TEUコンテナ船を受注し国内建造の空白を埋めた。
 
3. 船舶輸出は高成長続く
 「九五」期間中、中国は合計80億米ドルの船舶を輸出し、年間平均の伸び率は約10%であった。2000年は、アジア金融危機に影響され、中国全体で対外貿易が落ち込んだが、船舶輸出額は16.35億米ドルという高水準に達した。
 
4. 造船と船舶修繕の基礎施設の建設が加速され生産能力は急拡大
 「九五」期間中の中国造修企業の施設建設・改造投資により新たに完成した万トン級のドック(船台)は9基、改造したドック(船台)は5基で、新規の建造能力は約200万重量トンとなった。
 修繕では、3.5万トン級以上の船舶修繕ドック十数基が新たに増設され、新しいドックの合計は150万重量トンに達し、中国の船舶修繕能力は倍増した。
 現在、さらに一部大型ドックが建設中であり、上海外高橋造船基地建設プロジェクトは、国家重点プロジェクトにリストアップされている。
 
5. 地方の船舶工業は猛発展
 「九五」期間中の中国船舶工業の大きな特徴の一つは、地方企業と合資企業の猛烈な発展である。建造能力も生産量も急激に増加し、規模も拡大し、競争力も連続的に強化され、船舶工業集団、船舶重工集団公司と共に「三分天下」の局面になった。
 江蘇省の六社の地方中堅造船所は、69万トンの生産能力を有し、2000年は40万重量トンの建造実績がある。同省の中外合資造船企業の合計造船能力は56万トンである。
 2000年には江蘇省の3社が中国船舶輸出企業トップテンに入り、手持工事量のトップテンの企業にも4社が入った。これらの地方企業が製造する船舶は、ほとんどが万トン級以上で輸出船舶も相当の割合を占めている。福建、山東の船舶工業の発展も注目を集めている。
 
(三)存在する問題点と格差
 二十一世紀に競争するであろう相手と中国の船舶工業には大きな格差が存在し、多くの問題点があることも指摘しなければならない。
 
1. 能力構造が不合理で、高レベルの能力が不足し、低レベルに重複建設が存在する
 中国の造船生産量は、世界第三位であるにも関わらず、日本・韓国の1/6〜1/8しかない。中国の造船業の年間生産額は、およそ日本の1/5、韓国の1/4で、ドイツ、イタリアなどより低い。国際船舶市場では、日本と韓国で約七割のシェアを占めており中国が占めるシェアは僅か5%〜7%である。世界全体からみたとき、中国の船舶工業の規模を大きく発展させなければならない。現段階では、強い競争力を持つ高レベルの建造能力が不足している一方、低レベルの建造能力は過剰であり、建造能力の構造の不合理な状況は深刻である。
 船舶修繕も同様である。多くの船舶修繕企業の設備は規模が小さく、レベルは低く、粗末である。大型の船舶を修繕、改造できるドックは、非常に少なく、世界の船舶の発展と船舶修繕市場の需要に対応できない。
 近年、中国の一部の船舶造修企業は、技術レベルと生産効率の向上により造修能力を拡大し、市場シェアをアップするではなく、盲目的に大型ドックに向かう傾向があり、低いレベルの施設の重複建設という現象は深刻である。各企業は、大型の船舶造修施設に投資し、新たな建設によって造修能力を急激に拡大することを図った。そのため船舶工業全体の規模が乱れ、競争力不足という状況の中での重複建設は、業界全体の構造問題を一層深刻化させた。
 
2. 企業の規模が小さく、規模の経済の効果を充分に発揮していない
 中国の船舶工業は企業の数は多いが、規模は明らかに小さい。一造船所当たりの平均生産量は1万重量トン以下で、韓国造船所の平均規模の1/20に過ぎない。旧船舶総公司傘下25社の船舶造修企業の1997年の合計生産量は、韓国現代重工蔚山造船所の生産量の半分にも及ばない。中国最大規模を誇る8社の造船所を日本、韓国の造船所と比べれば、規模の差は顕著である。企業の資産規模からみれば、その格差はもっと大きい。
 船舶工業は、規模の経済の効果が明らかな産業でもあり、特に高度に一体化された独占競争型の国際船舶市場において、市場競争は、グループ化の競争、総合力の競争、多面的な競争という特徴をもっている。国際大型造船企業グループが常に拡大する一つの要因は、規模の経済の作用を存分に発揮し、国際競争力を強化することにある。中国の船舶企業の規模が小さいことは、既にその国際競争力に影響を与える一つの要因になっている。
 
3. 技術革新能力不足で、技術レベルの向上が遅い
 全体からみれば、中国の船舶の技術的基礎は弱く、技術力が足りない。有効な技術革新体制ができていないことに加え、技術資源を利用する効率が低く、技術レベルの向上が遅い。技術開発への資源投入が、日本、韓国よりはるかに遅れているため、中国の船舶工業の生産性、製品開発能力、設計製造技術のレベルは、造船先進国より明らかに劣っている。
 二十世紀の90年代後半から、競争上の優位を維持・拡大し、技術競争力を強化するために、日本、韓国、ヨーロッパの主要造船国は、技術投資を強化した。際立って対照的に、中国では船舶技術への投資が極端に不足している。そのため、技術開発の進展が遅く、中国の船舶企業と世界の先進国の生産性の差は拡大した。
 中国の主要船舶企業の一人あたりの平均の生産性は、日本、韓国の主要船舶企業の1/10に過ぎない。造船の機械化・自動化に重要な役割を果たす鋼材前処理、管の加工、平面工作、立体工作の製造ラインが少ないのみでなく、設備の近代化の程度も低く、国際基準に達したものも非常に少ない。船型開発と船舶設計の面では、中国が自主開発し、設計した船型の大部分は普通の船型で、ハイテク、高付加価値の船型は非常に稀である。船舶の設計技術と設計手段は遅れており、設計周期も長く、中国船舶工業の競争力を制限するネックとなっている。
 近年、中国の船舶の技術レベルは明らかに向上したが、日本、韓国など造船先進国の造船技術もさらに迅速な向上を実現しており、国際的な先進国のレベルとの格差を短縮するためには船舶技術の進歩を更に加速させなければならない。
 
4. コスト面の優位が弱化し、国際競争力上も楽観できない
 中国建造船舶の低価格は、国際船舶市場での競争における主要なメリットとなっていたが、この優位は主に中国の安い人件費によって得られている。二十世紀90年代後半から、中国の建造コスト(人件費と材料・設備のコスト)は、非常に速いスピードで上昇しており、建造周期、技術レベル、品質などの問題に加え、中国船舶企業の国際競争力上、楽観できないものとなっている。競争上優位な地位が大いに脅かされている。
 90年代後半の関連データの分析で、中国と日本、韓国の造船業の一人あたりの生産量格差は10〜15倍、一人あたりの生産額の格差は約25倍、一総トン数当たりの船舶建造に必要な時間の格差は約5倍という結論があった。建造周期については、15万トン以下の各種一般船舶の場合、日本、ヨーロッパの主要造船国の平均の建造周期は、10ヶ月以下であるのに対し、中国では12〜20ヶ月を要する。鋼材の利用率についても、日本の各造船所は、平均92.0%であるのに対し、中国は平均87.7%である。生産額一万米ドル当たりの電気消費量は、日本が347キロワット時であるのに対し、中国は3,606キロワット時で、約10倍の格差がある。
 
5. 船用関連設備の国産化がなかなか進まず、国産品の利用率が大幅に低下
 近年、船舶工業の規模拡大、船種の増加に伴い、舶用製品の種類、品質、性能は、益々船舶工業の発展に伴う需要に追いつかなくなっており、国産の舶用設備の利用率低下に歯止めがかからない。「七五」期間末には、旧船舶工業総公司の国産設備用率が七割以上に達した時期もあったが、「八五」期間中には降下に転じ、1995年の利用率は43.3%に減少、その後も年々減少傾向にある。2000年は、40%を割り込んでいる。これに対し、日本の国産舶用設備の利用率は97.8%にも達し、韓国も約85%に達した。
 中途半端な技術導入、深刻な技術投資不足により、舶用企業の開発、革新能力は弱体化している。長期にわたる技術開発の遅れ、関連企業の製造設備・工場の老朽化により、生産条件によっては製品のバージョンアップ、生産品目の増加という要求に対応できない状況になっている。古い製品の生産能力は過剰であっても、船舶工業に必要な高いレベル、高い品質の新製品を生産する能力は、極めて不足している。
 舶用工業の相対的な遅れは、中国の船舶工業の更なる発展を制約するネックとなっている。特に中国のWTO加盟後、中国に舶用設備と技術を提供していた外国企業が直接製品を輸出する或いは中国に直接、生産基地を設立する可能性が現実となっており、技術導入は、新たな困難に直面している。
 
6. 管理が遅れており、建造方法の転換が遅い
 国際的、先進的なレベルと比べ、中国の船舶工業における管理技術の遅れは最も目立っている。国際的に先進レベルを追いかける過程で長い間、製造技術の向上と技術レベルの改善に重点をおき、管理技術をあまり重視していなかった。技術導入においても技術、設備は重視したが、ソフトの技術、管理技術は軽視していた。管理上の遅れは、中国の船舶企業に生産効率の低下をもたらし、生産コストもなかなか下がらず、業績不振の要因にもなっている。厳しい市場環境と既存の管理レベルの対立は、解決しなければならない課題となっている。
 二十世紀90年代初期から、中国は伝統的な建造方式から近代的な建造方式に転換しようとしており、船体・内装・塗装を一体化した建造技術を推進している。一部の中堅造船所には、近代的な建造方式の効果が現れ始めた。しかし、業界全体をみると、方式の転換の進展は非常に遅い。方式の転換を生産組織の管理レベルをアップする重要な作業として力を入れなければならない。「十五」期間中に全面的な突破を実現しなければならない。
 できるだけ早く中国船舶工業の発展上に存在する主要な問題点を解決し、造船先進国とのギャップを縮めることは、「十五」期間中の構造調整の重点であり、「十五」計画で重点的に考えなければならない内容である。







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