日本財団 図書館


9 第10次5ヶ年計画以降の中国船舶工業の見通し
9.1 WTO加盟の影響 注)
9.1.1 新しい条例
 中国はWTO加盟後、対外貿易の健全な発展を促し、対外貿易の秩序を維持し、公平な競争を図るため、「中華人民共和国反補助金条例」「中華人民共和国保障措置条例」及び「中華人民共和国反ダンピング条例」の3つの条例を発表、2002年1月1日から実施した。
 これらの条例に基づき中国は、船舶・舶用工業製品を含む製品の不公正な中国への輸出等に対し対抗措置をとることができる。
(「中華人民共和国反補助金条例」)
 「中華人民共和国反補助金条例」では、輸入品に補助があり、国内産業(船舶工業もこれに含まれる)が損害を蒙る、実質的な脅威を受ける、もしくは国内産業の実質的障害となっているとき、中国政府はこれらの確固たる証拠を把握し、相手国、国際組織と協議の上で、臨時に反補助金措置、反補助税などの措置をとることができる。
(「中華人民共和国保障措置条例」)
 「中華人民共和国保障措置条例」では、輸入品が増加し、競争相手に当たる国内産業に深刻な損害や脅威をもたらした場合、中国政府は調査を行ったうえで、関税引き上げ、数量制限などの保障措置をとることができる。
(「中華人民共和国反ダンピング条例」)
 「中華人民共和国反ダンピング条例」では正常な貿易の過程において、輸入製品が通常価格を下回る価格で中国市場に入ってきている場合、ダンピングとみなして、ダンピングを行っている企業と製品に対し、反ダンピング税、現金による保証金の提供、保証書もしくはその他形式による担保などの臨時の反ダンピング措置をとることができる。
 
9.1.2 新しい組織・透明な審査
 WTO加盟後、中国政府は国務院の認可を経て、経済貿易委員会に産業損害局を、対外経済貿易委員会に輸出入公平貿易局を設立し、WTO加盟後の新しい状況と問題に対応する体制を整えた。
 審査面でも、政府の行政審査制度は徐々に簡略化され、透明、公平さを増すであろう。
 中国政府は、市場メカニズムに委ねられる行政審査は市場メカニズムに委ね、行政審査の必要なものは規範による統一的な運用を行い、審査方式を簡略化し、情報を公開し、厳密な内部監督制度を確立し、規範的な運用機構を確立するとしている。
 しかし、中国船舶工業への現行の支援・保護措置の取り扱いは不明である。
 
9.1.3 関税引き下げ
 WTO加盟後、中国は船舶工業の分野でも、中国政府の約束したタイムテーブルに従い、非関税措置を取り消し、関税を引き下げる。
 非関税措置では、加入時の約束に基づき、2004年1月1日までに、特定の船舶を輸入するときに必要となっていた国際入札の要求が取り消される。
 関税では、2004年1月1日までに、一部の舶用製品の輸入関税が大幅に引き下げられる他、各種船舶の輸入関税も引き下げられる。
 
9.1.4 資本導入
 外資の中国船舶工業への参入が緩和される。WTO加盟時の約束に基づき、貿易・販売に対する制約、商社設立時の外資比率に対する制約などが全産業的にを認められていくなかで、外国企業の中国船舶工業への参入も現在より容易になっていくであろう。
 
注)
詳細は「WTO加盟後の中国造船・舶用工業に関る調査報告書(2003年3月)」((財)シップ・アンド・オーシャン財団等)を参照。
 
9.2 今後の展望
1 底固い中国国内需要
 現在までのところ、中国船舶工業の総生産額、総生産量、工業的付加価値額など主要な指標の伸びは第9次5ヶ年計画期間(1996年〜2000年)を大きく上回っている。第9次5ヶ年計画の期間には、これらの指標は、中国マクロ経済の一時的低迷及びアジア金融危機の影響を受けたが、第10次5ヶ年計画期間(2001年〜2005年)では、海外の経済環境が中国船舶工業へ与えるマイナスは、日韓と比較すると大きくないとの予測もある。理由としては、中国国内の海運業界は船舶の更新時期を迎えておりまとまった需要があることや中国関係の大幅な荷動きの増大に伴う新造船需要がいわれている。
 第10次5ヶ年計画で計画されている中国外航船は680万トンで、契約金額は35億ドルに達する見込みであり、「国輪国造(自国の船舶は自国で建造する)」という政策の下、この国内船需要の多くは国内の造船企業に発注される可能性がある。
 このほか、遠洋漁業船、国家海洋局の海洋観測船や浚渫船等工事用船舶も多くの受注を中国造船業界にもたらすであろう。
 
2 続く三極構造
 中国船舶工業集団公司、中国船舶重工集団公司は中国で最も重要な民用船舶の生産企業であるとともに、中国でも最も重要な軍需工業へのサプライヤーである。第10次5ヶ年計画の期間も、国の関連部門の強力なサポートを得て、市場競争力をさらに一層強固なものに発展させることは間違いないであろう。
 江蘇省の造船企業は第9次5ヶ年計画の期間に非常に高い発展を実現した。30億元(約450億円)をインフラと技術改良に投資し、生産能力と技術レベルを大幅に向上させた。
 江蘇省の造船企業の多くは、外国との合弁企業や地方管理の中小国有企業であり柔軟な経営等のメリットを生かして更に発展していくであろう。
 
3 建造能力は拡大
 中国の建造能力は更に拡大し、2005年には1,000万トンに近づくとの見方もある。
 中央政府は、船舶工業を中国の全産業の中で比較的輸出競争力のある産業であるとしており、今後さらに生産量を増やしていきたいと考えていると思われる。
 山東、福建、淅江、広東、遼寧、江蘇、上海などの沿海都市の地方政府の中には船舶工業を発展させ、地域の基幹産業として雇用が吸収されることを期待するものもある。
 舶用設備の国産化率は、建造船の高度化等に伴い低下しているが、中長期的には、舶用設備の能力もあがっていき、国産化も進んでいくと思われる。
 
4 幅広い分野で外資との提携が進む
 中国の船舶工業の開放はさらに進む。中国のWTO加盟により、中国経済の開放度は急速に高まっているが、船舶工業も同様である。2001年には、中国で初めて外資合弁の船舶設計会社である「大連福凱船舶設計公司」が設立されるなど、幅広い分野で中国と外資の提携が進む可能性がある。
 地方政府も船舶工業発展のために、外国企業との合弁を奨励しており、例えば、山東省は日本・韓国の企業との合弁を通して、船舶工業を省の基幹産業にしたい考えである。
 
5 縮まる日韓との技術差
 新製品の開発と生産技術の進歩により、中国と日韓との技術差は縮まる。中国自身も技術開発の重要性を認識しており、政府による全産業的技術開発支援、各企業の積極的な技術開発投資は続くであろう。
 液化天然ガス(LNG)運搬船、高速フェリー、超大型コンテナ船、20万トン級のバラ積船などの建造実績が増えていくのにつれ、日韓との距離は縮まり、中国の世界市場での地位は、さらに高まるであろう。
 
6 新しい船舶工業政策
 現在、国防科学技術工業委員会で「国家船舶工業政策綱要」の作業が進められている。
当初、2002年中に公布される予定であったが、朱鎔基氏総理を初めとする幹部異動に伴い国防科学技術工業委員会主任(大臣級)等の人事も行なわれる可能性があることから、要綱の決定は新幹部を待って行なわれるとみられる。
 
注)
9.2章については、中国社会科学院工業経済研究所 趙 英教授の意見をJETRO上海舶用機械部で取りまとめたもの。
 
参考文献:
1. 「中国機械工業年鑑」1996年〜2002年
2. 「中国統計年鑑」1996年〜2001年
3. 「中国経済年鑑」1996年〜2001年
4. 楊天正「我が国の船舶工業製品イノベーション」(「中国科技フォーラム」1999年第5期)
5. 朱汝敬「世紀に跨る世界船舶市場と船舶工業」(「船舶経済貿易」2001年第1期)
6. 李宝華「2000年世界及び中国造船の概況」(「船舶経済貿易」2001年第1期)
7. 魏敬民「2001年世界及び中国造船の概況」(「船舶経済貿易」2002年第2期)
8. 呉錦元「中国船舶建造技術の発展戦略と選択」(「船舶経済貿易」2001年第2期)
9. 劉克増「2000年我が国船舶輸出分析」(「船舶経済貿易」2001年第2期)
10. 汪彦国「船舶工業“九五”難関突破の成果」(「船舶経済貿易」2001年第2期)
11. 劉伝茂「我が国船舶工業の直面する現状と挑戦」(「船舶工程」2001年第1期)
12. 船舶工業協会「船舶公司“九五”計画要綱及び2010年目標設定」(「発展探索」1997年第4期)
13. 呉錦元「船舶工業の国民経済に及ぼす作用と貢献」(船舶工業技術経済協会ネット)
14. 国家経済貿易委員会「“十五”工業構造調整企画要綱」
15. 曹恵芬「我が国船舶関連企業の問題分析及び発展思考の検討」(船舶工業技術経済協会ネット)
16. 「専門家が見る中国造船技術の発展状況」(2002年6月21日「中国船舶報」)
17. 李承万「CSSC、CSIC“十五”が描く発展の青写真」(中国造船ネット)
18. 陳小津「“三つの代表”を堅持し、日々向上し、世界一流の造船集団を建設するための奮闘・努力 中船集団公司のリーダー幹部モニター会議での講話」(CSSCウェブサイト)
19. 「中船重工による党設立81周年、公司設立3周年大会」(CSICウェブサイト)
20. 孫国棟「我が国の造船工業は既に“天下三分”を形勢している」(船舶工業技術経済協会ネット)
21. 付新汝「ボトルネックを打破、発展を加速 我が国船舶工業発展の現状と対策」(「船舶経済貿易」2002年第2期)
22. 「中国第10次5ヶ年計画」(田中 修著、蒼蒼社)
23. 「日中産業技術政策の比較研究(趙 英)」(アジア経済研究所)
24. 「中国産業ハンドブック」(丸川 知雄編)
25. 「中国船舶報」1995年〜2002年
26. 「船舶経済貿易」1999年〜2002年
27. 「中経網」、「中国政府網」など中国関連総合ウェブサイト







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION