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7.3. 重点技術の開発
7.3.1 第9次5ヶ年計画期(1996年〜2000年)
 第9次5ヶ年計画期の科学技術政策の重点は、1997年11月18日に公布された「第9次5ヶ年計画国家重点技術開発指南」で示されている。指南は、166のキーとなるプロジェクトからなり、エネルギー、鉄道・道路輸送、郵便通信、鉄鋼、有色金属、電子、医薬など各産業の重点技術が網羅されている。造船では次の3つがキープロジェクトとされている。
(1)大型・高付加価値船の設計・建造
(2)舶用設備の重要技術
(3)高速旅客船設計のために重要な技術
 
 1998年には、512の国有企業(国家重点企業)と120の企業集団(試行企業〉を重点的に対象にして技術改良支援が行なわれ、江南造船、宝山製鉄、長虹、海尓、北大方正、華北制薬の6社が「技術創新試験企業」とされた。
 
7.3.2 「国家重点科学技術ブレークスルー計画」
 産学協同で技術研究開発体制を作り技術をブレークスルーしようというものであり、第9次5ヶ年計画の1996年から2000年に船舶工業では次の8件が「国家重点科学技術ブレークスループロジェクト」として指定された。
 8件のブレークスループロジェクトの総費用1.75億元(約25億円)のうち、国は6,700万元(約10億円)を分割で支払う。
 中国船舶工業集団公司(CSSC)と中国船舶重工集団公司(CSIC)は、このブレークスループロジェクトの成果を活用して19億ドルの輸出を受注した。この結果、2大集団所属造船企業が、第9次5ヶ年計画の期間(1996年〜2000年)に建造した高付加価値船の全生産額に占める割合は23.4%になった他、LPG船は1.65万立方メートルから2.2万立方メートル、コンテナ船は4,000TEU、更には5,618TEUの受注へとつながったとされている。
 
表12 
「国家重点科学技術ブレークスルー計画」の対象船舶
計画対象船型 第1船完成時 主要な建造企業
15万トン級スエズ型原油輸送船 1997 大連重工
5万トン級大ハッチ多目的貨物船 1996 大連重工
4.6万トン大型化学薬品運搬船 1997 大連造船廠
3.4万トン大型バラ積船 1995 江南造船
1.65万m3半冷半圧式LPG 1998 江南造船
7万トン大型セルフローディング船 1999 江南造船
9,000トンセメント運搬船 1998 中華造船
1,714TEUコンテナ船 1999 東造船
出所:中国社会科学院工業経済研究所
 
7.3.3 国家重点技術イノベーションプロジェクト
 1997年、中国は「国家技術イノベーションプロジェクト管理規則」を発表した。この中で、「伝統的産業を改革する新製品及び新技術」(第6条(3))などを技術イノベーションプロジェクトの対象とし、国の助成・融資を受けられる旨規定している(第26条)。
「2002年度国家重点技術イノベーションプロジェクト計画申告についての通知」によると、船舶工業では、「国家重点イノベーションプロジェクト」として次の7つが対象。
・高速水中翼旅客船(遠舟公司などが担当)
・自動物流システム(昆船造船集団公司が担当)
・1,000TEU級の高速ハッチレス・コンテナ船(江南造船集団公司が担当)
・2万〜8万立方メートルのLPG船(江南造船集団公司が担当)
・2.8万トンのドライ貨物・コンテナ輸送船(大連造船廠が担当)
・500、800、1,500立方メートルのドラッグサクション式浚渫船(文冲船廠と中華造船廠が担当)
・5万トン級の浅喫水肥大型石炭運搬船(上海船舶設計院が担当)
 
7.3.4 「国家重点新製品プロジェクト管理弁法」
 1997年11月の「国家重点新製品プロジェクト管理規則」では、「対外貿易輸出による外貨獲得が出来る新製品」(第4条(4))等を対象に財政補助(16条)や利子補給(17条)を行う旨定めている。
 
7.3.5 「当面の技術発展の業種別重点(1999年)」
 国家経済貿易委員会が産業政策として決定した「当面の技術発展の業種別重点(1999年)」では、中国船舶工業技術の発展の方向と重点について次のようなものをあげている。
(1)ハイテク、高付加価値船
20万トン以上の大型原油タンカー、高速船、水中翼船等
(2)海洋構造物
半潜水式掘削プラットフォーム、移動式多機能型掘削プラットフォーム等
(3)舶用設備
舶用主機、舶用補機、航行自動化システム等
(4)船舶建造技術
(5)基礎技術
 
7.3.6 
「当面、国家が重点的に発展を奨励する産業、商品の技術目録(2000年修正)」)
 2000年、国家発展計画委員会、国家経済貿易委員会は共同で「当面、国家が重点的に発展を奨励する産業、商品の技術目録(2000年修正)」を公布し、2000年9月1日から施行した。なお、それまでの「当面、国家が重点的に発展を奨励する産業、商品の技術目録(試行)」は廃止された。
 目録に合致し、投資額以内で輸入される設備は、関税と輸入時の増値税が免除される。現在、28の分野と526種の製品、技術並びにインフラ及びサービスの発展が奨励されている。
(具体的指定項目)
船舶工業分野の目録は以下の8項目。
1. ハイテク船、高性能船、特殊船及び6万トン以上の大型船舶の設計・製造
2. 3,000TEU以上のコンテナ船の建造
3. 1万トン以上のフェリー、貨客船の建造
4. 5,000立方メートル以上の液化ガス(LPG)運搬船の建造
5. 液化天然ガス(LNG)船の建造
6. 舶用エンジン、舶用発電設備の製造
7. 舶用クランクシャフト、舶用補機、電子機器の製造
8. 海上掘削用プラットフォームの建造
 
7.3.7 国家産業技術政策
 2002年8月、国家経済貿易委員会は財政部、科技部、国家税務総局と共同で「国家産業技術政策」を制定・公布した。これは国防科学技術だけでなく工業全般、農業までを含む技術政策要綱であり、技術政策について市場を主体とした方向付けを行った指導的文書である。
 この中で、海洋技術の発展の方向など船舶工業に関連する産業技術政策についても規定している。即ち、海洋技術を重点的に発展させるべきハイテク技術として海洋油田の開発などの海洋工事技術をあげている。
 海運業、水産業の重大な設備の製造など伝統産業の技術レベルについても、ハイテク技術で伝統産業の改革を図るとしている。
 この他、船舶工業と関わるのは、遠洋漁業技術、深水ハブ港湾技術、コンテナ輸送システム技術、大型高効率港湾岸壁積卸し設備の技術、港湾及び船舶での輸送制御技術、内陸河川・主要航路建設技術、海上の交通安全・交通制御技術、大型船・河川浚渫に関わる重要技術などである。
 今回制定された「国家産業技術政策」は第10次5ヶ年計画の時期(2001年〜2005年)を重点にしつつ、その後5年間(2006年〜2010年)の発展も視野にいれたものとなっており、その戦略目標として、2005年までに重点産業、重点企業、重点製品、重点プロセス及び重要設備について、重要な技術のブレークスルーを成し遂げ、現在の国際先進レベルに近いものとする。さらに、新技術の開発を進め、2010年までに、国際先進レベルと同等にし、特に重点産業分野、鍵となる技術で基本的に国際先進レベルに到達する。
 
7.4 ハイテク産業化
 中国政府が、もう一つ力を入れていることに情報技術を使った産業のハイテク化ということがある。この関係では、最近、次の文書が出されている。
・「ハイテク・先進技術による技術改良で伝統産業のレベルアップを図ることについての実施意見」(2002年、国家経済貿易委員会)
・「当面、優先的に発展させ、ハイテク産業化する重点分野のガイドライン(目録)」(2002年、国家発展計画委員会)
 
7.4.1 
「ハイテク・先進技術による技術改良で伝統産業のレベルアップを図ることについての実施意見」
 2002年4月、国家経済貿易委員会は「ハイテク・先進技術による技術改良で伝統産業のレベルアップを図ることについての実施意見」(以下「実施意見」という)を公布した。
 この「実施意見」では、3つの「行動計画」・注)を実施し、積極的に伝統産業の改造・レベルアップを図るとしている。
 さらに付属文書として、「ハイテク・先進技術による技術改良で伝統産業のレベルアップを図るための重点項目」があるが、この付属文書では、船舶工業の重点項目として次のようなものが指摘されている。
 
(1)情報技術の応用による伝統産業レベルアップの重点
・船舶工業のe・ビジネスのためのプラットフォーム
・コンピューター統合建造システム(CIMS)の建造過程での研究と応用等
(2)研究開発に重要な技術とプロセス改革による伝統産業レベルアップの重点
・造船用ロボット技術等
(3)主導的製品と設備改造の研究開発による伝統産業のレベルアップの重点
・ハイテク、高付加価値船型
・新型掘削プラットフォーム及び掘削船、一点・複数係留式のFPSO・海洋事設備
・重要舶用設備 等
 
注)「情報技術の応用により伝統産業のレベルアップを図る行動計画」
「研究開発に重要な技術及びプロセス改革により伝統産業のレベルアップを図る行動計画」
「主導的製品と設備改造の研究開発により伝統産業のレベルアップを図る産業行動計画」
 
7.4.2 
「当面、優先的に発展させ、ハイテク産業化する重点分野のガイドライン(2001年版)」
 国家発展計画委員会、科学技術部は、「当面、優先的に発展させハイテク産業化する重点分野のガイドライン」(2001年度)の「交通運輸」の項目で、船舶工業の健全な発展をもたらす重点技術として以下の3項目をあげている。これは、1999年に公表されたものを改正したものである。
(1)コンテナのマルチモーダル輸送情報システム及び積卸設備
(2)高速旅客船
・水中翼船、エアクッション艇、ウエイブピアサー、高性能の高速艇など各種高速旅客船全体の設計・製造レベルの向上
(3)大型高付加価値船及び重要舶用機械・電気設備
・30万トンの超大型タンカー(VLCC)、大型液化天然ガス(LNG)船、大型コンテナ船、新型化学薬品運搬船、FPSO、フェリー、高効率バラ積船及び高効率浚渫船
・環境低負荷型舶用ディーゼル機関、クランクシャフト、排気駆動の過給機、ドレッジャー設備、発電機、環境保護設備、船舶自動化設備、電子計測機器







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