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7 技術開発の推進
7.1 政府の基本認識
 中国政府はハイテク技術・産業に高い関心を有しているが、同時に船舶工業のような伝統産業も非常に重視している。
 技術開発施策では、技術開発の発展の方向とともにLNG船など建造経験のない船種の実用化を目標として明記している例が多く、製品開発技術の意味合いが大きい。基礎研究よりも、実用研究に重心がおかれているものと思われる。
 技術レベルとしては、重要な技術は海外からの技術導入による場合も多く、基礎技術、先端技術等の技術開発力は弱く、また、自らの力で新しい製品を開発する等の能力も充分とはいえない等、本当の意味の技術開発(新技術の開発)というレベルには至っていない。
 政府としては、朱鎔基前首相が述べているように「ハイテク技術の産業化を進めるとともにハイテク技術を用いて伝統的産業を改造していくよう努める」との考えである。
 第10次5ヶ年計画(2001年〜2005年)では、船舶工業の技術開発・改良のための固定資産投資として102億元(約1,500億円)が予定されている。内訳は、銀行融資60億元(約900億円)、自社資金42億元(約630億円)。
 
7.2 政府の施策と支援
7.2.1 政府の施策
 船舶工業を振興し、産業構造を高度化・最適化するためハイテクと先進技術で船舶工業の技術のレベルアップを図ることは、中国政府の船舶工業に対する一貫した重要方針である。
 これまで次のような施策により船舶工業の技術開発が図られてきているが、これらの施策は、船舶工業独自のものではなく、全産業を対象とする中で、船舶工業についても特定項目を重点開発分野として指定するものである。指定された技術開発には、財政支援、利子補給、税の軽減等の支援が行なわれる。
 船舶工業に対する技術開発施策は、事実上、経済貿易委員会が中心になって、国防科学技術工業委員会と相談しつつ行っていると思われる。
<重点技術開発>
「国家重点技術開発指南」(第9次5ヶ年計画)
「国家重点技術改良」(国家経済貿易委員会)
「国家重点科学技術ブレークスループロジェクト」(国家計画委員会)
「国家重点イノベーションプロジェクト」(国家経済貿易委員会)
「国家重点新製品プロジェクト管理規則」(科学技術部)
「当面の技術発展の業種別重点(1999年)」(国家経済貿易委員会)
「当面、国家が重点的に発展させる産業、製品の技術目録(2000年修正)」(2000年、経済貿易委員会)
《「十五」国家科学技術研究計画実施要領》の公布についての通知(科学技術部)
「国家産業技術政策」(国家経済貿易委員会 2002年8月)
<ハイテク産業化>
「ハイテク・先進技術による技術改良で伝統産業のレベルアップを図ることについての実施意見」(国家経済貿易委員会 2002年)
「当面、優先的にハイテク産業化して発展させる重点分野指南(目録)」(国家計画発展委員会、科学技術部)
 
7.2.2 政府の支援
 2001年12月に開催された全国計画工作会議の報告で、国家発展計画委員会主任の曹培炎は、「2002年は大型、新型の船舶と舶用設備の国産化を支援する。」と述べている。
 この発言にみられるように、中国の船舶工業の国家産業政策の中心は、大型、新型の船舶と国産の舶用設備の分野であり、技術開発・改良における国債による利子補給、技術改良プロジェクトにおける国産設備投資の企業所得税減免などの支援措置もこれらの分野を重点に行われていくであろう。
 なお、中国の造船・舶用業界には、技術導入・投資誘導策が不可欠であり、そのための「舶用工業技術開発振興法」を提案する有識者もあるが、特定の産業を前提にした法制化は困難なようである。(中国海事通信第17号参照)
 
(1)国債による利子補給
 1999年以後、国は国債発行で得られる資金の一部を、企業が技術開発のために借り入れた資金の利子に当てることで銀行の融資と企業の技術開発投資を引き出している。船舶工業の技術開発も対象となっている。
 
(2)所得税減税等
 1998年以後、造船企業が国の奨励する国家産業政策に基づく技術改良プロジェクトのために自己資金もしくは銀行からの借入金で設備投資したときは、企業所得税が40%減免されている。これは、固定資産投資における徴収方針を暫定的に停止したことになる。
 1999年7月1日からは、条件を満たす国産設備の技術開発投資について、増加した企業所得税に対し減免を行うことを決定した。同時に、政府は国有船舶企業の原価償却の割増、新製品開発費用の積立、先進技術及び先進的設備の導入にかかる関税及び輸入時の間接税の減免など船舶工業の技術を促進するための一連の措置を打ち出しており、船舶工業の技術レベルの向上を図っている。
 さらに2000年には、「国産設備技術改良投資の企業所得税減免暫定弁法」が公布されている(後述)。2002年3月発行資料での技術開発優遇税制を表11に示す。
 
表11 
中国政府が科学技術開発、技術進歩奨励のため採用している優遇税制
税種 主要内容 恩恵を享受する対象
不動産税 政府関係機関の経済自立を奨励するため、国家財政部門から事業経費を支給している機関は、自己収入・自己支出制への移行後、3年間不動産税を免除 研究機関
所得税 研究開発目的及び重要な技術の開発のため専有技術を提供して得られた特許権使用料は、国務院税務主管部門の認可を経て、10%の優遇所得税率を適用する。技術が特に先進的であるか、或いは条件が優遇的であれば、所得税を免除してよい。 外資系企業外国企業
所得税 沿海経済開放区、経済特区、経済技術開発区において、所在の都市の旧市内地域に立地した技術集約、知識集約型プロジェクトの製造業外資系企業;国務院が認定した最先端技術開発区に設立され、最先端技術企業であると認定された外資系企業及び北京市新技術産業開発試験区に設立された最先端技術企業であると認定された外資系企業は、15%の優遇所得税率を適用する。 外資系企業
固定資産投資方向調節税 科学業務用施設や政府重点の研究開発プロジェクト関連施設と高度技術、中間試験、工業性試験と開放型試験室には0%の税率を適用する。 研究機関、研究プロジェクトの実施機関
個人所得税 省レベル地方政府、国務院の各省庁と中国人民解放軍の方面軍クラス以上の機関及び外国組織・国際組織が授与する科学・教育・技術・文化衛生・体育・環境保護等の分野の報奨金は個人所得税を免除。 個人
増値税 科学研究や科学試験と教育に直接使用するため輸入した設備・計測器は増値税を免除。  
営業税 無形資産(パテント、非営利技術等を含む)譲渡に関わる営業税は税率5%。  
所得税 国務院が承認した最先端技術産業開発区内の企業と関係する部門から最先端技術企業と認定された企業は15%の優遇所得税率を適用できる。 ハイテク企業

研究機関大学・専門学校

企業事業機関
国務院が承認した最先端技術産業開発区内の新しく操業した最先端技術企業は、投資年度から2年間所得税を免除。
研究機関と大学・専門学校が、技術成果の譲渡・技術訓練・技術コンサルティング・外部委託業務によって取得した技術に関わる収入については、暫定的に所得税を免除。
新たに操業した独立採算の技術コンサルティング・外部委託業務に従事している企業或いは経営機関については開業の日より、第一年から第二年まで所得税を免除。
企業事業単位が技術譲渡を行い、技術譲渡の過程中に発生する所得と技術譲渡に関係する技術コンサルティング・委託業務・技術教育の所得は、年の総収入が30万元以下で所得税免除、30万元を超えた部分は法により所得税を納付。
営業税 技術の導入と普及を奨励するため、研究機関の技術譲渡収入は所得税免除 研究機関
所得税
付加価値税
関税
一、企業が大いに技術開発に力を投入することを奨励する。 国有・集団所有工業企業
1. 企業の新製品開発、新技術開発の費用については比率制限を課さず、管理費用に計上を認める。
2. 研究開発費が年10%以上増える企業は、更に実際の額に従って所得税を40%控除。
3. 設備・測定器を試作し、一台の価値が10万元以下の場合、一括か或いは分けて管理費を計上。
二、産学共同研究を推進し、共同開発を促進する。
1. グループ本社が技術開発費を纏めて計上する方法を採用できる。
2. 企業・研究機関が科学研究・科学試験に直接使用する輸入計測器・科学試料・技術資料は付加価値税を免除。
三、企業の技術開発の成果が製品化されることを促進する。
1. 企業が技術譲渡を行い、年の総収入が30万元以下で所得税免除、30万元を超えた部分は法により所得税を納める。
2. 中間試験設備の償却年限を国の規定の基準より30〜50%速めることができる。
四、企業の機器・設備の更新を推進する。企業は比較的短期の償却年限を選択できる。重要企業とその他の企業の特殊な機器・設備について2倍残高逓減法か年度総和法を採用できる。
五、技術進歩に対する財政の投入を増加させ、管理方法を改革する。
 利子補填方法の改革。利子補填を企業に直接行う。また技術改造利子補填資金の使用を、技術進歩の状況と国の産業政策に適合させ、新技術の産業化に重点的に用いる。
所得税 一、企業・研究機関の人員の給与は管理費に計上し、年度末に課税対象所得を計算する際、納税を調整する。 国有・集団所有工業企業
二、黒字企業が新製品・新技術・新製法技術の開発にかけた費用が、昨年比10%以上(含む10%)増えた場合、その年かかった費用規定によってそれぞれの支出を控除するほか、年末に主管税務機構の審査と許可を経た後、更に実際にかかった額の50%を納税すべき所得から控除できる。新製品・新技術・新製法技術の開発にかけた費用の増加が、昨年比10%以上に達しない場合は、控除されない。
輸入税 科学研究機関と学校が、営利を目的とせず、合理的な数量の範囲内で、国内生産が不可能な科学の研究・学習用品(中間試験設備は含まず)を輸入し、科学の研究と教育に直接使用した場合、輸入関連附加価値税・消費税を免除。 研究機関 企業技術研究センター
出所:
日中産業技術政策の比較研究(2002年3月 趙 英)







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