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5.3 個別企業改革
 船舶工業の発展目標を実現するため、政府は第9次5ヶ年計画(1996年〜2000年)以来、次のような企業改革を進めてきた。
 
5.3.1 債権の株式化等による企業の債務負担軽減
 1997年、市場があり、経営も順調であるにもかかわらず資金繰りが苦しいという一部企業の矛盾を緩和するために、国家経済貿易委員会は黒字転換のための特別融資制度を設けた。同制度は、1年に限り利子が免除されるものであるが、一部の国有基幹造船企業は当該融資の対象となった。
 1999年、国有企業の債務負担を軽減するため、中国政府は積極財政政策を実行し、市場があり、有望で技術レベルが高く、管理も良いリーダー的船舶工業の企業に対して、債権の株式化を実施した。
 具体的には、設立された「中国信達」、「華融」、「長城」、「東方」の4社の金融資産管理企業(不良債権処理専門会社)が、国有商業銀行の不良債権を一部購入して株式化することで、銀行の企業に対する債権を資産管理会社の株式に転化するというものである。債権株式化の後、金融資産管理企業は不良債権の相手先企業の株主として、各種手段でリストラを行い、当該企業の資本構造の優良化、現代的企業制度の確立、企業経営システムの転換を行う任務を負う。
 1999年、大連造船新廠、昆明船舶設備集団公司、武漢重型鋳造廠で相次いで債権の株式化が実施され転換額は20億元(約300億円)に達した。
 2000年、中国船舶工業集団公司所属の江南造船(集団)有限責任公司、正茂有限責任公司、文冲船廠の3社の船舶企業でも債権の株式化が実施され、総額は7.34億元(約110億円)(江南が4.3億元(約65億円)、正茂が1.17億元(約17億円)、文冲が1.87億元(約27億円))に達した。2000年は全額で4,400億元(約6兆6,000億円)の費用が軽減された。
 2001年6月、中国船舶重工集団公司所属の渤海造船廠が債権の株式化を実施するとともに社名を「渤海船舶重工有限責任公司」と改めた。株主は中国船舶重工集団公司、国家開発銀行、華融資産管理公司、信達資産管理公司である。
 2002年4月、中国船舶重工集団公司所属の大連造船廠が、やはり債権の株式化を実行し、名称を「大連船舶重工有限責任公司」と改めた。転換額は2.3億元(約35億円)にのぼった。
 これらの政策の実施により、企業は債務負担を軽減できただけでなく、資産負債率も減少し、資本構造は改善され、投資主体の多元化も実現され、これらの企業が苦境から脱却して発展を加速するための条件が整った。
 さらに重要なことは、債権の株式化により、単に企業の「所有・責任の明確化、政府・企業の分離、科学的管理」に基づいた現代的企業制度が確立しただけでなく、規範的な法人による管理構造が確立され、企業経営の規範化へ向けた転換も促進されたということである。
 
5.3.2 国有株の売却
 国有経済の戦略的再構築と資本の流動性の実現を推進し、株式の多元化により国有企業が法人として真に独自の経営を行う現代的企業制度を形成するため、中国共産党第十五期第四回全体会議(1999年9月〉は「国有企業改革と発展に関する若干の問題についての決定」の中で、以下のように述べている。
 「国有企業が国民経済の柱になっているという国有経済の局面を考慮しつつ戦略的に調整を進め、退くものは退くという原則を堅持し、やるべきことを実行する。国有経済のコントロールを強化すると同時に、国有経済の機能をコントロール力、影響力、動員力のあるポジションにおく。国有経済に影響の大きい特定の分野を除いて一部上場企業は条件付で国有株を減らし、それで得た資金を(国は)企業改革と発展に投入する。」
 上述の文書は、はじめて明確に「評価の高い、発展する潜在力のある国有上場企業を選択して、国の株式支配力に影響を与えない範囲内で国有株を減らし、その資金を改革と発展に用いることができる」と述べたものである。方式は有償譲渡で、譲受者は非国有企業もしくは個人で、株の売却により得た資金は国が国有企業改革と発展に用いる。
 対象企業は評価の高い、発展する潜在力のある国有上場企業のみで、国有株を減らす範囲も上場企業の大株主は国であり、その支配的地位は放棄しないという前提はあるが、上述の文書及び国の関連政策からみるとき、この国が初めて保有株式を減らしてもよいと決定したことは非常に大きな意味がある。
 
 2001年3月、第九回全国人民代表大会第四次会議で通過した「国民経済と社会発展のための第10次5ヶ年計画の要綱」では、さらに、「非国有企業、個人、外国の投資家の国有企業改編への参画を奨励し、非上場国有企業の株式構造の調整と株式売買を推進し、混合所有制企業を形成する。」と述べている。
 2001年4月、国は上述の要綱に基づき「国有株を減らして社会保障資金を調達する管理暫定弁法」を制定した。この「暫定管理弁法」は国有株の売却範囲を、さらに拡大している。すなわち、「国有株の売却」を「一般投資家及び証券投資基金などの機関投資家に対して上場企業および非上場企業の国有株を譲渡する行為」とし、国は産業構造調整の観点から必要と認めた企業には、その支配的地位を放棄し、民間企業及び外資に支配的地位を許すとしている。
 株式売却のプロセスは、先ず国有株を増やしたうえで売却を実施し、その後、徐々に国有株の増発を減少させ国有株ストックの問題を解決するとしている。株式売却の対象となる業界で競争がすでに浸透している分野では、国は国有株を全て放出し、都市の給水、交通などの分野では国は最もよい保有比率を選ぶ。
 国の経済と人民の生活に関わり国の独占が必要な業界、例えば電力や鉄道、電信などについては、国有株が支配的という状況が維持されるであろうが、コントロールの方法には一定の変化が生じるであろう。反面、国有株売却政策の実施は、現在育ちつつある中国株式市場に一定のショックをもたらしたのも事実であり、2002年6月23日、国務院は暫定的に国内の株式市場を通じての国有株の売却を停止した。しかし、これは国有株を売却しないのではなく、国が国有株売却についてハードランディングを放棄し、軟着陸の措置をとることにしたということである。
 現在、上場企業の国有株の外資企業への譲渡については、まだ政策上の障害が残っており、外資が中国市場に参入するには、多くの迂回的路線をとる必要がある。例えば親会社の持分を買収することや株式の増発、親会社と合弁で「名目上」の上場を果たすことなどである。しかし、今後は、国益に関わる特別な業種を除けば、政府は、通常、競争分野にある国有株売却について最終的に制限を設けることはないと思われる。民間企業と外資が徐々に市場競争の激しい業種に参入することで、市場メカニズムにより資源の最適配置が進むと考えられるからである。
 国有株の株式市場での売却停止に伴い国有株の譲渡はこれまでどおり協議譲渡の方式で進められることとなる。なお、基礎統計によれば、2002年1月から8月までに上場企業の持分が協議譲渡されたのは70社あまりで、2001年の295社から明らかに減少している。
 国有株の売却方針がでた後、船舶工業分野の国有企業の株売却も検討対象になったといわれているが、これまでのところ大きな進展はない。







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