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5.2 集団企業改草
5.2.1. 二大集団の成立
 1997年に開催された中国共産党第十五期大会以降、船舶工業内部に有効な競争システムを確立するため、中国船舶工業総公司の体制を変革することが方針となる。
 1998年に、国務院の機構改革プランが提出された後、中国船舶工業総公司の改革が議題に上るようになった。
 1999年7月1日、「国務院の中国船舶工業集団公司に関する問題についての回答」および「国務院の中国船舶重工業集団公司に関する問題についての回答」の精神に基づき、中国船舶工業総公司が解消され、中国船舶工業総公司(当時)の基礎の上に中国船舶工業集団公司(「南方公司」、「CSSC」と略される)と中国船舶重工業集団(「北方公司」、「CSIC」と略される)が組織された。
 南方公司のメンバーは、華東、華南及び江西地域、上海(江蘇、安徽を含む)、広州(広西を含む)、九江など南方地域を主とする基幹の造船・修理企業、舶用工業企業、研究院(科学技術開発単位)などと南方公司の関連・持ち株会社である。江南造船(集団)有限公司、滬東造船集団、広州広船国際股有限公司や中国船舶及び海洋工程設計研究院、中国船舶工業第九研究院、中国船舶貿易公司など計61の事業単位から構成されている。
 北方公司は主として大連、西安、天津、武漢、重慶、昆明などの地区の造船、修理企業、舶用工業企業及び第七研究院の大部分の研究所と北方公司の関連・持ち株会社である。大連重工、大連新船重工有限公司、渤海造船廠、山海関船廠、北海造船廠、武昌造船廠など48の企業と中国艦船研究院など28の研究院、15の持ち株会社で構成される。
 船舶貿易公司、船舶物資総公司、香港華聯船舶公司、国際聯合船舶投資公司、中船財務公司は2つの集団公司が共同で株式を保有している。
 
5.2.2. 二大集団の職責・権限
(i)政府の集団企業への関与−国営企業から国有企業へ
 国は、二大集団公司に対し、「重要な製品への経営の適度な集中」、「製品開発管理の集中」、「主要原料の購買集中」、「資金管理の集中」という「四大集中」改革を推進し、機能が完全で、権限が明確で、合理的枠組みと効率の良い管理方法を有する、これまでの中国船舶工業総公司のもつ行政管理色の強い集団公司とは異なる管理モデルを構築するとしている。
 国防科学技術工業委員会、国家経済貿易委員会はこの二大集団の運営の規範化を図るため、「中国船舶工業集団公司定款」及び「中国船舶重工集団公司定款」を定め、その中で二大集団について10項目の職責と8項目の権限を規定している。この中でも、二大船舶集団公司の経営方針、活動領域は、これまでの中国船舶工業総公司と比べ、企業としての特色がより突出したものになっている。
 中国の国有企業改革の進展に伴い、国有船舶工業集団に対しても政府は個別企業の経営への全面的・直接的介入を控えるようになったと言える。
 
(ii)職責と権限
 集団公司は、10項目の職責と8項目の権限を有している。
 最大の職責は、管理委託された国有財産管理を生かして最大利潤をあげるというものである。その職責を果たすために、8項目の権限があり、特に傘下の企業に対する監督権限として人事、経営、投資についての最終決定権を有する。
 
5.2.3. 二大集団育成策
(i)大企業・大企業集団戦略
 90年代以降、経済のグローバル化とともに、一国の経済力、国際競争力は、大企業・大企業集団によるところが多くなったとの認識のもと、中国でも、重要な業種で大企業、大企業集団を育成することが第10次5ヶ年(2001年〜2005年)計画要綱などでの重要な施策となっている。
 中国政府は第9次5ヶ年計画当時(1996年〜2000年)から大企業、大企業集団戦略を実施してきており、大企業・大企業集団を育成するための一連の奨励措置をとっている。
 第10次5ヶ年計画では、「著名なブランド力、知的所有権を有し、コア事業に優れ、コアコンピタンスを有する大企業、大企業集団を形成する」と述べ、できる限り3〜5年以内に、50〜100のコア事業に優れ、管理レベルの高い、競争力のある大企業、大企業集団を形成し、現代的企業制度の要求に合致させ、国際競争力をもつようにするとしている。
 
(ii)重点的に育成する対象となる大企業・大企業集団
 国が重点的に育成する大企業・大企業集団(「国家重点企業」と略す)は、「規模が大きく、利益率が高く、発展の展望が明るく、かつ国民経済、国民生活に関係し、業界の発展に重要な役割を果たす特に大きな工業企業」とされている。
 船舶工業については戦略的輸出産業であると判断されており、「大企業、大企業集団」戦略の一つを構成する産業となっている。
 
(iii)大企業化−国家重点企業の指定−
 1995年当時から中国は、「大(企業)をつかんで、小(企業)を放つ」という方針をとり、国有の大企業をさらに大きく育てていく政策をとる。
 1996年には今後優先的に育成していく重点企業として、国務院の認可を経て、国家経済貿易委員会が、まず、300社の重点企業を指定し、続いて212社をそのリストに加えた。これら512社・注)の中には、第1次指定300社の中に大連造船廠、滬東造船廠、広州広船国際股有限公司が、第2次指定212社の中に大連造船新廠、江南造船集団有限責任公司があるが、中国遠洋運輸集団公司(第2期で指定)のように中国船舶工業総公司としての指定はみられない。
 計画では、その後、第3次指定として500社が発表される予定であったが行なわれず、1999年に国家経済貿易委員会が第1次、第2次指定の企業512社に、若干の企業調整、非国有優良企業の追加を行い、520社の「国家重点企業」を指定した。これら520社は、26の業種が青海、チベットを除く29の省、自治区、特別市に分布しており、多くは国有企業及び国有企業の持株会社である。
 この国家重点企業に指定された企業は、当該企業の幹部人事、資産運用等に中央政府が関与する。本指定は中央政府の管理・関与を明確にしたものともいえる。
 現在、中国船舶工業集団公司と中国船舶重工集団公司はそれぞれがひとつの企業として、国家重点企業に指定されている。
 注)中国産業ハンドブック(丸川知雄編)参照
 
(iv)「国家重点企業」に対する優遇措置
(1)優先上場権
 1992年、中国政府は中国船舶工業総公司に所属する広州造船廠を全産業中で第9社目の「株式海外上場試行規範改造企業」に指定した。この指定に基づく株式会社への制度改革で、広州造船廠は生産に関係するすべての資産を株式会社所有とし、生活支援のための食堂、ホテル、レストラン、学校など非生産部門を株式会社と切り離し、翌1993年8月と10月にそれぞれ香港、上海で株式を発行、船舶工業業界初の上場企業となった。
 株式の公開販売を通じて、国は42.6%の株式を所有、海外投資家は31.8%、国内投資家は25.6%を占めた。中国船舶工業総公司(当時)は国家を代理する株主として支配的地位にあった。
 1997年6月には、江南造船集団が単独発起人となって、所属の鉄鋼構造物事業を対象に、株式会社への改革を行い、江南重工股有限公司を設立、上海証券取引所に上場した。上場後の江南重工股有限公司の株主は国が54.5%、一般投資家が45.5%となった。江南重工股有限公司の主な業務は建築、橋梁などの大型鉄鋼構造物の工事で、LPG船用大型タンク、舶用機械、船用部品などの設計、製造、据付などを行っている。
 2000年5月、中国船舶重工集団公司は、河北風帆股有限公司を主たる発起人にして、同公司を上場、13,800万株を発行した。同公司の主な業務は「風帆」ブランドの電池及び電池関連製品の取り扱いである。
 
(2)「国家重点企業」の技術センター設立奨励と支援
 科学技術の進歩を加速し、国家重点企業の技術の後進性を改善するため、中国政府は国家重点企業への科学技術院の参入、技術センターの設立を奨励した。その結果、これまでに、江南造船(集団)有限責任公司、滬東中華造船(集団)有限公司、大連重工有限責任公司、昆明舶舶設備集団有限責任公司、風帆集団有限責任公司、広船国際股有限公司、大連新船重工有限責任公司、外高橋造船有限公司などが、いずれも国の奨励と支援の下に国家レベルの造船技術センターを設立している。
 また、資金面でも、国家重点企業となっている船舶工業企業の科学技術開発及びブレークスループロジェクトに対し、一定の支援策がとられた。
 
(v)大企業集団化−試行企業の指定−
(1)大企業の選択と試行についての請訓
 1991年12月14日、国務院は「国家計委、国家体改委、国務院生産弁公室による一群の大企業の選択と試行についての請訓の回覧審査の通知」を発表し、57社を企業集団改革の試行第一群として認定した。これは、一つの大型国有企業を中核に、関連国有企業の吸収・合併・子会社化等により大きな企業グループを作り、国際競争に耐えられるものにしようというものである。中国船舶工業総公司はこの試行第一陣に属した。
 
(2)試行企業
 1997年5月16日、国務院の同意を得て、国家計委、国家経貿委、国家体改委は、国務院に代わり、「大企業集団の試行に関する意見」を発表し、企業集団育成モデルとして1991年の57社に63社の試行企業を追加した。この結果、試行企業は120社まで増え、これら120社の試行企業の合計は、全国の独立採算制をとる工業企業の資産、販売収入、税収の1/4、利潤の1/2を超えた。
 この試行は大企業集団育成を目的としたものであり、試行企業は企業としての自主権が拡大され、ファイナンス会社(「財務公司」)の設立や、対外貿易権、従業員の出国を認める権利などが与えられ、国の計画体制の中では、省政府などと同等の地位(「計画単列」)が与えられるなどの優遇策がとられた。中国船舶工業総公司も、それまでは、総経理(社長)は大臣クラスとされるなど、行政機関として取り扱われていたが、この試行などにより現代的企業制度のもとで民営化が進むことになる。
 1999年7月1日、中国船舶工業総公司は中国船舶工業集団公司(南方公司)と中国船舶重工集団公司(北方公司)に分割されたが、現在は、両集団とも試行企業に指定されている。二つの集団公司のメンバー企業、子会社は、集団公司とともに次のような優遇策を享受できる。
 
(vi)大企業集団育成のための優遇措置
(1)広い投資決定権
 1997年の「大企業集団の試行に関する意見」により、固定資産投資額が限度額以下(3,000万元(約4,500万円)以下)の小規模プロジェクトに関しては、企業集団が自ら投資を決定できるようになった。
 外資が直接投資したプロジェクトで投資規模3,000万米ドル以下の生産プロジェクトは、試行企業集団の親会社が、国務院の委託を受け、国家計委、国家経貿委、国家体改委の認可を経て決定を下す。報告・資料は国務院に保存する。企業集団の親会社及び親会社の有限責任公司、股有限公司投資の累積投資額が自社の純資産の50%を超えてもよい。
 
(2)集団公司の親会社に広い資金調達権
 試行企業集団の親会社は国務院の関連主管部門の認可を得て、国内外の金融、証券市場から資金を得ることができる。企業債券の発行・上場を行う企業は、試行企業集団の親会社が条件に合う企業を優先的に選ぶことができる。国務院関連主管部門の認可を経て、試行企業集団の親会社は、外国からの資金調達権を保有できる。国務院の関連主管部門の認可を経て企業集団の親会社は外国に担保権を設定できる。
 
(3)財務公司(ファイナンス会社)の設立が可能
 1997年、中国船舶工業総公司は自社の財務公司を設立し、主要なサービス対象を総公司が株主である18の企業とした。国の関連規定によれば、当該企業集団の経営範囲は、集団内部のメンバーの信託、保管、投資業務、融資、リース業務、手形引き受け、手形割引業務、企業債券の代理発行と委託販売、担保及び信用証書の手続き、与信調査、経済コンサルティング業務、債券の売買及び代理売買、短期借款の手続き、国家外貨管理局の認可を得た外貨業務である。
 
(4)国家計画の中で高い地位
 生産、投資、エネルギー供給、対外貿易、給与、教育、財務、融資など9分野に及ぶ国家計画の中で省政府などと同等の地位が与えられる。
 1999年、中国船舶重工集団公司は、8つのプロジェクトが国債援助技術改良計画に入り、2〜3年の利子補給政策を受けた。また、国家技術改良プロジェクトを対象とした8.7億元(約130億円)の国家財政による資金援助枠から4,975万元(約7.5億円)の支援を単独で受けた。
 2000年、中国船舶重工集団公司は7つのプロジェクトが国家新製品計画に入り、14のプロジェクトが国家科学技術計画に入った。この年、中国船舶工業集団公司に所属する関連企業、研究院は合計で国から3,200万元(約5億円)の資金援助を受け、国家電子化融資は、約1,100万元(約1.6億円)に達した。また、販売収益の中から税引前に1,200万元(約1.8億円)を科学技術発展基金として留保することが国家税務局により認められた。
 
(5)外事審査認可権と自社製品の輸出入権
 南方集団・北方集団の二大試行企業集団の親会社は、(国務院の認可を経て)自社製品の輸出入権を保有できる。輸出入権を得れば船舶及び船舶技術の輸出入業務を取扱うことができる。
 また、船舶関連の重要プロジェクトについての国際的な提携、外国企業と連帯しての生産・研究開発、対外的な工事請負、入札募集と競争入札、労務輸出、外国向来料加工(原料を外国から持ち込み中国で加工して外国に輸出する)、民用機械電気製品の輸出入業務を行える。
 条件が整えば二大試行集団企業の子会社、メンバー企業は、単独で自社製品の輸出入権を申請できる。二大試行企業集団は、集団の製品を主とする付属設備の輸出奨励のほか、本業以外の対外工事請負や対外労務協力を行える。







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