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4 産業振興
4.1.国輪国造政策
4.1.1 背景
 1980年代初めの改革開放当初、中国の外航海運部門は、海外の造船国の優遇措置を利用して多くの船舶を発注・輸入することで資金不足を緩和し、比較的短期間のうちに競争力をつけ国民経済の発展に貢献した。
 中国経済改革の更なる進展と社会主義資本経済の発展に伴い、中国船舶工業の総合力も徐々に大きくなったが、要求される技術レベルが相対的に低い国外からの受注船を中国国内造船所で建造し、高い技術が要求される中国国内向け船舶は国外で建造するという中国船舶工業の発展にとって好ましくない局面は一向に改善されなかった。
 このような状況を改善するため、中央政府と関連地方政府により中国国内向の船舶は中国国内で建造するという「国輪国造」政策がとられ、国産設備の優先購入も奨励されるようになった。
 
4.1.2 現状
 中国船主は、徐々に中国で船舶を建造するようになってきている。
 第9次5ヶ年計画以降、中国遠洋運輸集団総公司(COSCO)は、中国国内の造船所でバラ積船、多目的貨物船、油運搬船、コンテナ船、半潜水船など65隻、294万トンを建造し、契約金額は25億ドルに達した。中国海運(集団)総公司(中海集団)、中国長航(集団)公司(中国長航)などの船主も中国での船舶建造を進めており、2000年だけで、中海集団が74,000トンのバラ積船4隻、5,618TEUコンテナ船8隻、中国長航も46,000トンの原油・成品油運搬船(2+2隻)を発注している。
 中国船舶工業集団は、2000年だけで中国船主から遠洋船を17隻、106万トン受注し、当該公司の年間受注隻数の40%を占めた。契約金額は43億元(約640億円)。
 
4.1.3 融資
 「国輪国造」政策に対し融資面では、第9次5ヶ年計画期間中(1996年〜2000年)に中国開発銀行が交通部に対し中国建造船購入のための融資として200億元(約3,000億円)を提供した。融資の実施には、政府の意向が反映されたとの見方もある。
 
4.1.4 税率
 外国で建造して便宜置籍船とすれば関税・増値税が非課税となるにも係わらず、国輪国造政策に従い、中国で建造し中国船籍・注)とすると、関税・増値税が課される。これは、厳しい国際競争を繰り広げている中国海運企業に大きな不利益となる。
 そこで、第9次5ヶ年計画では、中国船舶工業総公司傘下の造船所に対しては、中国国内で建造された船舶について輸出船同様、増値税が還付される他、中国船舶工業総公司傘下の造船所が海外から輸入した部品に対しては、関税・増値税を徴収するものの、同時に関税・増値税相当額にあたる船価の12%を中国船舶工業総公司傘下の当該造船所に補助する旨通知されている。この点で、中国船舶工業総公司以外の地方造船企業等は不利になっていると言える。
 2001年から2005年の第10次5ヶ年計画中も、国内生産・調達の困難な設備・部品の輸入に対し、中国遠洋運輸集団総公司(COSCO)、中国海連集団総公司(CHINA SHIPPING)、中国対外貿易運輸集団総公司(SINOTRANS)が、中国国内で建造した遠洋船については輸入関税が原則1%に減税されている。
 
注)
中国には「国輪国造」とともに「国貨国輪(自国の貨物は自国の船で運ぶ)」という政策があり、これに従うと中国海運企業の建造船は中国籍船とすることが望まれることとなる。
 
4.2. 輸出振興
4.2.1 輸出時の税還付
 中国は、保税区などの特別な区域を除き、一旦輸入関税・増値税(日本の消費税に相当。17%と高率)を収めた後、輸出時に還付を受ける制度をとっているが、この制度の悪用があとをたたなかった。納税していないにも関わらず還付を受けるケースもあった。
 この悪用と地方を中心とした財政逼迫のため、逆に正規に納税しているにも関わらず還付がなかなか行われないという事態が生じていた。
 1985年4月、中国政府は「徴収に応じて還付する(徴収したものは還付し、徴収しなかったものは還付しない)」という原則を船舶工業に対しても実行に移した。
 1988年にも「還付を徹底する」という原則を再決定し、船舶工業の輸出に対して全面的な還付・減免制度を実施した。
 1994年から中国政府は、増値税を主体とする新しい税制を開始したが、船舶工業の輸出に対する政策変更はなく、引き続き輸出にあたりゼロ税率の政策が実施された。
 しかし、全産業ベースでは、一部の輸出企業がこの輸出還付制度を悪用したことで増値税の徴収が減り、還付額が徴税額より多くなるという異常な状況が生じた。
 このような状況下、1995年7月、国務院は輸入時の増値税17%に対し、船舶工業の還付率を17%から14%に引き下げる措置をとった。この調整により、船舶輸出に対するゼロ税率政策は事実上取り消されたことになる。
 1996年1月、国は船舶工業の輸出時の還付率を14%からさらに9%へと引き下げた。その後も輸出時の還付率は何度も引き下げられ、船舶工業の発展に深刻なマイナス影響を与えた。
 1996年の船舶工業総公司(当時)の純利益は、2.3億元(約40億円)であったが、輸出時の還付税率が下がったことが原因で前年から1.8億元(約27億円)も減少した。同公司に属する大連造船廠、大連造船新廠、江南造船(集団)有限公司、滬東造船集団、広州広船国際股有限公司、天津造船公司の6大造船企業は輸出時の還付率が下がったことで、6社合計で利潤が1.64億元(約25億円)も減少した。最も減少が少なかった企業で1,277万元(約2億円)、最も多いもので4,700万元(約7億円)であった。
 さらに深刻だったのは、世界の造船大国が船舶輸出について、ゼロ税率を実施する中で、中国が船舶輸出における還付を引き下げたことは、競争の熾烈な国際市場で、中国の船舶工業を劣勢におくことになり、輸出船の受注にマイナスの影響を及ぼしたことである。
 1997年のアジア金融危機の発生で中国の船舶工業は、さらに不利な状況に立たされた。
 1998年、このような背景の下、アジア金融危機による中国船舶工業業界への影響緩和と、船舶輸出支援のため、国家税務局は、国務院の認可を経て、国税発「1998」207号文「船舶輸出の還付率の引き上げに関する通知」を発表し、1998年10月1日から船舶工業への還付率を16%に引き上げることを決定した。
1999年1月1日から、船舶などの4大機械電気製品の輸出還付税率は17%に引き上げられ、これにより、中国の船舶輸出時の増値税の還付率は、再びゼロ税率政策に戻った。
 
4.2.2 信用保証
 船舶は建造期間が長く、契約金額も大きく、多額の資金を必要とするという特徴がある。通常、国外の船主が引渡前に造船所に支払う金額は多くて契約額の3割から4割であり、銀行のバックアップがなければ、受注・建造は非常に困難である。
 船舶を含む工業製品の輸出資金問題の解決・支援のため、中国政府は1994年に中国輸出入銀行を設立した。中国輸出入銀行は設立当初から、国の政策銀行として、中国船舶工業総公司の輸出船に対し、サプライヤーズクレジットを提供している。地方の船舶企業の船舶輸出に対しても、地方政府が担保を提供するという条件の下に、やはり、中国輸出入銀行が全額のサプライヤーズクレジットを提供している。ローンレートは通常よりも1〜2%低く設定されている。
 統計によると、1994年7月から1996年12月までに、中国の輸出入銀行は、300万トン、約170隻、契約金額40.4億ドル分の輸出船に対し、83.8億元(元建て、約125億円)及び4.4億ドル(ドル建て)を支援している。1996年の輸出入銀行の機械電気製品に対する輸出クレジットのうち船舶製品は40%を占める。
 江南造船は中国輸出入銀行から合計50.27億元(約750億円)の輸出クレジットを得ているが、1997、1998年の2年間をみても、輸出入銀行の利息が一般の商業銀行より低いことで利息支払いは1,803万元(約2.7億円)少なくなっている。
 江蘇省の地方船舶企業が中国輸出入銀行から得たサプライヤーズクレジットは52.47億元(約780億円)で、輸出船の累計は200万トン、総額は14.44億ドルになる。
 2001年6月、中国輸出入銀行は中国国際海運集装箱(集団)股有限公司(中集(集団))に12億元(約180億円)、南通中遠川崎船舶工程有限公司が輸出した2隻の30万トン巨大タンカー(VLCC)に10億元(約150億円)のサプライヤーズクレジットを提供した。これにより、中集(集団)が中国輸出入銀行から得たクレジットの累計は、39億元(約590億円)に達した。
 2002年9月までに、中国輸出入銀行は約700隻、1,800万総トンの船舶に輸出ローンと対外担保を提供している。
 さらに船舶輸出を支援するために、1997年にアジア金融危機が発生してから、中国輸出入銀行は舶舶輸出入に対しバイヤーズクレジットのサービスを始めており、2001年11月には、ノルウェーソマガス社が中国船舶工業貿易公司から購入した8,900立方メートルの液化石油ガス船(LPG船)4隻に対し、6,250万ドル、期限10年の船舶輸出バイヤーズクレジットを初めて提供している。現在、同銀行は船舶輸出に対し輸出ローン、輸出信用保険、対外ローン担保などのサービスを行っている。
 2002年8月29日、上海で開催された「中国輸出入銀行輸出バイヤーズクレジットの船舶輸出支援討論会」において、中国輸出入銀行頭取の羊子林は、「さらに多くの船舶を世界各地に輸出し、中国が世界の一流造船大国になる歩みを速めるために中国輸出入銀行は、中国船舶輸出の政策的金融支援策を強化する。特に、近年、世界の船舶市場の競争は日増しに熾烈になり、国際市場の船価は下がり、中国の造船コストが上がるなか、船舶輸出は一段と厳しい環境になっている。船舶輸出が安定的成長を維持できず下落した場合、中国船舶業の発展に大きく影響するのみならず、中国経済の成長の牽引と就業問題の解決に大きく影響する。」と中国船舶工業の輸出の重要性を述べている。







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