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2 中国船舶工業の発展目標
2.1 中国の第10次5ヶ年計画
 2001年3月5日から開催された第九期全国人民代表大会第四回会議は、3月15日「国民経済と社会発展のための第10次5ヶ年計画要綱」(以下「要綱」と略す)とこれに関連する朱鎔基総理の報告(以下「朱鎔基報告」と略す)を採択した。この二つはいずれも正式文書である。
 
2.1.1. 指導方針
 要綱第1編の「指導方針と目標」の中で特に造船・舶用工業に関係していると思われるものに以下がある。これらは、国防科学技術工業委員会が後に作成した「民用船舶工業の第10次5ヶ年計画」にも反映されている。
i)発展を主題とすることを堅持する。
ii)構造調整を主線とすることを堅持する。
iii)改革・開放と科学・技術の進歩を原動力とすることを堅持する。
 
2.1.2. 要綱等と造船・舶用工業の関係
 「要綱」、「朱鎔基報告」から造船・舶用工業に関係すると思われるところを指導方針に沿ってまとめると次のようになる。
 
1)発展を主題
「伝統産業の改造・高度化を重点的に強化し、労働集約型産業の比較優位をさらに発揮させる。」(第4章前文)
「農業用機械、民生用船舶、経済型乗用車を発展させる。」(第4章第1節)
 
2)構造調整を主線
(1)行政と企業の分離
「国有大中型企業の改革を更に深め、財産権がはっきりとし、権限・責任が明確で、行政と企業が分離し、経営管理が科学的な現代企業制度の構築を基本的に完成する。」(第16章第1節)
「国有中大型企業に対し、規範にのっとった公司制改革を実施し、(略)国有中大型企業を規範にあった上場や外国企業との合弁、相互資本参加などの形で、株主の多用な有限責任公司や股有限公司(株式会社)に徐々に改造することを奨励する。」(第16章第1節)
 
「行政管理体制と政府機構改革を引き続き推進し、清廉、効率的、運営の調和がとれ、行動が規範にあった行政管理体制を確立し、政府の民主的、科学的な政策決定を推進する。
 社会主義市場経済発展の要請に従い、政府の役割をさらに転換し、マクロ・コントロールと良好な市場環境の整備に精力を集中し、企業の通常の生産・経営活動に直接関与しない。(略)商工会や業種別協会などの仲介組織の役割を発揮させる。」(第16章第7節)
 
(2)強力なコアコンピタンス(核心能力)を持つ企業グループを形成
「株式上場、吸収合併、提携、再編などの形態によって、有名ブランドと、自前の知的所有権を有し、本業が明確で、強力なコアコンピタンスを持つ一群の大公司と企業グループを形成し、産業の集中度と製品の開発能力を向上させる。」(第4章第3節)
「現行の国有企業の吸収・合併・破産政策を引き続き実施し、長期間赤字を抱え、債務超過に陥り、黒字転換の見込みのない企業については法に基づき、破産をさせる。」(第16章第1節)
 
(3)重複建設禁止
「工業の改組・改造では市場経済ルールに従い、投資の方向を正しく誘導し、既存の基礎に依拠し、盲目的な規模拡大と重複建設を防止すべきである。」(第4章前文)
 
3)科学・技術の進歩を原動力
「技術導入と自主的イノベーションの結合と、先進技術と適正技術の結合を堅持する。
 伝統産業の改造・高度化を重点的に強化し、労働集約型産業の比較優位をさらに発揮させる。(略)情報化により工業化を引っ張り、後発者の優位を発揮し、社会的生産力の飛躍的発展を実現する。」(第4章前文)
 
「工業成長方式の転換を加速し、品種の増加、品質の改善、原料・エネルギーの節減、汚染防止、労働生産性の向上を軸とし、ハイテクと先進適正技術による伝統産業の改造を奨励し、産業構造の最適化・高度化を同時に行う。」(第4章第1節)
 
「企業をイノベーションの主体とし、技術のレベルアップを推進する。(略)産業構造の調整、特に伝統産業の高度化に技術的サポートを行うことに重点を置く。導入技術の消化・吸収・イノベーションを強化する。」(第10章第1節)
 
2.2 中国船舶工業の発展目標
2.2.1 政治リーダーの認識−朱鎔基発言(2002年5月5日)
 中国政府および指導者層は中国の船舶工業が経済成長を牽引し、輸出を促進することを重視・期待しているとみられる。
 2002年5月5日、朱鎔基は国家計画委員会で報告した「船舶輸出政策に関する協調的意見」の中で、次のような指示をしている。
 「船舶工業の発展が経済成長および雇用に大きな役割を果たすことは明らかで、小さな商品とは異なる。船舶工業を放置しておくのではなく中国を(トン数で)世界一の造船大国にしよう。財務部、対外経済貿易部、輸出入銀行、外貨管理局など有力部門は、船舶工業の発展を支えていくという気持ちを固めよう。我々には、今、この条件が整っている。」
 朱鎔基の指示は船舶工業が経済発展に大きくプラスの作用を及ぼすことを認めたうえで船舶工業の早い成長を要望することを明確化し、中国政府の最高幹部として船舶工業を大きく発展させ、輸出戦略産業に育成する決意を表明したものとみられる。
 2003年3月の全国人民代表大会で朱鎔基首相が退陣した後、新しいリーダーが船舶工業に対してどのような方針・態度を示すか注目される。
 
2.2.2 
中国民用船舶工業の第10次5ヶ年計画(第10次5ヶ年計画工業構造調整企画要綱)
 2001年、国家経済貿易委員会は「第10次5ヶ年計画構造調整企画要綱(以下、「企画要綱」と略す)」を通知した。
 「企画要綱」は、中国共産党第十五期第四回中央全国会議、第五回中央全国会議の精神と「中華人民共和国国民経済と社会発展のための第10次5ヶ年計画要綱」に基づき、第10次5ヶ年計画の間(2001年〜2005年)に工業分野の構造調整を実現し、国際競争力を高めるため、国家経済貿易委員会等が制定したものである。
 「企画要綱」では、「民用船舶工業の第10次5ヶ年計画企画要綱」が国防科学技術工業委員会により定められているほか、機械、自動車、冶金、染色、石油、石油化学、化学工業、医薬品、石炭、建材、軽工業、紡績、電力、金の14産業について中長期的なビジョンが描かれている。
中国船舶工業集団公司、中国船舶重工集団公司、一部地方政府も、それぞれ民用船舶工業について第10次5ヶ年計画を定めている。
 
表10 中国船舶工業の第10次5ヶ年計画における発展目標
    2005年の目標
(第10次5ヶ年計画)
2000年(実績) 備考
全体 建造能力 850〜900万トン 500万トン 600万トン(2001年)
建造量 650万トン 345万トン 390万トン(2001年)
世界シェア(建造量) 16% 5%  
ハイテク船の比率 30% 23%('96〜'00)  
輸出額 40〜50億ドル 16億ドル  
修繕能力 450万トン 313万トン  
修繕額/外貨額 120億元/12億ドル 50億元/―  
世界シェア 6% 3%  
エンジン製造量 13万kW 85万kW 2000年(実績)は、CSSC、CSIC合計
国産化率 50% 40%未満  
CSSC 建造量 300万トン 143万トン 2005年に世界のNo.5
売上高 250億元 121億元 2010年に世界のNo.3
エンジン製造量 120万馬力 48万馬力 2021年に世界のNo.1
CSIC 建造能力 300万トン 200万トン  
建造量 220万トン 87万トン  
非船舶部門の売上高 40% 32%  
生産額 2000年の2倍 118億元  
外貿獲得額 2000年の2倍 4億ドル  
 
2.2.3. 企画要綱の具体的内容
 これまでに公開された第10次5ヶ年計画要綱関連資料、特に国防科工委民品発展司 鄭栄生司長の第一回船舶工業業界管理業務会議での講演などからまとめた中国民用船舶工業の第10次5ヶ年計画要綱の具体的目標は、次のとおり。
 
(1)全体目標
 第10次5ヶ年計画における中国船舶工業の全体目標は、「国際競争力を大幅に向上させ、船舶輸出を一層増加し、輸出基幹産業として成果を上げ、国際シェアの拡大を図り、真の造船大国となる。2010年までに、船舶工業の総合的実力を世界の造船強国のレべルとし、日本、韓国とともに世界の三強を形成する。」である。
 そのために、「大企業集団をコアに大企業・中小企業の協調的発展、構造改革、配置の合理化・大規模化と専業化の相互組み合わせを図り、国民経済の発展に適した、また、国防建設に必要な産業構造を形成し、船舶工業の全体的資質、労働生産性、経済効果を一つ上のレベルまで引き上げる。」とともに「2005年までに全体の技術レベルを90年代中期の先進造船国のレベルにする。」としている。
(2)数値目標
 「国民経済と社会発展のための第10次5ヶ年計画要綱」の指導方針に従い整理して主なものをあげると次のようになる。
 
1)発展を主題−民生用船舶工業を発展させる−
(新造船量等)
・2005年までに建造能力を850〜900万トン(重量トン、以下同じ。)に拡大し、年間建造量は650万トンを超える。世界でのシェアは16%以上を占める。
(修繕能力等)
・2005年の船舶修繕能力を450万トンとし、船舶修理(改装を含む。以下同じ。)の生産額を120億元(約1,800億円)とし、世界の船舶修理市場におけるシェアを6%まで引き上げる。
(輸出目標)
・2005年までに船舶輸出500万トン、輸出額40〜50億ドルを達成する。外国船の修理比率を80%以上にまで高め、修繕額を12億ドル以上にする。
(帆用工業)
・2005年までに低速エンジンの生産能力を150万キロワットまで引き上げ、生産量を130万キロワットにする。
(修理・国産化率)
・船舶修理では、船舶の改造と特殊船の比重を拡大していく。舶用工業も専業化の方向で発展させ、通常の船舶における国産船舶設備の実質的装備率を50%程度まで高める。
 
2)構造調整を主線
(大集団化・大企業化)
・2005年に二つの(集団公司の)年間建造量を200万〜250万重量トンとし、建造能力が日本の主要造船グループとほぼ同等で世界のトップ5に数えられる超大手の造船企業グループとする。年間建造能力が50万重量トン以上、高水準、高効率で特色ある自社技術と優位な製品を有する大手基幹企業を3つか4つ形成し、船舶製造の集中度をさらに向上させる。
(重複建設防止)
・マクロ・コントロールを強化し、計画を統一し、配置を適正化し、盲目的投資や低いレベルの重複建設を制止し、造船と船舶修繕能力の発展に対する企画と指導を強化する。
・施設の建設に対する管理を強化し、経済成長の転換に努める。
 
3)科学・技術を原動力−技術開発・技術改良を推進−
・技術進歩を大いに促進し、各方面の技術資源を動員する。企業を主体とし、船舶工業技術の革新体制を作り、改善し、技術開発と生産・製造技術をレベルアップし、造船先進国との格差を縮小する。
・技術で船舶工業を振興する戦略を実施する。技術体制改革を深化し、技術投資を強化し、できるだけ早く先進国との格差を縮める。
・ハイテク・高付加価値船の開発とコア技術に対する研究を進める。







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