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1 中国の造船・舶用工業の現状
 1996年から2000年の第9次5ヶ年計画を経て、中国の造船・舶用工業は、国際的に一定の地位を確立、まだまだ日韓と比べ十分な競争力を有しているとは言えないものの今後大きく発展する可能性がある。
 
1.1 大きな発展の可能性
 中国の造船・舶用工業が今後大きく発展するとみられる背景には次のようなものがある。
・国際的に既に一定の地位を確立
・伸びが期待できる国内船需要
・当分続く安い労働力と優秀な技術者
 
1.1.1 国際的に既に一定の地位を確立
 中国の船舶工業(中国独特の言い方。日本で言う造船業・船舶修理業及び舶用工業を包括した言い方)は1860年代に始まる。清の時代である1865年、上海に江南造船所が、翌年には福建省福州に馬尾造船所が設立された。「第一次創世期」と言える。
 1949年の中華人民共和国成立後、造船は国防力強化のため、鉄鋼などの重工業とともに優先的に発展させるべき産業とされ、旧ソ連の支援による技術導入に加え、大量の人材、資金、物資投入が図られた。
 1970年代は、ソ連との関係が悪化したこともあり、自国内で完結する造船業を目指し、当時としては比較的進んだ潜水艦や1万トン級の船舶を建造するに至り、中国の国防力増強、経済発展につながった。しかし、自国内での完結を目指したため、外国の技術導入の場合でも、設備の導入にとどまった面があったとみられている。
 1977年12月、?小平氏が「中国は船舶を輸出し、国際市場に参入しなければならない。」と述べ、中国造船業の「軍から民へ」「国内から輸出へ」という戦略転換が始まった。この?小平発言をきっかけに中国の造船業はいわゆる「第二次創世期」を迎えることになる。
 1982年、中国の建造量は102.45万トンと初めて100万トンを突破、その後も建造量は急速に増大し、1982年の世界シェア1.9%が2001年では4.3%となり、順位も1982年の世界第17位が、1995年以降は7年連続で世界第3位の建造量を記録する等世界の造船業の構図を塗り替えつつある。
 中国の受注量は1999年以降大幅に伸び、2001年は10%以上の世界シェアになっている。一方で竣工量は過去5年、ほぼ150万GT程度と横這いである。この結果、手持工事量は740万GTと2001年の竣工量120万GTの6倍に相当する数字となっており中国造船業が設備拡大を行う背景となっている。
 
図1 中国の新造船工事量の推移
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(単位:千総トン)
1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
受注量 414 368 602 608 994 592 781 1,108 1,165 1,461 662 3,011 2,620 4,122
竣工量 254 401 367 310 309 737 1,080 953 1,102 1,479 1,466 1,556 1,484 1,225
手持工事量 996 884 1,079 1,410 2,015 1,980 1,910 2,012 2,697 3,156 2,363 4,171 5,188 7,408
注)
1.ロイド統計より作成。2.手持工事量は、各年12月末時点。
出所:(社)日本造船工業会
 
図2 中国の世界に占める新造船工事量シェア
(拡大画面:11KB)
 
(単位:%)
1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
受注量 3.5 1.9 2.5 3.1 7.8 2.6 3.1 4.3 7.1 4.0 2.5 10.4 5.7 11.3
竣工量 2.3 3.0 2.3 1.9 1.9 3.6 5.5 4.2 4.3 5.8 5.8 5.6 4.7 4.3
手持工事量 4.1 2.8 2.7 3.3 5.4 5.0 4.2 4.1 6.0 5.6 4.1 7.1 7.3 9.8
注)
1.ロイド統計より作成。2.手持工事量は、各年12月末時点。
出所:(社)日本造船工業会
 
1.1.2 伸びが期待できる国内船需要
 (財)海事産業研究所長塚氏が講演で述べているように1996年から2000年の第9次5ヶ年計画の期間に中国関係貨物は大幅に増えているにも係わらず、中国籍船は、ほとんど増えていない(表1)。中国には、「国貨国輪(自国の貨物は自国の船で運ぶ)というスローガンもあり、今後、中国籍船は確実に増えていくであろう。事実、COSCO、中国海運、SINOTRANSの3大企業は、2001年から2005年の第10次5ヶ年計画の間に1,062万DWTの新造船を建造する計画とされている。
 これらの国内需要は、今後世界全体の新造船需要の減少が予測される中、中国造船・舶用工業の大きな基礎需要になる可能性がある。
 
表1 中国の主要貨物の輸送量/船腹量
項目/年 石油関係 撤積貨物関係 コンテナ関係
石油輸入量 タンカー 鉄鉱石輸入量 穀物輸入量 バルカー 取扱量 コンテナ
(万トン) 船腹量(万GT) (万トン) (万トン) 船腹量(万GT) (万TEU) 船腹量(万GT)
1996年 3,840 230 4,390 490 680 524 140
2000年 9,830 240 7,000 290 660 1,738 150
出所:
(財)海事産業研究所長塚氏講演資料より(中国籍船、但し香港を除く)
 
1.1.3 当分続く安い労働力と優秀な技術者
 中国の強さは豊富で安い労働力だと言われる。全製造業ベースの中国全体の平均月給は、589元(約9,303円)、都会の上海で、平均1,287元(約19,305円)である。上海の造船所の場合、工員、ブルーワーカーの給与で1,000元(15,000円)、大卒の初任給で2,500元(約40,000円)といわれており、上海は日本の約1/20の賃金水準ということになる。
 この賃金は、上海の場合、ここ2〜3年、毎年10%程度上がっているが、これは、ホワイトカラー、大卒の給与であり、単純労働者(ブルーワーカー)については、上海より内陸にある四川省や安徽省といった賃金水準の低い内陸の省からの出稼者が大量にいることから、当分の間、大幅な賃金の上昇はないであろうといわれている。但し、年金・失業保険・医療保険・住宅積立の所謂4金と言われる企業負担を含めると上海で日系の1/4〜1/5程度の人件費コストとも言われている。(表2)
 
表2 賃金
  日本 中国 上海市 韓国
月平均賃金額 371,437円 588.67元 1,287元 1,284,477ウォン
円換算額 371,437円 9,303円 19,305円 123,310円
日本=100 100 2.5 5.2 33.2
注1)
主として98年における製造業労働者の賃金。
注2)
「海外労働白書」1999年版、「中国統計年鑑」1999年版等より作成。
 
 大卒の技術者をみたときも、現在、中国に造船学を勉強できる大学は、ハルピン、大連、上海、武漢、華南等約10あり、大規模校のハルピンでは1学年に1,000人が在住、中国全土では、毎年多くの造船学専攻の学生が卒業するという。
 定着率の低さはあるものの、豊富な技術者・安い労働力は中国の造船・舶用工業の大きなメリットである。
 
表3 造船学科のある中国の大学と学生数
学部・学科名称 学生数
本科 大学院生
1. 上海海運学院    
交通運輸学院管理学部 船舶及び海洋工程学科 130 2003年度から募集予定
     
2. 上海交通大学 船舶及び海洋工程学院    
船舶及び海洋工程学科 213  
船舶及び海洋構造物設計・建造研究科   80
     
3. 哈爾濱工程大学    
船舶工程学院船舶及び海洋工程学部 1,180 90
     
4. 天津大学 建筑工程学院    
船舶及び海洋工程学部船舶工程学科225 30  
     
5. 華東船舶工業学院 船舶及び海洋工程学院    
船舶及び海洋工程学科 522  
船舶及び海洋構造物設計・建造研究科   55
     
6. 華中科技大学 交通科学及び工程学院    
船舶及び海洋工程学科 445 78
     
7. 武漢理工大学 交通学院    
船舶及び海洋工程学部 631 68
     
8. 江蘇省蕪錫交通学校    
現代船舶工程船舶設計及び建造科(5年制高等職業学校) 99
溶接技術及び技能(4年制高等職業学校) 35
船舶製造及び修理(4年制専門学校) 41
船舶製造及び修理(3年制専門、技能学校) 65
9. 華南理工大学 交通学院    
船舶及び海洋工程学科 137 38
出所:
JETRO上海舶用機械部調べ
注)
この他、大連海事大学の大学院「海洋及び船舶工程」研究科に8人が在学







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