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4 投資
4.1 WTO協定
 前述のようにWTO協定では、国境を越えて製造拠点を作るという物に関連する投資の分野について「貿易に関する投資措置に関する協定(TRIM)」が制定されている。この協定では以下のようなことが禁止されている。
●ローカルコンテンツ等国産品の利用義務付け
●輸出義務等輸出入の均衡の要求
●外貨の収支バランスの要求
 
4.2 中国国内法
 中国には外国の投資を規制する法律として「中華人民共和国中外合資経営企業法」「中華人民共和国中外合作経営企業法」「中華人民共和国外資企業法」のいわゆる三資企業法があり、企業の種類毎に法人格、設立条件、出資形態、経営機構、利益処分等について定められている。
 
4.2.1 中国の外資企業の種類と法律
 中国の外資企業には合弁企業、合作企業、独資企業がある。
 
1)合弁企業(中外合資公司)
 通常ジョイントベンチャー(Equity Joint Venture)と言われるものであり、中国と外国のそれぞれのパートナー(複数国、複数社も可)が資本を持ち寄って合弁会社をつくる。
 
●「中華人民共和国中外合資経営企業法」に基づく。
 
2)合作企業(中外合作公司)
 中国のパートナーとの共同運営会社。「契約型合弁」(Contractual Joint Venture)ともいわれ合弁企業に似た形態をもつが、合弁と異なるのは出資方法・利益配分・資産分配等をあらかじめすべて契約で決めておく点であり、そのため契約型合弁と言われる。
 
 資本金は積まないのが一般的であり、中国側パートナーが土地・建物、労働力などの現物を出資し、外国側が生産設備・技術などを出資するが、合弁と違いそれぞれの出資を簿価評価しない。従って、収支額に応じて利益配分するということもせず、通常、外国側は出資に見合う利益を得られるようにあらかじめ契約の中に利益配分の率を盛り込んでおく。
 
●「中華人民共和国中外合作経営企業法」に基づく。
 
3)独資企業(外資公司)
 中国のパートナーが存在せず、外国資本100%出資(複数国、複数社でも可)の企業である。一部の業種に設立制限があり造船関係の場合、投資ガイドラインで後述するように特殊船建造造船所、商社等は現時点では、独資では設立できない。
 
●「中華人民共和国外資企業法」に基づく。
 
表1 外資関連三資法の修正状況
企業種類 法律 実施細則
合弁企業  中華人民共和国中外合資経営企業法 中華人民共和国合資経営企業法実施条例
1979年7月1日第5回全人代制定 1983年9月20日 国務院公布
1990年4月4日第7回全人代修正 1987年12月21日 国務院修正
2001年3月15日第9回全人代修正 2001年7月22日 国務院修正
合作企業 中華人民共和国中外合作経営企業法 中華人民共和国中外合作経営企業法実施細則
1988年4月13日第7回全人代制定 1995年9月4日 国務院承認
2000年10月31日第9回全人代修正  
独資企業 中華人民共和国外資企業法 中華人民共和国外資企業法実施細則
1986年4月12日第6回全人代制定 1990年10月28日 国務院承認
2000年10月31日第9回全人代修正 1990年12月12日 対外経済貿易部発表
  2001年4月12日 国務院修正
 
4.2.2 WTO加盟に伴う国内法の修正
 三資法では次のようにWTO協定(TRIM)に合致しない条項があったが、WTO加盟に伴い2000年から2001年にかけて三資企業法及びその実施条例または実施細則が修正された。
 
 2002年12月現在、合作経営企業実施細則のみ修正がなされていないが、いずれ修正されるとみられている。
 
 修正内容は基本的にはローカルコンテンツ要求の廃止、輸出義務の廃止、外貨収支バランスの廃止である。
 
 修正内容を、ここ数年間の実質的な動きからみると、中国国内の経済活動の現場ではむしろ先行的に規制緩和の動きが図られてきており、外貨バランスにしても物資調達にしても、実態としては法律条項を骨抜きにするような動きが進んでいた。今回の修正は、いわば“現場で既成事実化してきた動きを法律的に総仕上げとして追認した”ということもできる。
 
 いずれにせよ本修正により三資企業はより自由な環境で投資活動と事業展開が可能になり中国市場への参入戦略も構築できると思われる。
 
4.2.3 中国市場での優先調達
 『中外合資経営企業法』の第九条第二項で「合弁企業が必要とする原材料、燃料、部品などは、できるだけ優先的に中国国内で購入すべきであるが、合弁企業が自主的に外貨を用立てて国際市場から直接購入することもできる」とされていた規定を、「合弁企業は認可されている経営範囲内で必要とする原材料や燃料などの物資を、公平かつ合理的な原則に基づいて、国内市場もしくは国際市場から購入できる」という内容に修正した。
 
 『外資企業法』の第十五条で「外資企業は認可されている経営範囲内で必要とする原材料や燃料などの物資を、公平かつ合理的な原則に基づいて、国内市場もしくは国際市場から購入することができるが、同一条件下では中国国内市場で購入すべきである」とされていたのを「同一条件下では中国国内市場で購入すべきである」という部分を削除して、「外資企業は認可されている経営範囲内で必要とする原材料や燃料などの物資を公平かつ合理的な原則に基づいて、国内市場もしくは国際市場から購入することができる」という内容に修正した。
 
 『中外合作経営企業法』第十九条の「合作企業は認可された経営範囲内で必要とする原材料や燃料等の物資は、国内市場で購入することができ、また、国際市場から購入することもできる。」は、「合作企業は、認可された経営範囲内で必要とする原材料、燃料等の物質を公平性、合理性の原則に基づいて、国内市場または国際市場で購入できる」に修正された。
 
 これまで上述の三つの法律では、特に中外合弁経営企業と外資企業に対して、中国の国内市場で優先的に必要な物資を調達するよう求めてきたが、本修正により合弁企業、外資企業も中国国内企業と同様に物資を購入できることになった。
 
4.2.4 輸出義務
 『外資企業法』第三条第一項は、「外資企業を設立する場合は、中国の国民経済の発展に有利に作用し、かつ、また、先進的な技術と設備を採用するか、あるいは製品のすべて、もしくは大部分を輸出しなければならない」と規定していたが、この条文は「外資企業を設立する場合は、中国の国民経済に有利に作用しなければならず、また、国は製品の輸出及び技術が先進的な外資企業の活動を奨励する」という内容に修正されている。
 
 本修正により外資企業も中国国内企業と同様に製品を販売する権利を有することになった。
 
4.2.5 外貨バランス
 『中外合作経営企業法』第二十条の「合作企業は外貨収支の均衡を自ら図るものとする。合作企業は、外貨収支の均衡を自ら図れない場合には、国の規定によって、関係機関に援助を申請することができる」という条文が削除された。
 
 また、同じく『外資企業法』第十八条第三項の「外資企業は自主的に外貨バランスを解決しなければならない。外資企業の製品はこれを主管する機関の承認を経て中国国内市場で販売することができるが、これによってその企業の外資バランスに不均衡が生じた場合は、国内市場販売を認可した機関の責任によってこれを解決する」という条文も削除された。
 
 WTOの『貿易に関連する投資措置に関する協定(TRIM)』第二条、及び協定に付帯する『解釈リスト』第二項では、「各加盟国は外貨バランスを求めて企業の輸入活動を制限してはならない」と明確に規定している。
 
 中国政府はすでにWTO加盟に向けた交渉で、加盟後は、この『貿易に関連する投資措置に関する協定(TRIM)』と合致しない措置は取り消すことを承諾しており、これには企業の輸入用外貨とその外貨収入の間のバランスに対する要求及び企業は特定の輸出目標を達成することをもって外貨バランスを解決するといった要求も含まれている。
 
 1980年代の改革開放後の相当な期間は、中国の対外貿易がまだ発達しておらず、外貨は常に不足しており、また外貿準備高もかなり低い水準にとどまっていた。このため、国の経常収支バランスを保証するために、外貨バランスに関する規定を設けることは極めて必要なことであった。
 
 しかし、1990年代以降になると中国の対外貿易は持続的に発展するとともに外貨準備高も増加してきた。
 
 さらに94年には人民元が条件付きではあるが兌換可能となり、96年7月には、外資企業が購入する原材料、部品、給与の支払、株式利子や配当金の支払などで外貨を必要とした場合、銀行を通じての決済や、その外貨口座からの決済は可能となっていた。







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