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3. 海洋の生物多様性の保護
 UKの生物種の半数までが海中に生息すると言われており、「海洋における生物多様性の保護」は、生物多様性保護政策の中でも重要な部分を占めている。生物多様性の「保全」、「拡充」、「復元」のために、「生態系をべースとしたアプローチ」を採る事がMSR第二章冒頭で述べられている。
 
 「生態系をベースとしたアプローチ(Ecosystem−based approach)」は、MSRの全体に亘って「理念達成のための管理アプローチ」として位置付けられている。
 
 「生態系アプローチ(Ecosystem approach)」という言葉は1980年代に新語として造られたが、1992年の「リオ地球サミット」において公式に受容され、「生物多様性の保全と持続可能な利用に対する生態系アプローチ」は、「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)。CBDと略記」の下で、行動のフレームワークとして使用されている。
 
 「海洋生物多様性保全」において直面する問題としては、まず陸棲生物と異なり、「保全対象となる海洋生物の多様性調査と評価が難しい」という点が挙げられる。特に大洋や深海域に生息する生物、回遊性・季節移動性動物などは、その分布・個体数・生活史などに関する科学的データが十分であるとは言えない状況である。また、「具体的な海洋生物多様性の保全措置をどう実施していくか」という点についても、「技術的問題・措置実施の仕組み(オペレーション)上の問題」など、対象が「海洋」であるがゆえの問題が常に存在する。
 
 従って「現実的な取り組み」として、比較的水深の浅い水域の一定エリアに定常的に存在している珊瑚礁とそこに生息する生物群や、沿岸に近い浅海に生息する生物ならびに移動性・回遊性を持つ生物の中でも大型の生物や限られた水域における特定漁業資源生物など、「保護対象に関する調査が比較的行いやすい特定の生物種に対する保全」がUKの現在の主な活動となっている。
 
 UK政府の「生物学的多様性保全」への取り組み方針として、MSR第二章では、「生物多様性条約(CBD)の様な主要条約の下で策定される国内的、そして適切な場合には地域国際的な戦略と行動計画が、環境的配慮を重要な経済分野での政策に統合するためのキーである」と述べられている。「国際条約の枠組みに沿って地域の生態系に即した具体的な行動計画を策定し、保全活動対象生物種や海域を特定範囲に限定することで、実際的な取り組みを行っていく方針」と言い換えることができるであろう。
 
3−1. MSR第二章「海洋の生物多様性の保護」
 MSRの第二章は、「生物多様性保全」に関わるUK政府の現在までの「全世界」、「地域国際」、「国内」、「国内地方」の各レベル対応をリストアップしている。MSRの第二章の内容を整理し、また必要な箇所では補足説明を加える。
 
 「種々の条約や協定」そして「実地施策」の説明の羅列だけではその相互関係が見えにくいため、最初に、法制・規制面から見た全体像と、政策・実地施策面から見た全体像を下図3−1と3−2に俯瞰図としてまとめておく。後続の説明と併せて参照されたい。
 
図3−1:法則・規制面から見た概況
(拡大画面:17KB)
 
図3−2:政策・実地施策から見た概況
(拡大画面:27KB)
 
3-1-1.全世界及び地域国際レベルでの活動
 UKの海洋生物多様性保全活動に関連する主要な国際条約として、以下が挙げられている。
 
●1992年「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)。CBDと略記」
 
●1971年「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(Ramseur Convention on Wetlands of International Importance。Ramseurと略記。通称、ラムサール条約)」
 
●1975年「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES:Convention on International Trade in Endangered Species。CITESと略記。通称、ワシントン条約)」
 
●1946年「捕鯨規制国際条約(lnternational Convention for the Regulation of Whaling)」
 
●1979年「移動性野生動物種の保全に関する条約(Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals。CMSと略記。通称ボン条約)」
 
●1979年「ヨーロッパの野生生物と自然生息地の保全に関する条約(Convention:Convention on the Conservation of European Wildlife and Natural Habitats。通称、ベルン条約)」
 
3−1−1−1. 生物多様性条約
 1992年「生物多様性条約(CBD)」は「リオ地球サミット」において採択された。その目標は
 
●生物多様性の保全
 
●その構成要素の持続可能な利用
 
●遺伝学的資源の利用から得られる恩恵の公平で適切な分配
 
である。「生物多様性条約」は、UKの生物多様性保全に関連する活動の「主要フレームワーク」となっている。
 
 1995年開催の「第2回生物多様性条約締約国会議」で作成された「ジャカルタ・マンデート」は、「海洋と沿岸の生物多様性に関する国際的活動」に焦点を当てている。「ジャカルタ・マンデート」は、「生態系アプローチや予防原則を含む基本原則」に基づいて作成された。これらの原則は、UK海洋環境政策の柱ともなっている。「ジャカルタ・マンデートの活動プログラム」には、「統合的海洋・沿岸管理も主要要素の一つ」として挙げている。
 
 MSRでは、CBDに基づく具体的なUKの活動として、以下の2例が挙げている。
 
(1)ダーウィン・イニシアティブ
 
 「ダーウィン・イニシアティブ(Darwin Initiative)」は、「リオ地球サミット」を契機として開始されたUK政府による、「生物多様性保全活動」を支援するための「世界的なプログラム」である。具体的には、「生物多様性に富んでいるがその保全と持続可能な利用促進のための資金が不足している国」を援助するため、技術訓練・教育を含む専門家に依る協力活動や、資金援助が行われている。1992年「リオ地球サミット」から2002年「ヨハネスブルグ・サミット」までの10年間で、「約100ケ国、270件以上の生物多様性プロジェクトに対し、総額2千7百万ポンドの資金援助」が行われてきた。「ダーウィン・イニシアティブ」による援助活動には、「海洋生物多様性保全」に関わるものも含まれている(ベリーズにおける漁業と観光事業がウバザメの食糧源に及ぼす影響の調査など)。
 
 2002年「ヨハネスブルグ・サミット」において、UKのブレア首相は、「現在年額3百万ポンドであるダーウィン・イニシアティブ予算を、2005年までに7百万ポンドに増額」することを発表した。「ダーウィン・イニシアティブ発足10周年」と「ヨハネスブルグ・サミット」を契機として、今後の活動は「ダーウィン・イニシアティブの第2段階」として位置付けられている。
 
(2)珊瑚礁保護
 
「ジャカルタ・マンデート」に基づいた珊瑚礁保護活動が行われている。UKは、各国と非政府団体の「パートナーシッププログラム」である、「国際珊瑚礁イニシアティブ(International Coral Reef Initiative)」の設立メンバーである。
 
 ケンブリッジにある「世界保全モニタリングセンター(WCMC)」は2001年9月に世界の珊瑚礁の状態に関する初の包括的評価である「珊瑚礁世界アトラス(The World Atlas of Coral Reefs)」を刊行している。
 
世界保全モニタリングセンター:World Conservation Monitoring Centre(WCMC)
 
 WCMCは、1979年に「世界保全組合(IUCN)」がUKのケンブリッジに設立した、絶滅危険種モニターのための事務所が母体となっている。世界保全組合は, 140カ国、980団体のメンバーシップから成る1948年設立の自然保全団体である。
 
 1988年に、独立非営利団体としてWCMCが、以下の3組織のジョイントで設立された。
 
世界保全組合(IUCN)
世界自然保護基金(WWF)
国連環境計画(UNEP)
 
 2000年にUNEPの機関として再編された後、UNEP−WCMCとして現在に至っている。
 
 UNEP−WCMCは、UNEPの世界的な生物多様性情報・アセスメントセンターとして位置付けられている。UK政府は、旧WCMCからUNEP−WCMCへの移行に際して、政治的・経済的な援助を行った。
  
 
3−1−1−2. 湿地−ラムサール条約
 イランのラムサール(Ramseur)で1971年に採択された「ラムサール条約」は、1975年に発効し、UKは1976年に批准している。
 
 条約の使命(mission)は、「全世界的に持続可能な開発を達成するための手段の一つとして、国毎の活動と国際的協調により湿地帯を保全し賢明に利用すること」と要約できる。「ラムサール条約」と「生物多様性条約」は密接に関係しており、両条約機構間で協力覚書が取り交わされている。
 
 条約加盟国は、自国領域内において国際的重要性があると判断される湿地を指定し、条約事務局が管理する「国際的重要性のある湿地リスト(List of Wetlands of International Importance)。通称、ラムサールリスト」に登録する義務がある。リストに登録された湿地は、「通称ラムサール・サイト(Ramseur Site)」と呼ばれている。
 
 UKには、MSR発表時(2002年5月)現在で168ケ所の「ラムサール・サイト」がある。UKは、「ラムサール・サイト」の登録数において群を抜いている。UK国内においては、「ラムサール条約」関係案件は、関係する政府機関、NGO代表者から構成される「UKラムサール委員会」で論議されている。現在、UK政府はUK内の「ラムサール・サイト」の見直しを進めている。この見直しは「ラムサール条約」による、エリア拡大の勧告に従うものである。







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