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2−3 混焼エンジン
(混焼エンジン利用の背景)
 本節で混焼エンジンとして扱っているのはディーゼル油と天然ガスの両方を燃料とするエンジンである。2−2で記したとおり、現在、天然ガスエンジンは船舶の過渡負荷に対応できないので、工夫して使っている状況である。ガスエンジンのメカニカル・システムとして最も可能性の高いのは、油圧歯車装置/舶用クラッチ、又は静圧継手/CPP等によってガスエンジンの要求トルクに対して最適回転数を保つことができるシステムである。必要軸出力はクラッチ及びプロペラ・ピッチで吸収される。
 また、天然ガスエンジンを上手く使う方法としては、ガスエンジンで発電し、モーターで推進軸を動かすガス電気推進がある。ガス電気推進はメカニカル・システム推進よりもコストが高く、重量増となるが、電気推進船としてのメリット、例えば発電機と推進システムとの間にメカニカル・ユニットがないので、船舶のトリム上、最良の位置に発電機を設置できると、或いは推進システムの冗長性が高いといったメリットを享受できる。舶用エンジンに混焼エンジンを使う最大の目的は、上記過渡負荷に対応できない欠点を燃料で解決する点、つまり過渡負荷が予想される出入港時にはディーゼル油を用い、通常のオペレーションでは天然ガスを使用する点にある。
 
(米国エンジンメーカーの動向)
 米国の舶用ディーゼルエンジンは、トラック用の比較的低馬力の高速エンジンを舶用化したものが主であったが、1990年代に入り、キャタピラー、カミンズ、デトロイトディーゼル等の大手各社は高馬力分野への参入を果たした。それらはいずれもヨーロッパメーカーの買収或いは技術提携によるものである。カミンズは1990年代始め、フィンランドのワルチラと出力3,600−6,000hpの高速ディーゼル/天然ガス混焼エンジンの開発・設計・製造に関する50/50のジョイントベンチャーを作り、1995−96年にかけて2つのシリーズの混焼エンジンを発売している。第1のシリーズはワルチラ200をベースに改良したもので、ワルチラのMulhouse工場で製造された。第2のシリーズは全く新しいタイプで、気筒当たりの排気量4.5リットル、最大出力3,600hpで最新の電子制御、監視システムが付いている。ワルチラ/カミンズのジョイントベンチャーで製造された上記2種の混焼エンジンは、両社の名前を冠したブランド名で両社の販売網を通じ、世界中の鉱山、発電、鉄道、船舶その他の産業用動力として販売されている。カミンズは米国では珍しいディーゼルエンジン専業メーカーであるが、発電事業も兼業し、電力を売っており、ワルチラ/カミンズの混焼エンジンが威力を発揮している。
 
(混焼エンジンの船舶への適用評価)
 ディーゼルエンジンを混焼エンジンに改造する利点或いは不利点を見極め、舶用混焼エンジンを正当に評価する基準を定めるため、2000年後半MARADはサンフランシスコ湾のフェリー・オペレータRed&Whiteと協力契約を結んだ。契約の内容は、低速フェリーHarbor Queenを混焼エンジンとした場合の物理的、法規的及び経済的可能性を調査することであった(第2−3図)。混焼エンジンは正確には全ディーゼル油運転か、天然ガスとディーゼル油の混合燃料で運転される。本プロジェクトでは1985年及び88年にディーゼルから混焼エンジンに改造され、今も運航しているカナダの2隻の乗客/車両フェリーKlatwaとKulletのデータが参考とされた(両船はカナダ運輸省の所属であり、ロイドとカナダ・マリーン輸送安全委員会が共同で認可した初期の混焼エンジン船である。)。本プロジェクトにより、舶用燃料として天然ガスや混焼を用いた場合の評価に関する有益な基礎情報を得ることができた。
 
(LNG運搬船への混焼エンジンの適用)
 LNG運搬船では、主推進プラントを混焼タイプとし、貨物槽から出てくる蒸発ガスを推進燃料として用いるようになっている。ガスを機関室に導くには、安全に気を配った配管及び制御システムが要求される。主要船級協会は、LNGの蒸発ガスを燃料とするLNG運搬船に対する規則を発表している。
 舶用機関に対する排出規制が厳しくなる中で、船舶推進用及び発電用のエンジン及び燃料として理想的なものは何かという討論が1990年始め頃から盛んに行われ、その大きさと用途に関連して候補エンジンが議論されてきた。勿論、メーカーの考え方によって異なるが、最初ディーゼル油で起動し、その後、CNG或いはLNGに切り替える混焼エンジンが理想的であるというのがワルチラの研究結果であり、事実、多くの混焼エンジンがワルチラから発売されている。ワルチラは2004年にフランスのChan Tiers del‘Atlantique造船所で引き渡される75,000立法メートルLNG運搬船GTT−CSI搭載用に4基のワルチラ混焼エンジン6L50DF(各5,700kW、514rpm)を受注した(第2−4図)。同船はアルジェリアのSkikdaとマルセイユの近くのFos間を、エンジン3基を用いて速力16ノットでLNGのピストン輸送に当たる。また、エンジン4基を用いて18.5ノットの速力を維持し、米国とフランス間のスポット物LNGの輸送も視野に入れた電気推進船である。
 50DFエンジンは蒸発ガスを有効に利用するように設計されており、LNG運搬船で伝統的に使われてきた天然ガスを用いた蒸気タービン推進よりも全体的に燃料消費量が少なく、運航コストが節約される。また、同等のディーゼルエンジンに比べて、NOxの排出量は1/10と圧倒的に少なく、CO2の排出も少ない。50DFエンジンは46DFの改良型で、シリンダー・ボア500mm、ピストン・ストローク580mm、直列型(6、8及び9気筒)、V型(12、16及び18気筒)、500或いは514rpm(50Hz或いは60Hz)で950kW(MCR)の出力が可能である。50DFエンジンは、ガス燃料の供給が断たれた場合は自動的にディーゼル油モードに移行する。燃焼方式は第2−2図のとおりリーン燃焼方式である。
 50DFエンジンでは空気/ガス燃料比が2.2と空気量が非常に多く、燃焼時のピーク温度が低いため、NOxの生成量が少なくなり、現状で最も厳しいNOx規制値も満足する。燃料系統はガスとディーゼル油の2系統から成るが、ディーゼル油系統は主ディーゼル油系統とガスモードでも使用されるパイロット燃料系統に分かれる。50DFは常に主ディーゼル油系統からスタートし、300rpmに達すると主ディーゼル油系統が遮断されてガスモードに移行する。混焼エンジンの燃料効率の向上と排気ガスの清浄化の問題で大切なのは、各運転状態の負荷に最も適した適正な空気/燃料比を常時変えていくことであるが、50DFエンジンでは排気ガスの一部をターボ・チャージャーをバイパスさせ、ゲート・バルブを通して適正な空気/燃料比を保つシステムとなっている。
 
(LNG運搬船への混焼エンジン適用の背景)
 これまでLNGタンカーに使用されてきたのは蒸気タービン推進システムである。例えば2003年8月から2004年末にかけてスペインのIzar造船所で引き渡される5隻のLNGタンカーは全てボイラーと蒸気タービンを組み合わせた推進システムを使用している。この理由は、低グレードの燃料を使用しても高出力が得られることと蒸気タービンのメンテナンスコストが低いことである。ボイラーと蒸気タービンの組み合わせはシステムも確立され、信頼性も高く、メンテナンス間隔も長い。蒸発ガスを燃焼させる最も簡単な方法はボイラーを使うことであるが、ボイラーと蒸気タービンの組み合わせの最大の欠点は前述の通り効率が低いことである。最近のLNGタンカーは設計の進歩により蒸発ガス量も少なくなっており、LNGタンカーを高速で運航させられるほどのガスが出なくなっている。
 このため、LNGタンカー各社は高効率の推進システムの検討を始めており、ワルチラの混焼エンジン発電・電気推進船はその一つの選択肢である。LNGタンカーの推進システムとして可能なのは蒸気タービン、ディーゼルエンジン(2ストローク、4ストローク)、混焼エンジン及びガスタービンである。ガスタービンは軽く、振動も少なく、且つある程度の混焼性を有しているので、GEやロールスロイスがLNGタンカー用として売り込んでいる。しかしながら、燃料ガスの高圧が要求され、且つ、蒸気タービンのように船舶に合わせて仕様を変えることができないので、効率が悪く、未だにLNGタンカーには採用されていない。通常のディーゼルエンジンは混焼性がないので蒸発ガスを再度液化するガス再液化システムを装備する必要があり、不経済である。従って、ワルチラの混焼エンジン発電・電気推進船が蒸気タービンの代替推進方式として脚光を浴びることとなった。ワルチラは中速及び高速のガスエンジンを7種製造している。
 
 その他、混焼エンジンの用途として多いのは海洋石油・ガス開発用である。2001年10月、ワルチラはノルウェーのベルゲッセンFPSO向けに18V32DF混焼エンジンを使用した5,800kW発電モジュールを納入している。このエンジンは前述の50DFと同じく、ガス田からのガス供給が何等かの理由で中断された場合は、自動的にディーゼル油に切り替えられるようになっている。燃料ガスが供給される圧力は4Bar以下であり、NOxの排出量が通常のディーゼルエンジンの1/10以下、CO2が大幅に減ることも50DFと同じである。
 
第2−3図 混焼エンジンに改造されたHarbor Queen
出典:Marine Log
 
第2−4図 ワルチラLNGタンカー推進システム
出典:ワルチラ
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