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2−4 中間冷却復熱式ガスタービン
(WR−21エンジン開発の経緯)
 米、英、仏海軍は、早くから共同で次世代ガスタービンである中間冷却復熱式ガスタービンICR(Inter Cooled Recuperated I)の開発を進めていた。本エンジンはWR−21 ICRエンジンと呼ばれていたが、具体的開発は1991年12月、ウェスティングハウスを纏め役とし、ロールスロイスが圧縮機、燃焼機、パワータービン、アライド・シグナル(現ハネウエル)が中間冷却器と復熱器、CAEがコントロールを担当する連合体に落札された。
 米海軍はWR−21エンジンの開発が順調に進んだ場合には、Arleigh Burkeクラスの駆逐艦にGEのLM2500に代わって、1996年度より搭載の予定であった。また、米海軍は、WR−21の開発と平行して、そのスペースや設置上の制約をDDG51への適用を対象に検討していた。DDG51クラスは、バス鉄工所(BIW)とリットン・インガルス造船所が交互に建造していたが、WR−21搭載時の防振、防爆支持、WR−21からの発熱が機関室に与える影響を従来のLM2500エンジンと同じとするためのWR−21の閉囲構造等、WR−21が実際に搭載された場合の諸検討が海軍から上記両造船所に委託研究の形で出されている。
 米海軍がWR−21エンジンの開発を急いだ理由は、従来型ガスタービンよりも25%程度の出力向上が期待されること及び燃料消費量が30−40%減り、DDG51クラス1隻で年間$1.5百万の費用節約が見込まれ、更に、排気の環境性能も極めて優れていると予想されたからである。第2−5図にWR−211CRサイクルの概念図及び第2−6図に従来型エンジンと比較した燃料節約の度合いを示す。ICRサイクルでは低出力域において40−57%という高率の節約が可能である。また、高出力域でも17−21%と高い節約率が期待できる。要するに米海軍にとっては、WR−21開発プロジェクトはガスタービン船の欠点である高い燃費の問題を一挙に解決するプロジェクトであった。
 
 WR−21は4つのシステム・コンポーネントから成り立っている。ガスタービン/中間冷却器より成る推進モジュール、清水・海水熱交換器モジュール、潤滑油モジュール及びエンジン・コントロール・モジュールである。第2−5図で、空気取り入れ口から取り入れられた空気は、焼室に入る時に均一な円周方向の速度を保てるように、設計された放射状インテークを通ってコンプレッサーに入っていく。コンプレッサーは低圧と高圧の2種からなり、それぞれ6段から成り立っている。圧縮プロセスは低圧部で30、高圧部で70の割合で達成される。低圧コンプレッサーから出た空気は、閉ループの清水・グリコール熱交換器で冷却される。この中間冷却器を出た空気は高圧コンプレッサーに導かれるが、温度の低い空気は高圧コンプレッサーの効率の向上に繋がる。これによって出力は25%程度上昇する。次に高圧コンプレッサーから出た通常よりも温度の低い空気が復熱器に導かれ、パワータービンの排熱で余熱された後燃焼室で燃焼ガスを予熱する。復熱器に入ってくる空気温度が低いことは、復熱器中でのパワータービンの廃熱利用効率が高くなることである。また燃焼ガスが予熱されているのと併せて、全体的にサイクル効率が向上し、燃料消費量は平均して30−40%減ることになる。
 WR−21の1号機は1994年7月15日に完成したが、テストで熱交換器が破裂したり、完成品の容積が大き過ぎたりしたために、ついにDDG51クラスには搭載されなかった。その後本開発の米国側の主体であるウェスティングハウス舶用機械事業部はノースロップに買収されることになり、WR−21の開発に関し、ウェスティングハウスが持っていた権利は全てノースロップ社に引き継がれた。
(注)ノースロップ社はその後グラマン社を買収してノースロップ・グラマンとなり、2000年12月21日、米国の6大造船所の2つ、インガルス造船所とアボンデール造船所を傘下に持つリットン・インダストリーを合併、更に2001年11月8日、米国最大の造船所ニューポートニューズ造船所を買収した。これ等の動きを見てみると、ノースロップはWR−21の開発を引き継いだ時点で、造船・舶用機械工業への強い進出意欲を持っていたものと思われる。
 
(WR−21の実用化確認テスト)
 1999年12月、ノースロップ・マリーン・システム事業部は、WR−21エンジンの開発が最終段階にあり、各システムの最終性能確認テストを実施中であると発表した。第2−7図はWR−21エンジンの開発スケジュールを纏めたものである。本図は予定ではなく、実績を示したものである。94年まではプロトタイプのテスト期となっているが、前述の通り、これが上手くいっていればDDG51クラスに搭載される予定であった。しかしながらDDG51クラスへの搭載は見送られ、この期間の成果としては、圧縮機、タービン、中間冷却器、復熱器、ダクト等の空気力学的、熱力学的及び機械的諸特性の基本的テストということになっている。
 1994年から99年12月までの間にWR−21は2回の各560時間、500時間の耐久テストを含む、2,267時間のテスト運転を実施している。この期間、システム全体が徹底的にテストされ、また、あらゆる運航状態をシミュレートして本エンジンが安全に作動することを確認する解析が実施された。テストは米海軍のフィラデルフィア実験場及び英海軍のパイストック実験場で行われた。最も厳しい運航条件を想定した99年末の500時間の耐久テストはフィラデルフィア実験場が担当した。この耐久テストは周期的な高出力、塩分を含む吸気、1%硫黄燃料で実施されている。本耐久テスト終了後エンジンを検査した結果、本エンジンの開発が成功であったことが確認され、99年12月の発表となった。その後、米・英・仏海軍は、本エンジンが実用化確認テスト・フェーズに入ることを了承した。
 
 実用化確認テスト・フェーズでは、2000−02の3年間に亘り、世界中の艦艇が遭遇する最も厳しい運航条件を含む、3,000時間の耐久テスト及び衝撃テスト等が行われる。耐久テストでは吸気中の塩分の濃度が種々変更され、圧縮機、その他の腐食に与える影響が調査される。燃料は1%硫黄分が考えられる最悪の条件なので、2,000時間の耐久テストが全て1%硫黄燃料で実施される。
 いずれにせよ、WR−21が実用に供される日は近づいている。WR−21エンジンの環境性能も良好である。SOxやNOxの排出量については、燃料や燃焼温度の違いから、ガスタービンの方がディーゼルエンジンに比較して優れていることは当然である。CO2は消費する燃料の量に比例するので、ガスタービンの方がディーゼルエンジンより排出が多いが、WR−21では燃料消費量が通常のガスタービンよりも30−40%少ないので、単純に考えてCO2排出量も30−40%少ないと言うことができる。また、騒音に関しても、WR−21が発生する空気伝播音は、通常のガスタービンに比べて70%減と言われている。
 
第2−5図 WR−21 ICR サイクル概念図
出典:ノースロップ・グラマン
(拡大画面:106KB)
 
 
第2−6図 WR−21エンジンの燃料節約
出典:ノースロップ・グラマン
(拡大画面:126KB)
 
 
第2−7図 WR−21エンジンの開発実績
出典:ロールスロイス
(拡大画面:51KB)
 







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