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6−6. 蒸気タービンに用いる熱交換器
 蒸気タービンが成立するためには排気ガスと蒸気の熱交換器が必要であるがこの熱交換器はサイズが余り大きいと、搭載性に問題があり使用できない。
 圧力1MPaの飽和水に熱を加えて行くと温度上昇と共に気化が始まるがエンタルピー670kcal/kgの熱を受けないと乾き蒸気にはならない。100kgの水がエンジンの潤滑オイル熱を受熱すると360kcal/kgまでエンタルピーは上昇するがこの状態では殆どが湿り蒸気である。この高温飽和水をエネルギー回収装置である燃料改質装置、排気タービンを通過した後の排気ガスを水蒸気との熱交換器を取り付けると気化が始まり、約670kcal/kgのエンタルピーの状態で乾き蒸気となり、乾き蒸気のまま320℃まで上昇する。この蒸気生成熱交換器の性能と構造について検討する。蒸気側入口ではその様体がほとんど水であるので、水の熱伝達率が5000W/m2・k程あり、排気側の熱伝達率は200W/m2・k程と計算される。乾き蒸気の状態では排気ガス、蒸気の熱伝達率はそれぞれ200W/m2・k程なので排気ガスが蒸気に与える熱量を47kWとすると、このうち30kWが湿り蒸気の状態の熱移動であり、残りの17kWが乾き状態での熱移動となる。多孔質材料の熱伝達、熱伝導の条件から計算式を用いてその伝熱面積を計算すると湿り蒸気側が0.9m2、乾き蒸気側が0.9m2程となる。その構造を計算より得た数値を求めて検討すると排気ガス通路の内径が250mm、この管の内側に外形40mmの円筒管を15本以上配置し、細い円筒管には水蒸気を通過させる。排気ガスの通路には多孔質金属材料に穴を明け、その積層材に円筒管を通し、円筒間の内部には多孔質材が埋設された構造とする。また、水蒸気の通過する円筒間の内部は温度の低い上流側は湿り蒸気が通過するので多孔質材のメッシュが細かく、下流になるに従って、蒸気の流れとなるのでメッシュが粗くなるようにし、流速を上げ、熱伝達率を大きくする。以上の構造の熱交換器の大きさは外形250mm長さ1200mmの中に収納できるのでコンパクトなエンジンシステムとすることが出来る。
 
6−7. エンジンシステムの熱効率の検討について
 天然ガス改質エンジンの熱効率の算出は概説の項で殆ど記述したが、本節ではその詳細内容について報告する。改質装置については先ずエンジンの直後に配置した場合、ガスタービンに必要な入口圧力0.35MPaが改質装置の排ガス通路に付加されるのでその耐圧構造が極めて難しくなる。
 この場合、改質装置入口の排気ガス圧力が0.35MPa、排気温度980℃は金属材料にとって大変厳しい温度で、これらを構成する部材の強度上の保証が出来にくい。改質装置は伝熱効率を良くし、改質を効果的に実施することが必要で、そのためには排気ガスと改質ガスの間の熱流をスムーズにすると共に隔壁面積を出来るだけ小さくし、放熱を少なくし、実用性を持たせなければならない。
 本改質装置に水蒸気改質を複合させた理由は低温度での改質反応を期待したからで、例えばCO2の改質をさせた場合、図6−4に示すように排気ガス温度750℃を投入すると約60%の改質が実現出来る。その時の排気ガス温度は230℃低下するので水蒸気側の改質率は図6−5により60〜70%になる。従って全体の改質率は82.5%となる。
 エンジンには全体燃料の10%が副燃焼室に入り、90%が改質装置に回ってくるのでその量は1.59kmol、エンジンの燃焼によって生ずるCO2は3.68kmol、EGR率20%とすると排気ガス中に含まれるCO2は4.41kmol、改質に必要なCO2はCNGの2.3倍であるからその量は3.68kmolとなる。即ち、排気ガス中に含まれるCO2を80%以上補足しなければならない。この条件が整うと改質装置では燃料が367kW 流入し、改質反応により441kWに増加する。
 副室には全燃料の10%が導入されるのでその燃料分を加えると482kW、ブースト圧力を上昇させるコンプレッサー仕事が加わり、総入力は496kWとなる。通常のこのクラスの排気量のディーゼルエンジンではその熱効率が42%ほど有るが、本エンジンシステムでは熱効率を38%としてブースト圧力を上昇させる仕事を燃料入力に加えた。
 排気ガスへの損失は46%とし、燃焼室には空気663kg、燃料28.4kg、改質時に改質燃料と一緒に入ってくる二酸化炭素と水蒸気が83.6kg加わり、排気ガス総計量は755kgとなるのでその排気ガスがタービンに仕事をし、所定の出力を出す。ガスタービンでは入口温度、圧力が高いほど断熱熱落差が大きく、タービンの流体摩擦損失などはタービン固有の値であるので排気温度が1000℃以上では82%ほどであり、700℃では70%ほどになる結果が出ている。従って、排気タービンは出来るだけ高温領域で使われることが望ましく、エンジン出口に排気ガスタービンを取り付けるほうがシステムとしての纏まりが良い。
 
6−8. 燃料改質装置の熱流に関する詳細検討結果について
 燃料改質装置の設計には多くの要素が有り、それらの総合的機能のバランスが取られなければならない。先ず、二酸化炭素の吸着では排気ガス中から二酸化炭素を回収吸着させ、改質させる事は作動流体が内部循環するので効率が向上し、改質に必要な他の流体を加える事が無いので装置の簡素化が出来る。例えば、水蒸気を改質流体に選んだ場合、多量の水を供給しなければならないばかりか、水とメタンの反応では反応に必要な水蒸気の作製に多くの熱量を必要とする半面、その改質ガスの発熱量の増加が二酸化炭素との改質反応により出来たガスと比較し、十数%小さい。従って、今回の改質装置の研究開発では二酸化炭素の吸着、離脱、改質を如何に多くするかの研究に特化することにする。
 又、改質装置、CO2吸着、離脱装置とも、その反応は加熱による熱エネルギーに依存している。従って、熱を与える熱交換器の機能を併せ持たないとこの装置は成立しない。
 一方、CO2吸着、離脱装置は二つの機能が連続して発生し得ないので同一の機能を持った二つの装置を用い、一方で吸着、他方で離脱を行わせる機能を交互にさせないと吸着、離脱をさせる事が出来ない。
 以上の内容を考え、改質装置のそれぞれの装置機能について以下のように検討を行った。
 
6−8−1. CO2吸着量について
 燃料改質装置の設計については、単なる実験装置を完成させるのではなく、出来るだけ実用化させる装置として考え、種々の条件を考慮した結果として次の様な条件について検討する。
(1) 燃料改質装置は強度、構造、改質反応の効率上の観点から判断し、内圧の低い排気タービンの下流に設置する。(図6−2
(2) CO2の吸着は、Li2ZrO3又はLi4ZrO4等の材料との化学反応を用い、低温度で化学的吸着反応、高温での離脱によりCO2の回収を計る。
(3) 改質装置の小型化を極力実施し、実用モデルとする。
 以上の条件を基に設計検討を実施する。
 初期検討としてCO2の吸着、離脱をどの様な方法で実施するかの計算を行った。CO2の吸着、離脱作用は、350℃〜500℃でLi2ZrO3による化学反応により吸着し、700℃程で離脱する事を前提に検討した。
 改質エンジンでの燃料改質と燃焼では、次の様な反応を繰り返す。
 
CH4+CO2 2CO+2H2・・・ (1)
CH4+H2O CO+3H2・・・ (2)
2CO+2H2+202 2CO2+2H2O・・・ (3)
CO+3H2+202 CO2+3H2O・・・ (4)
 
 改質エンジンでは、CNGの主成分であるメタンとCO2とは先ずその全量の50%、次いで残りのメタンとH2Oとが反応し、残りメタンの65%(CO2改質後で換算すると32.5%)が改質され、残部はCH4がそのまま残り、CO、H2、CH4を含んだ燃料が供給される。
 改質燃料、メタン共、1モルの燃料に対して2モルの酸素を必要とするので、供給空気は燃料の約10倍となる。
 改質燃料は上記改質割合によって計算すると40m3のCH4では、
CO・・・47.7m3
H2・・・71.1m3
CH4・・・10.3m3
に変化し、エンジンに供給される。この燃料が酸素濃度16〜18%、ストイキ状態で燃焼すると燃焼後のガス組成はEGR量:17%として
N2・・・417m3
CO2・・・72m3
H2O・・・114m3
となる。
 CO2とCH4の反応では、CH4:1モルに対し、CO2:1モルが反応するが、従来の結果からCH4:1モルに対し、2.3倍以上のCO2を供給すると反応が促進される。従って、改質器に供給されるメタン燃料の3分の2が最初のCO2改質に参加すると仮定すると25m3のメタンガスがCO2改質層に接触し、そこに存在して反応を促進させるCO2量は25×2.3=57.5m3となる。一方、排気ガス中には72m3のCO2が含まれているので、CO2の吸着効率を80%以上にすれば改質に必要なCO2を供給出来る。従って、量的には十分なCO2が存在するので吸着反応を迅速に実施させ、その量を十分に得ることが今後の課題である。
 
6−8−2. CO2吸着器の容量について
 CO2吸着器はCO2と化学反応する物質が多孔質材の表面に分散され、排気ガスと接触し、化学反応し、選択的にCO2が固定、吸着され、その多孔質材が隔壁を隔てた逆側の集熱部材からの伝熱を受けて加熱された状態で吸着CO2が分離、離脱される機構を考えた。この特性を満足させるためにはCO2の吸着器の吸着部分は比表面積の大きい多孔質金属材を用いるものとする。
 CO2吸着は、効率が良く、反応速度が速く、耐久性の良い吸着器を準備する必要があるが、次の点に留意する。
(1) CO2吸着器は、出来る限り小型が良い。
(2) CO2吸着器は、吸着・離脱を繰り返すので、吸着・離脱の反応温度は、ある程度温度差があった方が良い。
(3) CO2吸着器はCO2吸着部と伝熱部が隔絶されていて、吸着部に十分のCO2が吸着され、排気ガス中の他成分は排泄され、伝熱により濃度の高いCO2が分離される方が良い。
(4) 吸着・離脱のサイクルを反復するために熱容量が小さい方が良い。
(5) 1サイクルの時間は、3〜10分位が良い。
 以上を踏まえ、先ず、実用に供することの出来る容量、熱伝導面積、吸着面積、反応時間等を算出し、CO2 吸着器の設計検討、図面作成資料の検討を実施すると以下の通りになる。
 先ず、1サイクルは加熱時間:40秒、反応時間:3分とすると、3.7分である。そこで、1時間当たりの吸着CO2ガス量から吸着器の容量を求めるために1回あたりの容量を求める。
 
 吸着材体積:L、吸着材被膜厚さ:0.2mm、吸着率400倍、多孔質比表面積:1700m2/m3として計算する。
L=長さ×幅×B
3.56=0.30×B×0.50×1700×0.0002×400
 ここで、多孔質材の幅:0.3m、長さ:0.5m、吸着多孔材の厚さ:Bm、として吸着材の厚さを計算すると、B=0.17mとなる。従って、多孔質材の厚さは17cm以上必要である。
次いで、上記吸着器の熱容量と昇温時間を計算すると下記の様になる。
 多孔質材の比熱:0.45kJ/kg・k、比重:0.4gr/cm3、吸着器エレメントの全幅を28cmとすると、熱容量Qcoは
Qco=30×28×50×0.4×0.45÷1000=7.56kJ/k
7.56×350=2646kJ(吸着時温度350℃、離脱時温度700℃とする。)
 燃焼ガス比熱:1.12kJ/kg・k、通過ガス量:775kg/H、通過ガスと吸着器の平均温度差:175℃とすると
 
 
 t=1.045分となるが、排気ガスの温度は750℃であるので、CO2の離脱が始まる700℃には約40秒で到達する。







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