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ヘルパーの仕事は“心”がいちばん大切
 こうして本格的な活動を始める体制を整え、2000年4月からは介護保険事業にも参入した。ところが、当初のメンバーの多くはヘルパー資格は持っているものの、他人の介護など経験したことがない専業主婦ばかり。いざ支援に入る段になると、思いもかけない対応ぶりに、木下さんは驚かされた。
 「これから介護に行くというのにロングスカートをはいてくる人もいれば、利用者のお宅に同行しても、ただ立っているだけという人もいました。また、“あんな汚いところには行けない”と訪問を拒絶したり・・・。そういう状況だからこそ、私たちのような存在が必要なのよと言っても、聞く耳を持たないんです。こんなことでは、とても事業は続けられないと途方に暮れました」
 ヘルパーの仕事は、技術だけではなく“心”が大切。NPOの理念を理解して、利用者と温かい心の交流を持とうとする人でなければ、一緒にはやっていけない。悩んだ末に、木下さんはメンバーを刷新することを決意。介護保険の枠内・枠外の区別なく、やさしさと温かさをモットーにした活動ができる仲間を募った結果、利用者が新たな利用者を紹介してくれるという相乗効果によって徐々に活動も軌道に乗り、現在は約35名にまで利用者が増えた。
 「福祉サービスも従来の与えられる“措置”から、自ら選ぶ“契約”の時代になりましたが、介護保険事業を始めた当初にうちを利用してくださった4名の方のケアを、今も継続して行っているのが誇りです。ケアマネジャーは介護プランの見直しのたびに、他のところを利用してもいいんだよとおっしゃるそうですが、彼らは“サンアンドムーンがいい”と言ってくださるとか。そういう信頼関係を築けたことが何よりもうれしいし、私たちも自分の親のような気持ちで接しています」
 
 
思いを形にすべく、サロンを開設
 木下さんはさらに続ける。
「利用者のお年寄りの多くは、子どもたちが東京や大阪方面に住んでいます。とても我慢強い人たちだし、気丈でもあるんですが、内心は不安でいっぱいだし、とても寂しい思いをしてるんですね。だからこそ、いざというときは私たちがちゃんと面倒をみるから安心して。そう言ってあげたいし、家にひきこもらずに外に連れ出す機会もつくってもあげたい。そうして、あなたのことを気にかけている人がここにいるとわかってもらうことが、生きる張り合いにもつながると思いますから」
 その思いを形にすべく、昨年9月には新たに「武蔵ケ丘サロン」も開設。ここは木下さんの実家を改造したデイサービス施設で、介護認定を受けていない人も1日1500円で利用できる。改装費用には1000万円近くかかったが、助成金を当てにせず、家と土地を担保に国民生活金融公庫から借金をしてオープンにこぎ着けたというから、その決断と意気込みには頭が下がるばかりだ。
 「定員11名のアットホームな雰囲気がいいみたいで、施設だと“預けられる”と拒否反応を起こす方でも、友人の家に遊びに行く感覚で、喜んで通ってくるんですよ。ある一人暮らしの痴呆症のおばあさんなどは、ここに来ると、いそいそとエプロンをつけて家事を手伝ってくれたりもしています。自宅では絶対にそんなことはしないそうで、周りの方々はにわかには信じがたかったようですが、最近では買い物ができるまでにボケの程度も改善。やはり人間は、食べて寝るだけじゃダメなんですよね。楽しむ、遊ぶ、学ぶ、ふれあう、そういう刺激が必要なんだと、改めて感じています」
 このように、常に利用者の立場に立ったサービスを心がけ、「あくまでも家庭の延長」をモットーに活動を続けるサンアンドムーン。
 「この3年間の活動を振り返ると、正直言って、自分にここまでできるとは思っていませんでした。でも私たちが動くことによって世のため、人のために貢献できる。その喜びが原動力になっています。また活動を通して、いい仲間、いい利用者に出会えたことは、何物にも代えがたい財産ですね。今後もできることを、コツコツと地道にやりながら、ふれあいの輪を広げていきたいと思っています」
 新たな地域福祉の担い手となるべく、ますますの発展を期待したい。
 
サンアンドムーンは地域の高齢者の憩いの場所
 
 熊本県熊本市西阿弥陀寺町に拠点を置く「ケアサービスくまもとサンアンドムーン」は、地域の実情に即した適切なサービスの提供、円滑で迅速な対応のもと、地域住民が明るくイキイキと暮らせる社会を目指して設立されたNPO法人。事業内容は公的事業と通所介護事業を、後者では有償ボランティアによる在宅福祉サービスを行っている。介護保険外のサービスを利用するには会員になることが必要で、入会金1万円、年会費3000円。サービスの利用料は1時間800円(交通費別途)。活動に対する謝礼金は同640円(160円は事務経費)。(→連絡先は最終頁
 
1994年
4月
ボランティア活動を開始。NPOの設立準備に入る
 
10月
NPO法人格を取得
 
12月
「ケアサービスくまもと サンアンドムーン」設立
2000年
4月
介護保険の訪問介護事業所となる
2001年
1月
日本財団より福祉車両の寄贈を受ける
2002年
9月
デイサービス施設「武蔵ケ丘サロン」を開設。介護保険の通所介護事業を開始
 
 







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