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グループホームの窓辺で
干渉しないが温かい
日本酒で乾杯
 午後6時半、食堂にみんなが集まってきた。ロの字形に配置された食卓テーブル。入居者8人とコーディネーターのSさん、それと毎週木曜日にボランティアで訪れているTさんがいつもの席に着く。テーブルを囲む全員が女性。このホーム唯一の男性入居者は旅行中とのこと。「ゲストはこちらに」とSさんの隣の席を勧められて座ると、1人分ずつお盆に配膳した夕食が運ばれてきた。中華風の妙めもの、お芋の含め煮、小松菜のカラシ和え、大根の味噌汁、ご飯という献立だ。
「お酒、まだ残ってた?一杯飲もうか」と声がして、ほどなくお猪口に注がれた日本酒がまわってきた。
「じゃあ、乾杯」
「何に乾杯?」
「うーん、みんなの健康」
「元気になりすぎよ、みんな」
「ほんとだ(笑)」
屈託のない言葉がポンポンと飛び交って、食事が始まった。聞けば、日本酒は地鎮祭で御神酒として飾ったものだという。このふれあい型グループホームを運営するNPO法人が2つ目のホームを建設中で、その地鎮祭が先月執り行われたところなのだ。
「神主さんが女性で驚いたね」
「祝詞をあげる声がやさしくてね」
「そうよ、今は女性の時代なのっ」
 たちまち地鎮祭の話で盛り上り、祝詞を真似る声に笑いが起こる。まるで久しぶりの同窓会のような賑やかさだ。
電気代も個人単位
 このホームには9人の入居者とコーディネーターの10人が暮らしている。1階はリビングと風呂場と居室、2階には食堂と台所と居室。ホームエレベーターを設置し、ゲストルームとして2階の1室にソファベッドを用意している。毎月定期的に泊まりに来て、庭木の手入れや草取りをしてくれるボランティアもいるそうだ。「リビングと食堂が別々なんて賛沢ですねって言われるんだけど、普通の家庭はそうなっているでしょう。ここは私たちの家庭だから、くつろぐ場所と食堂はやっぱり別にしたいとこだわりました。この点は2号目のホームも同じ」とSさんは言う。
 居室は16畳の広さでトイレとミニキッチン付き。電話は各室にあり、電気のメーターも1室ごとの個別メーターとした。
 「こうすれば、電話代や電気代は完全に自分持ちだから、ほかの人のことを気にせず使えるでしょう。好きなだけテレビを見ていられるし、遅くまでCDを聴いていたっていいわけね」
 個別化できるサービスや費用はすべて個人別にする。これがこのホームの運営の基本だ。みんなで一緒に食卓を囲むのは夕食だけ。朝は各自好きなように食べ、昼食は希望する人だけお弁当をとる。部屋の掃除が大変だったら、各自で家事援助サービスを利用する。Sさんも週に2回、市民団体のヘルパーに来てもらい、掃除をお願いしているという。
どこからか流れてくる音
 ふれあい型グループホームの暮らしの基本は自立と共生。お互いの生活に干渉せず、仲間にあまり迷惑をかけず、共有できる時間をともに楽しむ。実はこういう生活は、言うは易く行うは難し、だ。これをうまくリードするのがコーディネーターで、「その点、うちはSさんが手本を示してくれるので、互いに干渉せず、だけど食事の時はこの通りの賑やかさなんです」と話すのはホームで最年少のTさんだ。
 たとえば、用事があってもいきなり部屋を訪ねたりはしない。まず電話をかけて、都合を聞いてからドアをノックする。「そういう暗黙のルールがないと、自分の部屋で下着のままうろうろしてもいられないでしょ」とTさんは悪戯っぼく笑う。
 だから、互いに部屋の中まで招き入れることはあまりしないし、コーディネーターのSさんでさえ、まだ1度も中に入ったことがない部屋がいくつもあるという。
 「一歩部屋に入ってしまえばプライバシーは守られる。だけど、1人じゃない、寂しくないんです。どこからかテレビの音が低く流れてくると、なぜかホッとするんですよね」
 こういう夜の時間がTさんは好きだという。
一代記を紙芝居に
 話を夕食の食堂に戻そう。食後のお茶が出る頃、最年長のMさんは残したおかずとご飯を、「明日の朝ね、温っためて食べるの」と弁当箱に詰め始めた。
 Mさんは明治45年生まれの90歳。10歳年下の妹とともに入居している。
 「若い頃はね、本当に苦労したの。姑がそれは厳しい人だったし、生後50日で娘を亡くしてね、産後の肥立ちも悪くて本当につらかった」
 Mさんの身の上は仲間のみんなが知っている。婚家を出て和裁で身を立てたこと、その後ハンサムな男性に出会って幸せな再婚をしたこと・・・。
 何回となく聞いたMさんの生涯をみんなで紙芝居にしてお誕生日のプレゼントにしよう。そう提案したのはコーディネーターのSさんだ。絵心のあるSさんが下絵を描いて、みんなで手分けして色を塗り、一巻の紙芝居は完成。お誕生会では活弁よろしくMさんの一代記が語られた。
 ここのお誕生会はいつも、こんなありきたりでない企画にあふれている。謡いあり、ウクレレの演奏あり、サリーを身にまとってのインド舞踊あり・・・、みんな笑いくたびれて、くたくたになってしまうという。
 Mさんは90歳とは思えない茶目っ気たっぷりの笑顔でホームでの暮らしを話して聞かせ、「楽しく暮らさなきゃね、今日もいい一日でした」と自室に帰って行った。
立ち上げる時に注意することは?
 今回から、これからふれあい型グループホームを運営しよう、あるいは運営のお手伝いをしようと考えている人に向けて、運営側のチェックポイントを紹介していくことにしよう。ふれあい型グループホームは、初めに人ありき、である。これまで右ページのエッセイで紹介してきたように、入居者が自立的に、かつ仲間と和やかに暮らすことができるホームであるかどうかは、経営者やコーディネーターなどホームを運営する人の考え方と、その周辺で高齢者を支える人たちのネットワークによって決まるといっても過言ではない。
 従って、安易に建物を先行するのではなく、運営者と入居希望者、借地の場合は土地提供者、また地域でグループホームを支える人たちなどと綿密な計画を立てて建設に臨むことが大切だ。地域でそのような人たちと研究会をつくり、定期的に話し合いを重ね、準備期間に数年を費やしているケースが多く見られる。今号で紹介したSさんがコーディネーターを務めるホームはそうやって第1号を立ち上げ、2号目もおなじようなプロセスを経て建設に着手した。
 具体的には、まず運営の指針を明確にすること。ふれあい型グループホームは高齢になった時の住みかとして、高齢者を地域と知人たちが支え、そしてホームが地域社会の高齢者を支えるという連環を持つものであり、それが実現できるような指針を定めることが大切だ。
 次に財務計画を立てること。入居者が何人であれば収支が見合うのか、日常の経費はどの項目にいくら必要なのか、長期にわたる償還期間がある借入金について償還財源をどこに求めるか、経常的な建物の維持管理にどれくらいかかるか等々、財務についてのシミュレーションをして、全体の損益分岐点はどこかを知る必要がある。
 そして「安全」についての取り組みを。心身ともに弱体化する高齢者に対して、防災、健康の維持管理、財産の保全、移動手段や食品に関する配慮など生活のあらゆる面で安全が充分に確保される取り組みが求められる。
 
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さわやか福祉財団
年度スケジュールのご紹介
研修会・イベント等のお知らせ
 
 さわやか福祉財団では、新しいふれあい社会づくりを目指して、多方面から様々な事業を行っています。年度中に行う研修会・諸イベント等のうち主なものを順次ご紹介します。詳細等ご関心のある方はどうぞお気軽にお問い合わせください。
(なお、財団ホームページでも併せて詳細等をご紹介しています。→http://www.sawayakazaidan.or.jp
 
組織づくり支援グループ
「地域たすけあい研修会」(リーダー研修会)
 地域のボランティア普及啓発と団体設立促進に向けた研修会。30か所程度を予定し、全国で開催中。(以下は日程が明らかになっているものの一部です)
2月15日(土)神奈川県平塚市
 〃  愛知県豊橋市
2月23日(日)北海道小樽市
3月2日(日)奈良市
「ふれあい活動実践研修会」(団体設立に向けた研修会)
 全国で50回の開催予定。各地で開催中。
 
地域協同推進プロジェクト
「地域協同推進フォーラム」
 さまざまな団体等が地域で「協同」して助け合いを進めていくための啓発普及シンポジウム。
1月23日(木)熊本市
 
グループホーム推進グループ
「映画とフォーラムから考える!自立と共生の新しい『すまい方』」
1月18日(土)愛媛県松山市
3月8日(土)沖縄県那覇市
 
広報・企画グループ
「さわやか福祉財団交流総会」
2月19日(水)東京都千代田区
 さわやかパートナーの皆様をはじめとしたご支援者の方々にご参加いただく交流会として毎年開催しているもの。(詳細は「2002年度「さわやか福祉財団」交流総会のお知らせ」ご参照
 
渉外
「高齢社会研究セミナー」
中高年の社会参加を実現するためには
 日本の中高年の社会参加の現状と課題について考察・討議し、その促進を図ることを目的に、さわやか福祉財団が参加している「高齢社会NGO連携協議会」が開催。
1月17日(金)東京・千代田区日本都市センター会館
定員200名、参加費は無料
 
*なお、内容は変更となる場合があります。具体的お問い合せは各グループ・プロジェクト担当までお願いします。→TEL03(5470)7751







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