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グループホームの窓辺で
母の居場所はホーム
入院そしてリハビリ
 「母にとってはホームが自分の家なんだとつくづく思いました。入院していた5か月余り、私が見舞うたびに『ホームに帰りたい』と言って、それは帰りたがっていましたから」
 そう語るS子さんは、母親が暮らすグループホームに片道2時間半かけて通う東京在住の主婦である。母親のYさんは91歳、脚にできた静脈瘤の治療のために入院したのは春先のことだった。高齢の上、心臓にも持病があるため絶対安静の入院生活を送っているうちに、たちまち寝たきりになってしまった。
 寝たきりではホームには帰れない。少なくとも自室の中を自分で移動してトイレや洗面に立てるようでないと、高齢者が共に暮らすふれあい型グループホームでの暮らしは難しい。そこで、静脈瘤の治療を終えたYさんは、病院から老人保健施設に移り、ホームで暮らすためのリハビリを3か月。手すりにつかまれば歩けるまでに回復してホームに帰ってきたのは夏の盛りだった。
 「入院中もリハビリ中も数え切れないくらい見舞っていただいて、先生にはお世話になりっぱなしでした」
 S子さんが「先生」と呼ぶのは、入居者とともに暮らしているホームの経営者Aさんだ。S子さんたち家族が母をホームに入居させるまで、そして入居してからも、S子さんは家族の事情を包み隠さず話し、いろいろな相談に乗ってもらってきた。その信頼感が「先生」と呼ばせるのである。
家族の意思で入居
 Yさんが入居したのは2年半前だ。86歳で夫に死別した後、自宅で一人暮らしを1年。かつて家族みんなが住んでいた大きな家に一人残されてしまった母を気遣って、S子さんの実家通いが始まる。
 「行くと、もう忙しくて。掃除、食事のしたく、その合間に銀行に走り、買い物もしなくちゃならない。母はバタバタと動きまわる私の後を追うように付いてきては愚痴をこぼしてました」
 ひんぱんに実家へ通うS子さんが疲れ果てて帰宅するのを見かねて、「それなら、うちに来てもらったら」と呼び寄せを提案したのはS子さんの夫だった。
 「これで万事解決、とみんなが思ったんですが、そうはいかなかったんです」
 一緒に暮らしてみると、Yさんは勝手が違う狭いマンション住まいになじまず、S子さんは絶えず聞かされる母の愚痴話に閉口し、互いに神経をとがらせるようになった。
 「そうこうしているうちに、ある晩、お風呂から上がったら、母がいない。何も言わずに家を出て、兄のところへ行ってしまったんです。もう、ショックで、しばらく寝込みました」
 長男の家に身を寄せたYさんだったが、ここでの生活も長くは続かず、進退極まって、家族が探した居場所が今のグループホームだった。
 ふれあい型グループホームを老後の居場所として選択した人の多くは、自分の意思で入居を決めている。しかし、Yさんのように長い年月を夫に従い、子どもを育て、家族のために働いてきた世代の大部分の女性は、自分で身の振り方を決めることができず、その選択さえ子どもに委ねなくてはならないのも現実なのである。
介護を受けながらの日々
 ホームに入居したYさん、もちろんすんなりホームの生活になじんだわけではなかった。自室の電話から日に何回もS子さんに電話をかけてきた。○○さんがああ言った、××さんにこう言われた、眠れない・・・、「相変わらず愚痴ばかりでした」とS子さんは苦笑する。
 こんなこともあった。ホームのみんなでバス旅行に出かけた車中で、Yさんがミカンを1個ずつみんなに振る舞ったところ、「いつももらうばかりで、こちらはお返しができないから、もうやめてほしい」と言われてしまったというのだ。
 物をあげることで他人とのコミュニケーションを図ろうとするのは、Yさん世代の特徴だ。Yさんも果物や菓子を家族に送らせては、みんなにお裾分けしてきた。そうすることで、ホームでの居場所を確かなものにしたいとの気持ちもあったのだろう。
 「母の気持ちもわかるし、皆さんが迷惑だと思う気持ちも納得できる。こういう時に間に立って上手にとりもってくださるのが先生なんです」
 この一件のあとS子さんは、到来物のお裾分けは食事のお世話をしてくれる先生の奥さんにね、と母に話して聞かせたのだという。
 さて、リハビリを終えてホームに帰ってきたYさん、しばらくは夜中に何度もブザーを鳴らして、先生や奥さんを起こしたらしい。自室で伝い歩きする以外の移動は車イスを使うようになり、階下の食堂に行くときは、階段の昇降機を使う。Yさんの退院に先立って、先生が設備投資してくれたものだ。
 食が細くなってしまったYさんのために奥さんは調理に一手間かけ、ひとつ屋根の下に暮らす仲間たちは「どう?変わりない?」と開け放してあるドアから声をかけていく。「母一人のために昇降機を付けて迎えてくださって、本当に感謝しています。ここよりほかに自分の居場所はないと、母もわかったのでしょう。電話がめっきり減りました」
 S子さんの目には、退院後の母は老いがいっそう進んだように見える。先生と相談して、週3回ヘルパーに入ってもらい、そのうち1回は入浴介助してもらうことにした。S子さんにしてみれば、母のことで先生にこれ以上お世話をかけたくない、できれば毎日でもヘルパーに来てもらいたい、というのが正直な気持ちだ。「まあ、私たちでやれるうちは任せておいてください」という先生の言葉に結局甘えてしまうが、将来、ホームに暮らすみんなが年を重ね、要介護状態になった時にはどういうことになるのだろうか、とS子さんは先生の苦労を察して胸が痛くなる思いだ。
グループホームでどこまで自分好みの暮らしができる?
 ふれあい型グループホームは、介護保険で入れる特別養護老人ホームや老人保健施設、痴呆対応型グループホームとは違い、比較的元気な高齢者が仲間と共に暮らす「家庭」であるから、生活の自由度は介護保険施設に比べるとはるかに高い。
 まず入居者の居室はすべて個室であり、トイレ、洗面台、ミニキッチンがついているところも多く、排泄、睡眠などのプライバシーは守られる。自室には自宅で愛用していた家具を持ち込むこともできるし、絵や思い出の写真を壁に飾ったり、自分好みの空間にすることは全く問題ない。
 しかし、たとえば壁紙を変えるとか、居室の一部を改造するなどには注意が必要だ。基本的には他の居室や建物全体の調和を乱すような模様替えや改造はしないほうがよい。壁紙など居室内にとどまる模様替えの場合でも、事前に経営者の許可を得ることはもちろん、工事中は業者が出入りして他の入居者に迷惑をかけることにもなるので、入居者全員の了解をとっておくことが望ましい。また、たとえ軽度の模様替えや改造であっても、入居契約上、退去する時には原状に戻すことが義務づけられている。
 リビングや食堂など共用部分に、趣味で描いた絵や丹精して育てた鉢植えなどを飾りたいときも、事前に経営者と入居者の了解を得ておくとよいだろう。人の趣味は千差万別であり、中には好ましく思わない人もいるかもしれない。
 自分好みの生活とはいっても、食事で自分だけ特別料理を注文することは無理。もちろん自分で調理してもいいわけだが、病気になってお粥を炊いてもらったり、医師などの指示によって調理法方を変更して食べやすくするなどの特別な調理には十分対応してくれる。
 生活のソフトの部分については、入居者みんなで決めたルールを破らない限りかなり自由だ。家族や友人を食事や宿泊に招くこともできる。宿泊者用の部屋やソファベッドを用意しているホームが多く、事前に連絡しておけば食事を一緒にとることもできる。入居者が家族や友人とだけで食事をしたいというなら、自室に食事を運んでくれる。また、入居者が家族の家に泊まりに行ったり、旅行に行ったりというのも全く自由だ。
 
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さわやか福祉財団
年度スケジュールのご紹介
研修会・イベント等のお知らせ
 
 さわやか福祉財団では、新しいふれあい社会づくりを目指して、多方面から様々な事業を行っています。年度中に行う研修会・諸イベント等のうち主なものを順次ご紹介します。詳細等ご関心のある方はどうぞお気軽にお問い合わせください。
(なお、財団ホームページでも併せて詳細等をご紹介しています。→http://www.sawayakazaidan.or.jp
 
組織づくり支援グループ
「地域たすけあい研修会」(リーダー研修会)
 地域のボランティア普及啓発と団体設立促進に向けた研修会。30か所程度を予定し、全国で開催中。(以下は日程が明らかになっているものの一部です)
11月12日(火)岐阜県中津川市
11月15日(金)石川県中島町
11月17日(日)北海道滝川市
11月24日(日)秋田県横手市
【年内予定】愛知県、奈良県
「ふれあい活動実践研修会」(団体設立に向けた研修会)
 全国で50回の開催予定。各地で開催中。
 
地域協同推進プロジェクト
「地域協同推進シンポジウム)
 さまざまな団体等が地域で「協同」して助け合いを進めていくための啓発普及シンポジウム。
11月18日(月)兵庫県神戸市
2003年1月23日(木)熊本市
 
社会参加システム推進グループ
「ワークショップ」(勤労者マルチライフ支援事業)
 中高年勤労者(退職者を含む)を対象にしたワークショップを開催予定(各地域20名程度)
11月30日(土)東京都大田区
12月7日(土)千葉県浦安市
12月14日(土)愛知県大府市
 
グループホーム推進グループ
「映画とフォーラムから考える!自立と共生の新しい『すまい方』」
11月22日(金)群馬県前橋市
12月3日(火)宮城県仙台市
12月10日(火)広島市
2003年2月 愛媛県松山市
3月8日(金)沖縄県那覇市
 
広報・企画グループ
「さわやか福祉財団交流総会」
2003年2月19日(水)
 
*なお、内容は変更となる場合があります。具体的お問い合せは各グループ・プロジェクト担当までお願いします。→TEL03(5470)7755







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