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豪華なハコモノ施設に疑問
 再訪した東和町は自立した元気老人と老老介護は11年前と同じだったが、町の風景は変わっていた。道の駅、オートキャンプ場、町立総合センターなどが立ち並び、ホテル・人工海岸などを整備した海浜リゾートが出現していた。さらに海岸道路の拡幅工事が進行中で、かつては美しかった海水も心なしか透明度が落ちているようだった。
 また東和町出身の民俗学者、宮本常一を記念する資料館も着工されていた。町の高齢化率は50%の大台に乗ったが、それを上回るスピードでハコモノが増殖していたのである。以前はなかったお年寄りのためのデイサービスセンターは3か所も出来上がっていた。
 浦安市のハコモノ整備も目を見張るものがある。中央公民館のほか主要住宅団地に立派な公民館が整備されているだけでなく、団地自治会と老人クラブはそれぞれ集会室を持っている。壮観はディズニーシーに隣接した市立総合体育館。工費は135億円という豪華施設だ。福祉施設としては浦安市特別養護老人ホーム(ショートステイ、ケアハウス合わせた定員180人)がある。工費は35億円。福祉の専門家によれば「普通の老人ホームが3軒建つ」お値段である。外壁はフランスからの輸入材だという。ほぼ同時期にオープンし、模範的な高齢者施設として全国からの視察団が列をなす秋田県鷹巣町の「ケアタウンたかのす」は全室1人部屋のユニットケア方式で総工費27億3000万円である。
 浦安市の特養の問題点はその立地と使い勝手だ。市民自身による在宅福祉に対する地道な取り組みに比べて、市の施設づくりはバラマキ福祉の気配を感じた。人里離れた海岸の殺風景な埋立地に忽然とそびえる建物は、福祉の夜明け前に言われた「姥捨て山」を思い出す。家族やボランティアが足繁く通えるような場所ではない。4人部屋はユニットケアが可能な準個室になっているものの、なぜか、トイレが外の廊下にあるという不思議な設計。「ケアタウンたかのす」は1人部屋に専用トイレがついている。クレームが多く辞める職員も出たため、市は千葉県と相談し、抜本的な改善を検討中という。10月27日は浦安市の市長選挙。埋め立てによる大規模な土地造成とディズニーランドの誘致がもたらしたバブル的都市計画の遺産をどう処理するか? それが新市長の課題だ。
 埋立地にはまだ更地が残っており、現在も集合住宅の団地造成が続いている。ディズニーシーの開園効果もしばらく続くだろう。こうした開発効果によって平成不況のさなかにもかかわらず、浦安市はゆとりあるまちづくりを謳歌してきた。2001年度の1人当たり個人住民税額は全国ベスト4に入る。しかしこうした繁栄がいつまでも続くとは限らない。
 
「老い」が忍び寄る浦安の高層団地
ベッドタウンを襲う「直下地震型高齢化」見えない危機にどう備えるか
 高齢者研究会ユーユーの創設メンバーの1人、服部アキさんが「浦安の高齢化」を先取りして研究会を立ち上げたのは1989年。当時の浦安市の高齢化率は4%と現在の半分だった。日本一若い町も着実に老いている。
 年齢階層別の人口分布を表す人口ピラミッドを見ると浦安市は昭和30年当時、高い年齢層ほど人口が少ない2等辺3角形だった。ところが現在は20歳代と50歳代が膨らんでいるひょうたん型。つまり10年後には団塊世代が高齢者になり、40年後には団塊の子ども世代が高齢者者になる。つまり浦安市は2段ロケット式に高齢社会に突入する。これは全国のベッドタウンでも予想される現象だ。三浦文夫地域福祉学会顧問は「長年にわたって緩やかに高齢化してきた東和町と違って、浦安市の高齢化は一気にやってくる直下地震型の高齢化になる」と警告する。
 前述したように様々な市民同士の取り組みが始まってはいるものの、一般市民は「今がハッピーだから危機感がない」。ここの住民で都市計画に詳しい元建設省職員の若山和生さんは指摘する。浦安市民の7割は家の中の様子を窺いづらい集合住宅に住んでいるといわれ、「老い」の姿が外から見えにくい。大都市では老いに限らず危機が見えたときはすでに手遅れなのである。若山さんは数年前、市民シンポジウム「私たちの生活と第2湾岸道路」を開き、浦安市ではぜんそく症状やアレルギー性皮膚疾患の児童の割合が全国平均値を大幅に上回っていると訴えたが、浦安市民の反応は鈍かったという。
 宅地造成されたベッドタウンが数十年たった今、高齢化に悩む姿はすでに日本各地で現実となりつつある。現代社会が生んだ人工都市を、どのようにして血の通った地域社会へと変貌させていくのか。浦安市は幸い豊富な資金力と、住民のすぐれた人材資源を誇る。そうした貴重な社会資源、高いポテンシャルを「老い」への備えにどう生かすかは、市民自身の責任だ。それは超高齢社会を目前にした我が国全体の問題でもある。







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