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心の交流を大切にした活動がモットー
 そんな同会では活動の開始以来、「日々の営みそのものが福祉」のポリシーのもと、当たり前のことを当たり前に、ただ淡々と行ってきたという。
 「介護が必要となった人たちの、体のお世話をすることだけが福祉じゃない。車イスの人がいたら手を貸す。赤ちゃんが泣いていたらあやす。それも福祉なら、何らかの事情があって普段通りの生活ができないならば、そこに手を差し伸べるのも福祉。だからそれが草取りでも、見守りや話し相手でも、墓参りのお伴でも、何であっても構わない。とにかく“困ったときはお互いさま”のスタンスで、あらゆる生活援助に対応する。人が人とかかわりを持ちながら生活していく以上、そういうサービス事業所が街の中に普通に存在しないと、人間らしい暮らしは営めないと思うんです」
 宣伝やPR活動は特にしたことはない。それでも口コミによって徐々に利用者は増えてきて2002年6月現在、正会員数27名、利用会員数は158名。毎月、10名前後の新規会員の加入があり、1か月の有償サービスは250時間前後にのぼる。何かと不便はしていても、我慢をしながら暮らしてきた人がいかに多いかを物語る数字といえよう。
 
同会の理事及びスタッフ
 
 さらにいえば、短期間に市民から認知を得たその秘訣は、単なるサービスの提供だけではなく、心の交流を大切にしたその活動姿勢に負うところが大きいように思える。放蕩三昧で家族からは見放され、心も生活も荒れ放題。周囲からつまはじきにされた孤独な老人でさえ、同会の事務所には入り浸り、お茶を飲みながらニコニコと世間話をしていったというから、その懐の深さと温かさは推して知るべしである。
 
北茨城市在宅介護支援センターのメンバー 
 
 「その方が亡くなったとき、家族の方から“最後の最後に人間らしさを取り戻せた”とお礼の言葉をいただいた。きっと寂しかったんですよね。人間関係が希薄になって世の中の空気が乾いている今の時代、癒しを求めている人はことのほか多い。その癒しを、活動を通して提供することができ、笑顔をもらえる。それによってまた我々も癒され、明日の活動へのパワーが沸いてくる。正直言ってこの2年の間には、挫折感も味わったし、弱音を吐いたことも一度や二度じゃない。でも、苦しんだことは得たものから比べれば取るに足らないことだと、心から言えます」
 輝かしい功績など何もない。でも、孫が生まれた、病院に担ぎこまれた、今日も変わりなく暮らせた等々、日々の営みそのものの中にこそ、何物にも替えがたい楽しいエピソードがあり、数字には表れない部分に、活動のやりがいはあるとも高松さんは話す。
次なる目標は宅老所の開設
 「最近では、通学途中の子どもたちが、揃いのエプロンを付けたうちのスタッフを見て、“あっ、ウィラブだ”と指をさす。そうかと思えば、“世話になるばかりじゃ申し訳ない。何か私にもできることはないか”とおっしゃる方もいる。そういう人には、“ご近所の誰それさんの見守りをしてよ”と頼んだりもすることもあるんですが、他者に無関心だった人々の心が、少しずつではあるけれど、着実に変わり始めている。それを実感する今日この頃です」
 
事務所に遊びに来た会員さんを寄贈車(日本財団より)で送る
 
 2年間の活動で、確実に一歩前進した手応えは得た。またNPO法人格の取得とそれに続く訪問介護保険事業への参入によって、あと半年もすれば専従スタッフでも何とか生活をしていけるだけの収入が確保できる目処もついたという。だが、高松さんはまだまだ現状に満足しているわけではない。
 「次なる一歩としては、家に閉じこもりがちなお年寄りを外に連れ出す手段として、宅老所を開設しようと考えています。そしてここを地域の憩いの場として根付かせることで、子どもからお年寄り、障害者までが一緒に、当たり前に暮らす福祉コミニュティーづくりの拠点にしたいんです」
 目指すは、心の温もりと自然の恵みにあふれたユートピア。「道はまっすぐじゃないけれど、進んでいっている方向は間違っていない」。その確信のもと、「ウィラブ北茨城」の、そして高松さんの奮戦はまだまだ続く。
 
事務所内風景
 
 茨城県北茨城市に本拠地を置く「ウィラブ北茨城」は、北茨城市在住および近隣地域の高齢者や身障者等に対して、介護・介助に関する事業を行い、地域福祉の増進に寄与することを目的として設立されたNPO法人。主なサービス内容は(1)料理、洗濯、掃除、庭仕事、買い物や話し相手などの身の回りの世話、(2)通院介助、外出介助、散歩などの外出の手伝い、(3)食事介助、排泄介助、衣類脱着介助などの身体に関する相談事。会員になるには年会費2000円が必要。サービスを利用するには1時間700円のチケットを購入するシステム。また、活動者には600円の謝礼金が出る。利用時間は月曜から金曜日の9時から17時だが、時間外も相談に応じる。(→連絡先は最終頁
 
1999年9月
高松代表、地域リーダー養成・ヘルパー2級講座受講
2000年3月
受講生仲間12名で、任意団体「ウィラブ北茨城」を設立
4月
NPO設立準備説明会を開催
7月
NPO設立準備総会を開催
10月
NPO法人認証を受ける
2001年2月
訪問介護事業所として県の指定を受ける







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