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特集 新しいふれあい社会を考える
子どもも含めた住民を主役に、行政は黒子に徹する
“主権住民”の地域福祉計画の作り方
愛知・高浜市と神奈川・平塚市を訪ねて
 
 介護保険が地方分権の試金石だとすれば地域福祉計画は住民参画のスタートライン。内容はもちろんだが住民による「ボトムアップ」がどこまで達成されているかという作成プロセスの方が大事である。小・中学生も参画した愛知県高浜市と県の職員が計画地区に引っ越し1住民となって市民と一緒に取り組む神奈川県の平塚市。果たして「主権住民の地域計画」は達成できるのか?現地でその一端にふれてみた。
(取材・文/尾崎 雄)
小・中学生も計画づくりに参画
愛知・高浜市
 
 愛知県高浜市の議会は去る6月24日、住民投票の参加資格年齢を「18歳以上」に引き下げ、永住外国人や受刑者にも投票を認める住民投票条例の改正案を全会一致で可決した。未成年者に参加資格を与える住民投票条例は全国初めて。9月から施行される。この住民投票条例は特定の課題を決めずどんな案件にもすぐに対応できる全国唯一の「常設型」条例として設置された。
 世の中の動きが早くなった今、地域の重要問題が起きたときただちに住民の判断を問うことができる「セーフティーネット」(安全弁〉(吉田盛幸総務部長)である。
 
高浜市地域福祉計画・策定委員の佐藤和樹君(当時中学2年生)と平野隆之策定委員会会長
 
 森貞述市長によると投票資格の年齢引き下げは世界の常識。「市議会でも問題にならなかった」とこともなげに語る。このように地域全体の重要な問題は大人など一部の住民の判断に任せるのではなく、子どもも含めたすべての市民が“参画”して行うという理念は、高浜市の地域福祉計画にそのまま活かされている。
 今年2月に出来上がった「高浜市地域福祉計画 みんなで作ろう、心のひろば、支えあいのひろば」(以下モデル計画)の策定には中学生も参加した。すなわち高浜市の地域福祉計画モデル事業策定委員会の委員の1人は、高浜市立高浜中学校3年生の佐藤和樹君である(上写真)。
 策定委員会会長を務める平野隆之日本福祉大学教授ら委員15人の一員として2001年8月の第1回策定委から計画策定に参画してきた。市町村の地域福祉計画の策定に住民の意見を反映させることを義務付けた社会福祉法の趣旨(第107条)を忠実に守った策定プロセスである。
 「少国民」ならぬ「小市民」のエースとなった佐藤君は高浜中学のボランティアクラブのメンバー。他の女子部員2人とともに参画した「168人(ひろば)委員会」(略称「ひろば委員会」)の「第1グループ(子ども)」リーダーである。ひろば委員会とは地域福祉計画の策定に住民の思いと意見を反映するため、計画策定委員会よりも先に設立された重要な機関。この委員会の応募資格も「小学生以上」と画期的である。
 
168人(ひろば)委員会で公民一体の協働
 他のメンバーは福祉サービス利用者のほか社会福祉事業者、ボランティア、民生委員、町内会、NPOなど各種団体や市職員など多彩。いずれも組織の代表としてではなく個人として参加する公民一体・協働の「ひろば」だ。
 
高浜市の地域福祉計画づくり
―3つの主体の関係図―
 
 ひろば委員会はテーマごとに2つの第1グループ(大人と子どもは別グループ)から第5グループまで百数十人の応募市民が計6グループに分かれワークショップ活動を実施した。佐藤君は「子どもから大人へのメッセージ」をテーマにした第1グループ(子ども18人)を代表する。ひろば委員会から1か月遅れて発足した計画策定委員会の委員に選ばれた。
 モデル計画は全国7市町のモデル地域の一つとして全国社会福祉協議会の委託を受けて策定した。ひろば委員会の意見を、できる限り職種横断的な行政職員からなる「プロジェクトチーム」が吸収。計画素案をまとめ、それを受けたモデル計画策定委員会が4回の審議を重ねて最終的に決定した。また中間素案を2001年11月に発表。策定委員が一般市民向けの勉強会を開き、市民からの意見を反映するパブリックコメントを実施した。モデル計画の名に恥じぬプロセスである。
 
(*)パブリックコメント・・・
国や自治体が、計画や方針の作成などを行うに当たり、行政が原案を示し、国民・住民・事業者等から広く意見や情報を求め、それらを考慮して最終的な決定を行うというもの。
 
 モデル計画の内容は大きく分けて3章からなる。第1章は地域福祉の「活動ひろば」づくり(「ボランティアひろばセンター」「福祉起業ひろば」の設置、ユニバーサルデザイン商品の開発、福祉教育の推進による「心のバリアフリーひろば」づくりなど)、第2章は地域福祉サポートサービスの開発・利用(地域での「居場所」「働き場」「学び・遊びの場」づくり、子どもと大人のパートナーシップなど)、そして第3章は福祉からのまちづくり(福祉のまちづくり条例の制定、福祉活動法人と行政との連携など)。佐藤君がひろば委員会で提起した子どもの問題は「子どもの権利擁護憲章の策定」として第2章に盛り込まれた。
 
岸上善徳高浜市福祉部長とひろば委員会の中学生委員たち
 
計画の内容よりもつくるまでのプロセスが大事
 地域福祉計画づくりは地域を舞台にしたドラマ。主役は住民である。共演者はNPO、ボランティア、町内会組織など新旧の住民組織である。また高浜市の場合、計画の準備過程の住民活動を「計画活動」と名付け、プロセスを重視している点がこれまでの地域計画から際だっている。「ひろば委員会」は言ってみれば映画の自主上映のための実行委員会のようなものだ。
 ひろば委員会は単に話し合うだけの委員会ではなく地域に出て学習するワークショップ。そのテーマは(1)子どもの権利(2)福祉サービス利用者と福祉サービス事業者(3)住民活動(ボランティア・NPO)(4)行政と社協の役割(5)居場所づくりと支えあいのこころ―の5つである。
 いずれも地域福祉計画に盛り込むべき「生活課題」を「年齢、性別、障害など人々が持つさまざまな特性や違いを超え、一個人として参加し、一緒になって」(モデル計画報告書)勉強した。たとえば市内での車イス体験による福祉マップづくり、他都市のボランティアセンター視察、お年寄り、障害者、子どもたちにとって居心地のいい場所、つまり「居場所」の調査などである。モデル計画は、このように、足でまとめた提言・報告を盛り込んでいる。
 
策定委員の一人、神谷さん(左)は元サラリーマン。高浜市内の宅老所で週1回昼ご飯を作るボランティアをしている







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