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社協の新しい役割 地域のコーディネーターを
川井 確かに行政があまり指図して仕切ってはいけませんね。行政として最後の責任はありますが、やはり住民に元気を出してやってもらうことが重要なポイントです。その旗頭の一つが、私どもが普段仕事してきている状況から言うと、「社協」という感じになる。社協についてはいろいろなご批判やご意見もあるわけですが、要するに地域のコーディネートのようなことをやるのが本来、社協の仕事ですから、ぜひそうなってほしいという願望はあるんです。逆に言えば、社協はまとめ役であって、仕切り役ではないということです。
堀田 そう伺って大変意を強くしました。ふれあいボランティア活動をやっている全国のNPOはもちろん社協さんと連携しながら進めているところが多いのですが、忌憚なく言わせてもらえばピンからキリです。素晴らしいほうはまさに今おっしゃったコーディネーター、調整役なんですね。地域のあらゆるエネルギーをうまく組み合わせて、本当に住民が生き生きするようなことをやりたい、そういう精神を持った私どもも感服するような社協職員の方、何人もおられます。
川井 そうですね。私自身は、ある意味で社協も気の毒だと思っているんです。彼らから言わせれば「民間だといいながらも、行政の代わりに散々使ってきたじゃないか」と。最近では権利擁護事業や介護だとか現場に近い実務をやることになりましたから、しかしこの地域福祉計画を通じて変わってもらいたい、変わってもらわなきゃいかんと思っています。
堀田 私は東社協(東京都社会福祉協議会)の会長も仰せつかっていて、おこがましいんですが、この3月に「新生東社協」というのを打ち出しました。その核は「東社協は福祉情報ネットワークの中心になろう」というものです。福祉に関する利用者の情報、事業者の情報、行政の情報、すべてを真っ先に東社協が入手して、その情報を加工して、利用者にもフィードバックし、利用者のエネルギーを引き出し、事業者にも利用者のニーズを明確に伝えていけるように。そして行政の施策に対しても、第一線の情報に基づく提言をしてその政策立案に役立てていただく。第一線の市区町村の社協は、自ら行うべき事業も結構あるとは思いますが、それと合わせて、東京都における東社協と同様に市区町村における情報のネットワークセンター、コーディネーターというのが非常に大事な役割ではなかろうか。今、川井課長さんからそうしたあり方を提示されて、改めて実感しました。
川井 社協については「変われ、変われ」とただ説いても「勉強しろ」と言うのと同じでなかなか成績は上がらないでしょうし、実質的な取り組みを通じて、変わってくるという体験が必要ではないか、その核となるのがボランティアセンターではないかなと思っているんです。
堀田 なるほど。
川井 ボランティアセンターは一番現場に近いわけですから、そこが思い切って変わってもらわなきゃいけない。全社協も、新しい「第二次ボランティア市民活動五ヵ年プラン」ですとか「発展の指針」を去年の8月にまとめています。ここでは、ボランティア団体も各種いろいろあって、社協もその中の一つの団体であり、そのネットワークづくりをしていこうという方向がうたわれています。「地域協働プラットフォーム構想」というのを打ち出して、そんなことをテコにしながら社協のボランティアが「半官製ボランティア」と言われないように(笑)、頑張っていただきたいなと。
堀田 市区町村の社協さんを回っても、新しい感覚の方を会長さんに置いているところ、自由にやらせているところ、そしていい人材やいいコーディネーターを置いているところ、ここは本当に生き生きとやられている。そういう方は、市民団体の人とも利用者とも誰とも本当に気楽に話されますし、「お互いやれるところをやっていきましょう」なんていう態度です。逆に地域の団体が行くと、「うちは老舗。何で手出しをするのか」なんて怒られてやらせてもらえなかったりするところもまだあるようですので、ぜひよろしくご指導のほうをお願い申し上げます(笑)。
川井 今は生みの苦しみだと思うのですが、変化が必要だという認識はされてきていると思います。今度の地域福祉の推進でも、もちろん大きな役割を担ってもらわなければいけませんし、そこで社協がどう立ち振る舞うのかが皆さんから見られているわけで、非常にいいチャンスだとも思いますね。
 
 
住民参加で変わる地域福祉
川井 この地域福祉計画の発想は、市町村長さん、首長さんにしてみますと、積極的に進めようとされる方もたくさんおられる一方で、「こんなものに飛びついたらえらいことになる」という抵抗も相当多いと思うんですね。そういう考え方を変えていくために、私どもとすれば、いい事例をどんどん発信して刺激していこうと。それと民間団体などは連携に垣根がないわけですから、そうした力でもどんどん地域福祉計画全体の状況を盛り上げていただけるのではないか。法律上、策定義務が必ずしも課せられているわけではありませんし、自治事務ですから国があれこれ言っちゃいけない(笑)。でも本当に、これをうまくやれば確実に福祉行政は変わるし、地域が変わってくると実は大いに期待しているんです。
堀田 本当におっしゃるとおりだと思います。
川井 地域というのは不思議なものだと思うんですが、僕が今のところへ住んだころは住民間に全然つながりなどなかったんですよ。ところが「市民の森」という制度ができて、市が民間地を借り上げて、「ここは皆さんが手入れしていただいて管理してくださればお貸ししますよ」ということになった。賛成・反対いろいろありましたが、結局、町内会が「やりたい者だけでやりましょう」と始めたんです。そしたら子どもも来ますし、大人も参加してくる。昔はすれ違っても目礼だけだったのが声で挨拶するようにもなりました。そんなきっかけで、「芋煮会」だとか「ソーメン流し」だとか、次から次にアィデア出してやるんですよ。そこから「あそこのおばあちゃんは最近調子悪い」とか「最近出てこないけど、どうしてんだ」という話にもなってくるんですね。本当に地域というのは、ちょっとしたことで変わるんだなと実感しています。
堀田 いいことですよ。私どものさわやか福祉財団も、住民がまず自分たちのことは自分たちでやり、ただ行政に頼るのではなく、その前に自分たちで助け合ってやれることはやっていこう、そんな市民運動を進めていますので、まさに今度の構造改革、そして地域福祉計画はぴったりの方向性です。ご説明いただいたような趣旨が各市町村でしっかり形になって、市民と行政が共に参画する地域福祉、地域コミュニティーづくりができるよう、これからも全国に力強く働きかけていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
 
地域福祉計画と住民参加
 社会福祉法により、平成15年4月1日に施行される地域福祉計画に関する規定(法第107条・108条)に関連して、今年4月、厚生労働省は都道府県を通じて各市町村に、その趣旨を踏まえて適切な計画が策定されるよう社会保障審議会からの意見書を通知した。この通知では、本文にもあるとおり、広く住民参加がうたわれている。
 さわやか福祉財団でも、各地域福祉計画策定委員会には、地域で活躍するふれあいボランティア・NPO活動の実践者が広く加わることが本来の趣旨を活かすことになると全国に働きかけを行っている。
 地域福祉計画の基本目標は、「生活上の課題を解決することへの住民等の積極的な参加」「利用者主体のサービスの実現」「サービスの総合化の確立」「生活関連分野との連携」の4つ。さわやか福祉財団では、これらの遂行達成度の評価についても、地域内でのネットワーク委員会による住民参加の第三者評価の仕組みを提言していく。







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