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喜・涙・笑 ふれあい活動奮戦記
心の交流を大切にした支援を通じて楽しい高齢社会づくりを目指したい
NPO法人福祉サポートセンターかかみがはら(岐阜県)
NPO法人福祉サポートセンターかかみがはら
 「地域コミュニティーと一体になって、お年寄りが気楽に集まれる場づくりをしたいと、この春から、事務所の一角で小さなデイサロンを始めたんですが、家事援助に伺っていたときにはムスッとしていたような人が、ここでは本当に楽しそうな笑顔を見せてくださる。ご本人に“○○さんの笑った顔ってかわいいのね”などと言うと、“大人をバカにしおって”と照れたりもするんですが、こうした何気ないやりとりがお年寄りの心をなごませるんだとつくづく感じています。今は、ギター伴奏で歌う懐メロの会やパソコン教室、健康講座などを日替わりで開いていますが、家庭的な温かな雰囲気を大切にしながら、皆さんに、もっともっと足を運びたいと思ってもらえるよう、内容を工夫していきたいですね」
 
 忙しい事務作業の合間を縫ってこんな抱負を語ってくれたのは、岐阜県各務原市で在宅福祉サービス活動を展開するNPO法人福祉サポートセンターかかみがはらの理事を務める栗原多鶴子さん。
介護保険だけで生活できるのか? その疑問に心が動いた
 1999年11月、各務原市内在住の2級ヘルパー仲間数人が、高齢者の生きがいづくりのために、月2回、憩いの場を設けた。それが同会の原点だという。
 「当時、新しく始まる介護保険のことがテレビや新聞でたびたび取り上げられていましたが、いったい何がどう変わるのかちっともわからない。私自身も老親を抱えていますし、保険料も新たに徴収されるのだから無関心ではいられない。それで、勉強のために2級ホームヘルパー研修を受けたんですが、いざ中身がわかると、介護保険が適用される人はいい。でも、保険が不要とされた人たちはいったい、どうなるんだろう。そんな素朴な疑問が湧きました。それでせっかくヘルパー資格も取得したことだし、自分のできることで何か人の役に立ちたいと、思いを同じくする仲間とともにボランティアグループをつくり、市の福祉センターの一室を借りてデイサロン『はなみずき』を始めたんです」
 そして半年後には、介護保険制度の枠外の生活支援も補おうと、市内第1号のNPO法人格を取得。「わた(綿)」のようにやさしい気持ちと「ほうし(奉仕)」の心を持って、お互いに協力しながら活動していきたいという思いを込めて、会の名前に『わたぼうし』との愛称を付け、身体介護や家事援助、移送などの在宅福祉サービスを開始した。
 「組織にすれば責任のある活動が展開できるし、ここで基盤をつくっておけば後継者も育てられる。そうすれば、自分たちの老後も安心だと思ったんです」と栗原さんは話す。
 
各務原市福祉のフェスティバルにて
活動の中で見えてきた在宅支援の課題に次々と対応
 そんな同会の特徴は、「小さな愛をお届けします」とのキャッチフレーズに象徴されるボランティア精神にあふれた活動。利用者との信頼関係を築くことに重点を置き、「やさしさ」や「思いやり」を大切にしているという。「送迎をしてもらえるのはもちろんありがたいけれど、車中でお話しでるのが何より楽しみ」といった利用者の声などは、まさにその活動ぶりを端的に表しているといえよう。また、在宅支援の中で気づいたニーズや課題に臨機応変に対応していくことも同会のモットー。たとえば、不燃物や大型ゴミ処分の手助けもその一つだ。
 「この辺りは不燃物の回収は月に1度ですし、回収場所が遠いので、車イスの方や足の悪いお年寄りなどは、そこまで持って行くのにひと苦労。毎回、ご近所の方に頼むのも気が重いという声が多かったんです。それで家事援助に伺った際にゴミを引き取り、事務所で分別をして出すようにしたところ、とても喜ばれましてね。独居の方が特養などに入居される際には、トラックを借りて大型ゴミの処分をすることもあります」
 また、一人暮らしだと買い物が面倒と毎日同じようなものを食べ続けて栄養失調になってしまった人や、妻を亡くしてから外食がちで糖尿病を患っている人などを目の当たりにし、お年寄りにとって食べることが命に直結することを知ると、1食400円で配食サービスも開始。さらには、社会や人とのふれあいの機会が少なく、家に閉じこもりがちなお年寄りが多いことを実感。家事援助や移送によって自立の手助けはできても、心のストレスを解消することまではできないと、冒頭で紹介したデイサロン「わたぼうし」も開設した。
 「当初、私たちがボランティアで始めた『はなみずき』は、各務原市がすすめるボランタリーハウス制度適用の第1号となったため、現在は助成金を受けて、毎適水曜日に介護が不要とされた方や元気なお年寄りを対象に、ふれあい型デイケアを開催しています。毎回、専任ボランティア二十数名を含めて50名前後の参加者がいる盛況ぶりですが、そうした場に自発的に出かけてくださる方はいい。でも、中には集団になじめない方や送迎がないと出かけられないという方もいる。それでもっと小規模で、気楽に集まれる場づくりをしようと、新たなデイサロンをつくったんです」
 
移動サロン風景。桜や藤の花香のもとにて
 
車イスでの病院移動
 
在宅や病院で行う付添介護
活動が軌道に乗った今こそ原点に戻って地固めをしたい
 こうしたきめ細かな対応ぶりが口コミで広がり、同会の会員は瞬く間に膨れ上がり、現在の会員総数は560名余り。
 「おかげで目が回るほどの忙しさで、身を粉にして働く毎日。それでも頑張れるのは、頼られそれに応えたいという責任感。そして、利用者から“ありがとう”“助かるわ”といった言葉をいただける喜びに尽きますね。それが元気の源なんです」
 自分が必要とされ、誰かの役に立てる。それこそが生きがいにもつながることを、この2年余りの活動で身をもって知ったという栗原さん。だが会の活動が盛んになるにつれて、こうした心の交流を大切にしたボランティア精神を理解できる人ばかりではなくなってきた。それが今、いちばん頭を悩ませているところだという。
 「特に、利用者のニーズに応えるために介護保険の訪問介護事業を始めてからは、“枠内だけの援助だけで、報酬の安い枠外の活動はしたくない”とはっきり言う入会希望者も増えてきた。でも営利企業と違って、こうしたNPO活動にはある程度、犠牲的精神も必要だと思うんです。本当のやさしさや思いやりがないと、援助を受ける方も苦しいでしょうからね。だから、報酬だけが目的の方はうちでは入会をお断りしているんですが、それでも最近は“ヘルパーの態度が横柄”などといった、以前には決してなかったようなクレームが発生することがある。これだけ会員数が増えると、隅々まで目が行き届かないというジレンマはあります」
 それだけに、今後は研修やミーティングなどの話し合いの場を増やして、会の精神をしっかりと啓発し、NPO団体にふさわしい人材の育成に努めたいとのこと。
 「これまでは、“ふれあい社会をつくる”という夢に向かってひた走ってきましたが、活動が軌道に乗ってきた今だからこそ、原点に立ち戻り、足元をしっかり見直さなければならない。そうして地固めをすることが、会への信頼を高めていくことにもつながると思いますからね」
 人材の育成は組織づくりとともにNPOが継続・発展していく上での重要項目でもある。地域に根ざした団体として活動していくためにも、このハードルをしなやかに乗り越えて、さらなるパワーアップを遂げてほしいものである。
 
小さなフランス料理店でのランチタイム。歌声もはずむ
 
日本財団と赤い羽根共同募金からもらった福祉車
 
芋掘り収穫祭
 
 岐阜県各務原市に本拠地を置くNPO法人福祉サポートセンターかかみがはらは、助け合いの精神に基づいたふれあい社会づくりをスローガンに、高齢者を対象に、共に協力し合って創造的な福祉サービスを提供し、地域コミュニティーづくりへと広がりを持ちつつ、生きがいのある福祉社会を形成していくことをもって、社会全体の利益に寄与することを目的として設立されたNPO法人。主な事業内容は(1)身体介助と介護、(2)家事援助、(3)送迎・移送サービス、(4)不燃物・大形ゴミ処分、(5)ふれあい型デイサロン、(6)給食サービス、(7)介護保険による訪問介護事業など。会員になるには入会金1万円と、年会費5000円(正会員)または3000円(協力会員)が必要。身体介助・家事援助のサービス利用料は1時間800円。サービスを提供した会員は1時間650円(事務経費150円)を謝礼として受け取ることができる。(→連絡先は最終頁
 
1999年11月
「福祉サポートセンターかかみがはら」設立。高齢者の交流を目的にデイサロン「はなみずき」を開設
2000年4月
NPO法人格を取得。在宅福祉サービスを開始
8月
各務原市のボランタリーハウス適用第1号として、「はなみずき」が指定され、助成金を受ける
12月
指定居宅サービス事業者(訪問介護)となる
2001年1月
配食サービスを開始
2002年4月
デイサロン「わたぼうし」開設







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