日本財団 図書館


今 心の教育を考える
取材・文/伏見 明
地域を教室にして学ぶ
大阪府立松原高等学校
 
 「松原高校は人や人のつながりを大切にする学校なんですね」。印象を伝えると、「それが命ですから。人と人をどう引き合わせていくかが教師の仕事だと思っています」と、同校で福祉の授業を担当する加納明彦先生は答えた。
 人口13万人強の松原市は昭和30年代からベッドタウンとして発展してきた。そして地域の人たちの強い要望で1974年に誕生したのが松原高校だ。基本理念は「誰でもが通える高校」。知的に障害があっても通えるようにと、78年以降は知的障害児も「準高生」として共に机を並べている。現在約800名の生徒のうち、6名が知的障害のある生徒である。
 「障害児との間で問題が起きたときも、こうすべきだとは言わず、生徒たちが答えを出すのを待ちました。障害のことを少しでも自分のこととして考えてほしいからです」と、加納先生は話してくれた。
 「準高生」が高校生活を終えたときに、地域の中に活動の場がないことに同級生たちは気づいた。そこで、彼らが中心になってつくった場が、現在の社会福祉法人バオバブ福祉会知的障害者通所授産施設えるで、である。その一人で現同施設長の椎葉正和さんは、「障害のある仲間がいて、いろいろな問題の中で私も一緒に変わりたいと思っていました」と当時を振り返る。
 松原高校では、さまざまな生徒に対応しようと9年前に選択授業を増やした。その一環で、地域の人たちが抱えている問題を考える機会として、高齢者施設、障害者施設、精神病院等6施設の訪問や、施設で過ごす人たちを招いた交流会を始めた。当初、加納先生は関係づくりのため、全く面識のない各施設に飛び込んだそうである。
 年間の授業のうち約10回を実際の訪問や、交流会に充当。さらに96年には同校は選択を基本とする総合学科に衣替えをしたが、この訪問・交流会は、設けられた5系列のうち、「地域福祉系列」に福祉の授業を位置づけ、社会福祉実習として継続されている。単なる訪問、交流ではなく、「問題点も隠さず、疑問を出し合いやすい雰囲気をつくっています。ただ、また行ってみたいと思えるように、生徒にはレクリエーションの企画など、役割を持たせています」。このため、加納先生は施設との事前打ち合わせを重視している。
 そんな訪問先の一つに、高齢者へのデイサービスを行っているNPO法人介護支援の会松原ファミリーがある。代表理事の隅埜千昌さんは、「実際の体験を通して誰もがお年寄りにかかわっていくことが当たり前になってほしい」と思いを語る。職員の武石有香さんは松原高校の卒業生だ。授業や夏休みのボランティア体験でこの団体を訪問した経験が、「一人ひとりのお年寄りの横にいて、自分にできることをしたい」と、その後の進路につながった。
 このボランティア体験も同校が力を入れているもので、1年生の夏休みに自由課題の体験レポート提出がある。学校は地域の情報を提供し、初めての生徒でも参加しやすいように、前年参加した2年生が指導役で加わりながら、数名のグループで体験先に出向く。9月には体験レポート発表大会もあり、互いの成果を披露し高め合っているとのことで、毎年20〜30名が参加する。市議会議員、看護師、教員などになって、市外から帰って活躍している卒業生も多い。地域でイベントがあるとさまざまな卒業生がボランティアとして顔を合わせる。「地域に人材を返していると言えるかもしれませんね」と加納先生はうれしそうに語る。
 地域の問題は直に接してこそ、自分に結び付けて学ぶことができる、と実感した。
 
「ほら! ピース」
 
ゲームを前に「さあ、準備はいかがですか?」
コラム
現場教師のホンネ投稿
部活動を市民の手で!
 私は中学校の教師だが、教育改革反対論者ではない。むしろさわやか福祉財団の理念に共鳴する者である。しかし現在の現場の状況は少し心配である。学校がその使命を果たすには環境整備がやはり必要だと思う。時代の変化とともに学校に求められる課題が増え、もはや学校の教員だけでは対応できない。
 近年、中学校の抱える悩みに「部活動の顧問不足」があるのをご存じだろうか。新規採用の激減、教員の高齢化に伴い、各学校とも顧問不足に悩み、教員の異動とともに廃部となる例が増えている。
 保護者の中には、廃部の危機に議員を介して抗議してくるケースもある。しかしこの問題は学校に文句を言っても無理で、仕組みをいじらなければ解決しない。それは「部活の顧問は教員でなければならない」というもの。この考え方の撤廃こそ解決への早道である。たとえば東京の葛飾区では全国に先駆けて顧問を地域から招いている。地域の協力こそがこの問題の最良の解決策となる。
 ここで財団が推進している「学校協力勝手連」の活動にお願いしたい。中学校現場に働きかける切り口としては「部活問題」が最適だと思う。「部活動の社会教育化」は以前から言われてきた。今こそチャンスである。規則撤廃にご尽力いただくとともに、部活の指導者としてどんどん学校に入ってきてほしい。具体的には市区町村教育委員会の部活担当(地域によって異なる)や地区中学校体育連盟(体育科教員の代表)へ働きかけ、「部活動検討委員会」を立ち上げる。また、このようなときこそ地元議員を介しての方が効果的だ。地方議会の問題にしたほうがスムーズに進むであろう。苦情ではなく学校支援のロビー活動を切に望む。このようにすれば市民による部活運営の道が切り開かれるであろう。葛飾区の取り組みが全国各地で展開することを願ってやまない。
 学校現場の声は行政に届きにくい。部活動問題以外にも学校の抱える課題解決のために、勝手連のお力をぜひお借りしたい。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION