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4. 英国ホスピス、緩和ケアサービスでの看護管理を学ぶ
日本バプテスト病院・看護師 林 直子
 
研修期間
平成14年12月1日〜平成15年2月28日 90日間
研修先
英国
 
はじめに
 英国はシシリー・ソンダース医師が1967年にセント・クリストファーホスピスをロンドンに設立し、ホスピス運動を始めて以来、ホスピス、緩和ケアの先進国といわれている。 2003年の統計では237の緩和ケア有床施設、447の在宅ホスピスサービス、254の緩和ケアを必要とする患者専用のデイケア施設が存在する1。 その多くが慈善団体による運営で、地域よりの収入が多いこともあり、その地域のニードに密着したサービスを提供する努力がなされてきた。 また、近年、施設数が増大し、その形態が多様化する中でサービスの質を問う声が上がり、おこなわれている緩和ケアを評価し、必要なところを改善していこうという動きがおこった。 加えて、医療費の高騰に対し国は限られた財源でもっとも有効な治療やケアをエビデンスを基に選択し、優先的に使うことを奨励し、又、各医療施設にそれぞれの形でサービスの質を向上させる取り組みをおこなうことを義務化した。
 一方日本では、1990年よりホスピス、緩和ケアの費用は国民健康保険より出され、一日の患者一人に対する費用はどのような治療やケアをしても一定である。 ホスピスや緩和ケアをおこなう施設数は近年急激に増加したが、最近までそれらが提供するサービスの質を問われることはなく、系統的に評価することもなされていなかった。
 一ホスピス病棟の管理をになう看護師として、サービスの質の向上を図る管理的戦略の知識を得ることと、地域のニードにあったサービス拡大の方法を探ることに興味を抱きこの研修に参加した。 この三ヶ月の研修期間中、下記に記したホスピスや病院、在宅サービス、デイケア、そして大学を訪れ、それぞれの施設でなされている質の向上への工夫や取り組みを見学し、地域や他施設との連携の仕方を学び、自分なりのホスピス病棟管理方法について一考を得られたのでここに報告する。
 
2002年12月6日 Trinity Hospice London
2002年12月9日〜2003年1月3日 St. Helena Hospice Colchester
1月7日〜1月8日 Dorothy House Bath
1月9日 The Bristol Cancer Center
1月13日〜14日 HOSPISCARE Exeter
1月16日〜21日 St Wilfred's Hospice Eastbourne
1月23日〜24日 Farleigh Hospice Chesterfield
1月27日〜2月26日 Trent Palliative Care Centre Sheffield
  University of Sheffield
  Royal Hallamshire Hospital
  Northern General Hospital(Macmillan Care Unit)
  Weston Park Hospital
  Cavendish Centre
 
緩和ケアサービスとその政策の近年の動き
 1995年に英国では癌患者に対する国の政策報告書、Calman−Hine Report2が発表された。 その基本方針は、すべての癌患者が一様に高い質のサービスを受けることができることであった。その報告が強調するのは専門家間のチームワーク、地域を結ぶネットワークの重要性、緩和ケアがすべてのがん治療サービスにつぎはぎなく統合される必要性の3つであった。 また、1997年に出された The New NHS: Modern 、Depandable3という白書は、3つの鍵となる質の改善のための発議がなされている。 そのひとつは、National Service Frameworksと National Institute for Clinical Excellenceという機関によるサービスと治療のための国の基準を設置することで、二つ目は地域レベルでClinical Governanceという各施設で取り組む質の向上のための枠組みをうちだした。 Clinical governance の中では、実践基準を決め、それを絶えず評価していく活動やリスクマネージメント、従事者の専門職業人としての成長、多職種間でのチームワーク、そして患者家族への情報提供が課せられている。 三つ目はCommission for Health Improvementという機関による各医療サービスの状態の監査であり、定期的に各施設の監査に回り、質の評価をする。 このようにしてすべての医療機関が提供する医療サービスの質について詳しく吟味する取り組みがなされている。 加えて、NHS Cancer Plan4が2000年に発行され、がん患者に対する国の姿勢が表され、がん患者に対するサービスは国の施策の優先順位を占め、積極的に取り組まれることが述べられている。 その中で患者や家族がその疾患のすべての段階で情報が提示されることやあらゆる形の支援が提供されることが重要とされている。これらの政策により、緩和ケアサービスは国より奨励され支援されるとともにそのサービスの水準を保ち、よりよいサービスが提供されるよう体系化されてきている。
 
緩和ケアにおける質の保証
 緩和ケア領域でも自主的に質の向上をめざす動きが見られる。 National Council for Hospice and Specialist Palliative Care (全国的なホスピスと緩和ケア施設の協議会)では、「すべてのホスピスや緩和ケア専門施設はその質の改善にしっかりと献身すべきである。」と述べている5。 前に述べたclinical governanceを推奨し、ホスピス、緩和ケア専門施設でのケア基準が出版され、また、おこなわれているサービスを評価するクリニカルオーディットがなされている。クリニカルオーディットを使うことにより、問題点が明確になり、改善をはかることができる。 各施設で明確な政策や方針を打ちたて、それに沿って実践手順を決め、それを定期的にみなおしており、 訪れた施設のFarleigh Hospice では、多職種で組織手順と臨床実践手順を話し合い決め、すべての職種の同意の上でその手順を使っていくよう取り組んでいた。実践手順は看護手順などとは異なり、緩和ケアに関する手順であり、たとえば、麻薬の自己管理を進める手順や心肺蘇生の適応基準を決める手順などである。 また、それが実践の場で必ず使われるよう、一人一人のスタッフがどのような手順が存在しているかを知っており、詰め所などすぐに見れる場所におかれていた。 利用者への情報の提供はclinical governanceでも謳われており、訪れたホスピス、緩和ケア施設ではロビーや入り口にいろいろなパンフレットが置かれ、たとえば、放射線治療や化学療法により脱毛症に対する鬘などのサービスに対する情報、親を癌で亡くした子供に対するサポート情報がそのパンフレットを通して得られるようになっていた。 また、できるだけ利用者の意見を反映したサービスとなるようにという考えから、サービスの構想の時点から利用者に加わってもらう取り組みもなされていた。 たとえば、Trent Palliative Care Centreを中心としてその近郊にあるホスピスが集まって作成したオーディットツールは患者さんやそのご家族が参加し、その意見を参考にして作られた。







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