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3、デイホスピス
 ホスピスケアは在宅と入院が中心であったが、特に在宅で過ごす患者にとって家族の負担の増大と、患者本人にとっても診断から治療と進む中で、社会から取り残されるような疎外感、将来への不安などと共に、何故自分だけが・・・などという孤独感を持つ人も多い。
そのような中で、デイホスピスは1975年、シェフィールドで始まった。目的としては、病院より退院した患者へのフォローアップとサポート作り、新しい人間関係を築く、病気の進行の中でホスピスなどとの連絡等への準備体制への援助などであった。その後ホスピスを中心として必要性は高まり、1985年には15施設に2000年には250を超えるまでになった。その3分の2はホスピスもしくは病院内の緩和ケア病棟に付設されている。
 デイホスピスは癌患者だけでなく、難治性の運動神経疾患(MS、ALSなど)も対象としている施設がほとんどである。基本的に週に1回程度の参加で、朝から5〜6時間を過ごす。同じ病気や状況の他者と知リ合う事で、孤独感より解放されることは大きな安心感へとつながる。また、ナースやボランテイアなどのスタッフも、最初に患者として見るのではなく、一人の人間として出会うことで、お互い良い人間関係を築き易く、その後のホスピスとのかかわりの中で、より円滑なサービス、ケアへとつなげていく事が出来る。
 具体的にデイホスピスで受けられるサービスは、次のようなものがある。
(1)代替・補完療法(Alternative & Complementary Therapies)
― アロマセラピー、リフレクソロジー、鍼、灸、マッサージ、アートクラフト、音楽療法、園芸療法、気功など
(2)ビューテイケア ― ヘアードレッサー、ネイルケアなど
(3)医療的ケア ― 創処置、ドレナージ・ストーマケアなど
(4)外来診察
(5)テイ&ランチサービス
 最初の研修先のコッツウオルズケアホスピスでは、ある朝にキャンドルを灯して、数日前に亡くなった方の為に、集まった人々で追悼のお祈りをしていたシーンが印象的であった。スタッフはあえて隠さずに真実を伝え、皆で祈る事で、より信頼関係が深まるように見えた。これが自然に出来るところに、ホスピスの良さがあるのだろう。
 一方で、21世紀に入り、デイホスピスもまた新しい局面を迎えている。緩和医療の発展と共に、今まであまり医療的な側面がなかった中に変化が起きているという。今後の課題として患者の選択肢の中に、治療(輸血、輸液、化療など)がどこまで取り入れられるかを考えていかなくてはならない。
 
 代替療法とは一般的に、いわゆる西洋医学に対して伝統的な東洋医学を含む全ての治療法を指す場合が多い。やや誤解を招くのは代替という呼び方から、現代の医学では治せない病気に対しての補足的治療と捉えられ易いことである。日本でいう代替療法は、鍼・灸マッサージや漢方などは治療を目的とした印象が強いが、イギリスではどちらかというと、complementary(補完的)という言葉を使い、心身のリラックス効果を図る方が目的のようであった。イギリスでは一般病院でもそれらを多く取り入れ、患者にとって1つの選択肢となっている場合が多いと思われる。今回訪問した全てのホスピスは、何らかの補完療法を提供しており、又その効果についての文献も看護雑誌などで発表されている。
 ホスピスでの補完療法は、原則としてそれぞれの有資格者が行うものと、そうでなくても良いものがある。専任セラピストを設置している所と、ボランテイアセラピストが行っている所とある。次に代表的なものをあげてみる。
(1)アロマセラピー・リフレクソロジー・鍼・灸・マッサージ・気功など;
 日本では、鍼灸は独立した治療法として扱われているが、イギリスホスピスでは他の方法と同じように、人間の心と身体のバランスを保つ事で、症状コントロールを図る。又リフレクソロジー(足の裏ツボ療法)は、特に科学的な検証もされ、欧米では広く取り入れられている。
 
 
 
(2)音楽療法(ミュージックセラピー)
 日本ではまだ音楽療法士は少ない。身体的に苦痛がある時や精神的に不安が強い時に、音楽を聴く、演奏する、歌うなどでリラックスを図り、症状を軽減する事が出来る。特に身体的苦痛がコントロールされた後、心理的・精神的サポートが必要になった時に、人は音楽によって癒される事が多い。
 ロークロフトホスピス(トーキー)やセントピーターズ(ブリストル)では、専任のセラピストがいて、主にデイホスピスとIPUで活動していた。具体的には、個人アプローチとして病室で演奏したり、ミュージックテープを貸し出したりする。又、グループセッションとして、民族楽器も取り入れ、即興演奏や皆で懐かしい歌を歌う。個人的にピアノのレッスンを行なったりする。詞や曲に気持ちを表現することで、自分を取り戻す事も出来る。IPUのカンファレンスで、精神的不安の強い患者について、音楽療法を依頼することも珍しくない。一方では患者だけではなく、家族の悲嘆や遺族のケア(bereavement)にも役立っている。
(3)アートクラフト(アートセラピー)
 特にデイホスピスには必ず、アートクラフトルームが設置されている。絵画・手芸・細工・工芸その他何でも、患者の好みで選ぶことが出来る。アートセラピストはそれぞれの患者の希望に合わせて、材料を用意し、助言や指導を行う。またホスピス全体で季節の行事(クリスマスなど)の準備をしたりする。コッツウオルズケアホスピスでは、スタッフ・患者・家族で100枚のタイルに好きな絵や言葉を描いて、数年がかりで大きな作品を仕上げ、同ホスピスのシンボルとして大切にされている。
 
 
 







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