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平成14年度(2002年)研究報告

 事業名 医学医療に関する研究助成
 団体名 笹川保健財団  


IV. ホスピスケアスタッフに対する海外研修
1. ホスピス発祥の地であるイギリスでの緩和ケアの現状と実際について
財団法人薬師山病院・看護師 坂下百合子
 
I はじめに
 ホスピスと私の出会いは全く偶然に近いものであった。たまたま引っ越した家の、目の前にある建物がホスピスと知るまでに2ヶ月位かかったのである。一方で、私にとってイギリスは何度も訪れている第二の故郷のような国になっていた。看護師としての経験と、イギリスで得た様々な生活の全てが、私をホスピスで働く事につなげてくれたような気がする。単なる医療者として患者さんの看護に当たるのではなく、一人の人間として人生の一こまを共に過ごすという事が何よりも魅力であった。しかし、実際にホスピスで働くという事が、そんなに簡単ではないという現実に気がつくのにそれほど時間はかからなかった。そこには、プロとしての緩和ケアの知識と経験が第一に必要だった。今回、わずか2年の経験で海外研修という機会を頂き、嬉しさと共にその荷の重さも感じていたのも事実である。そして私が今回の研修で目的としたものは、実際に緩和ケアに携わるベテランの医療者にとっては、ほんの基礎に過ぎない項目でしかなかったかもしれない。しかし、その基本をホスピスの発祥の地と言われる、イギリスで学べる幸運をかみしめて渡英したのである。最初三ヶ月という期間が途方もなく長く感じられたが、結果的には本当に多くの様々な人との出会いがあり、もっと時間が欲しいと何度も思ったものである。今帰国して再び現場の病棟に戻り、何が変わったかという評価はすぐには難しいと思うが、自分自身の内面で確実に何かが変化したのは事実である。イギリスの医療制度だからこそできる事が、何故日本では出来ないのだろうか?特に、在宅医療とデイホスピスに強い感銘を受け、日常生活を営むためにQOLの向上を図る大切さを再認識したのである。個人の価値観を大切にする国だからこそ、様々な選択肢があるのかもしれない。日本においても緩和ケアの必要性は年々高まり、今では一般開業医や在宅センターの中で、癌患者を含む多くの在宅で残された時間を過ごしたい人々への、支援の窓口が多く開かれて来ている。この選択肢が1つでも多く広がることを目指していけたらと願っている。それらを踏まえて、今回この研修で得た新しい経験を私なりの視点でまとめてみようと思う。
 
 
1、IPU(病棟)における緩和ケア
 ホスピスにおけるIPUは、症状コントロール、ターミナル期のケア、家族の休養のためのレスパイト入院などが主な目的とされている。
 ホスピスでの症状コントロールといわれるものは、狭義の意味では、一般的に身体的苦痛に対して行われる薬剤投与をさすと思われるが、主な方法はわが国で行われている基本とほぼ同じであると思った。疼痛コントロールで使用されるオピオイドは、ヘロイン(ダイアモルヒネ)が主流であるが、UKとオーストラリアしか入手できない。ホスピスの規模や一般病院との連携などにより、利便さは異なるが、必要な検査や緩和ケア的なRTなども行われている。IPUで働くスタッフは、スペシャリストナース、緩和ケアコンサルタント(医師)を中心に、ソーシャルワーカー(SW)、チャプレン、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、看護助手、バンクナース、代替・補完療法士(アロマセラピー、マッサージ、鍼灸その他)そして数多くのボランティアによって、チームケアが行われている。
 IPUに入院するまでには、基本的に必ず他のスペシャリストからの紹介が必要である。それは一般開業医にあたるホームドクター(以下GP)や地域のナース(District Nurses)もしくは一般病院(主にNHS)の担当医、SWなど多岐にわたっている。1993年において26%の癌患者が自宅で最後を迎えている。そして自宅での死が自然でQOLに即しているという考えが主流となり、現在では平均40%の人が自宅で家族と共に最後の時を迎えている。そしてホスピスでは、多少違いはあるが60〜90%の人が在宅で最後を迎えている。そのために家族や近隣だけに負担のかからない、医療制度や社会サービスが制度化され、供給されている。特に症状コントロールが目的の場合、入院と同時にSWやOTが中心となって、退院計画が同時に進められているホスピスが多かった。
 私が今回の研修で、特に印象的であったのは全てのホスピスに共通してみられた、ホームケアサービスとデイケアホスピスである。そしてその中で、一般的な症状マネージメントに加え、代替療法としての取り組みも素晴らしいものであった。次に、これらについて簡単にまとめてみたいと思う。
 
 
 WHOでは、癌と診断された時から緩和ケアは始まると言っている。積極的治療で治癒するか否かに拘わらず、患者とその家族にとってその闘病生活は長いものだからである。治癒を目的とした治療の是非に拘わらず、患者は社会の中で生きている。それを継続する事が一番自然であり、もっとも大切なQOL維持の方法といえるだろう。例え、身寄りのない一人暮らしで、寝たきりでも本人が望めば、様々な社会サービスなどを利用して、自宅で最後まで過ごすことが可能なのである。
 ホスピスから提供するホームケアは、主にマクミランナースと言われる緩和ケアスペシャリストナースが担当している。日本の在宅訪問看護師との違いは、彼らは基本的に相談と指導を行い直接的な介護をしないことである。表1にそのかかわりをまとめてあるが、一人の在宅患者に対して、これほどの職種と人々が関わっているという事は驚きである。マクミランナースはこの中で主導的に働き、問題に応じて連絡を取り合っている。薬剤の調節についてすら、GP(主治医)に助言する事もある。
 
表1―ABC of Palliative Care より―
(拡大画面:25KB)
 
 今回のイギリス研修の中で、非常に多くの在宅ケアのケースを見学したり、関わったりすることができた。訪問の依頼は様々で、一般病院の担当医や地域のホームドクター(GP)また地域の看護師やSWから直接依頼される事もある。同じように一般病院などからホスピスを紹介された後、入院の必要性がなく在宅訪問で経過をみるケースも多い。具体的にケースをいくつかあげてみる。(1)60才、女性。乳癌で化学療法をしながら、自宅で療養中。最近背部から腰の痛みがひどくなってきた。訪問中に処方薬をチェックし、GPと直接電話で連絡をとりながら、屯用のモルヒネを増やす事と、他の鎮痛薬を薦めていた。話は自宅にいながらとてもスムーズに進んでいく印象。患者も安心していた。(2)50歳台、女性。ターミナル期であり、自宅で最後を迎えるために最近病院を退院した。かなりるい痩が進み、体動も困難。仙骨部にじょく創があり、地域ナースが訪問してケアを行う。友人や姉妹など家族以外の人が大勢訪れていた。大切な友人らしき人がベッドの傍らで付き添っていた。本人にとって大切な人は家族もとても大事にしている。マクミランナースは、このような状況で家族や本人と話しながら、苦痛の緩和の状態を観察し、良い時間が持てるようにねぎらいと励ましの言葉をかけていた。
 これ以外にも、癌と診断されこれから化学療法や放射線などの治療を受ける前に、その不安除去の目的で依頼されるケース、MSなどの運動神経疾患でレスパイトの為に入院施設を探している患者の相談、一人暮らしのターミナル患者の経過観察と必要なケアの確認など非常に多岐にわたっている。
 
【リンパ浮腫クリニックとケア】
 トーキーにあるRowcroft Hospice では、リンパ浮腫クリニックがあり、5名のスペシャリストナースが外来とホームケアを行っている。外来に受診できない患者の診察と、家族もしくは地域ナースにケアの方法について指導を行い、必要な薬剤はGPに依頼するなど、かなり独自の活動をおこなっている。他のホスピスではPTやアロマセラピストがケアを行い、ここの様に独立したクリニックは珍しい。そのため他のスタッフや一般病院の緩和ケアチームなどにも研修を行い、必要性と方法を広げていく取り組みが行われている。
 







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