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III. 本実習教育モデルの妥当性、実用性の検討について
1. 実習最終日にフォーカスグループミーティングを行い、学生の発言を質的分析することで実習モデルの評価を行う。
2. 学生に実習のプログラム、方法に関してアンケートを行う。
 
1−2−1 実施内容
【目的】ロールプレイングを通して、患者、家族、チームメンバーとのコミュニケーションの方法について学ぶ。
【目標】
1. 病状説明、治療方針決定の際、患者や家族とどのようにコミュニケーションをとればよいかについて考えることができる。
2. 病状説明、治療方針決定の際、医師と看護師はどのように協働できるかについて考えることができる。
【方法】
1. 三グループに別れてロールプレイングを行う。進行役は教員。
(1)事例を読み、場面を理解する
(2)役割を決める・・医師、看護師、家族、観察者
(3)ロールプレイングを行う・・時間は10分程度
(4)振り返る・・自分の役割を振り返りそれぞれの立場で感想(自分の気持ち)を記述する
(5)振り返りをグループ内で共有する・・各々が記述した感想を述べ合い討議する
 
2. 一グループを選びロールプレイングを行う
 参加者全員で振り返り討議する
 
3. ロールプレイングで得られたことを各自考察して記述する
・ロールプレイングを通して何が見えたか、できるだけ理論的に整理してみる(概念化)
・自分を客観的に捉え、コミュニケーション方法について整理する
・考察の記述はコピーして参加者全員で共有する
 
【ロールプレイングの効果】
1. 患者・家族・チームメンバー理解を深めることができる
2. 共感能力を高めることができる
3. 対応の幅が広がる
4. 根拠を考えることができる
5. 参加者同志の相互関係を含めることができる
6. 「今−ここで」の関係を体験することができる
 
【ロールプレイングの注意点】
1. 秘密を守る(自由に表現してよい保証)
2. 事実から学ぶ(机上の空論ではなくそのときに感じた実感から学ぶ)
3. 理論面を補強する(考察・概念化をする)
4. まず、やってみること(参加しながら学ぶ)
 
【事例】
42歳 女性 乳がん末期
 
在宅ケアへ移行するまで
 一昨年10月乳がんが発見された。家族の希望で本人に病名が告げられ、左乳房切除、リンパ節郭清術が行われ、退院後は主婦として普通の暮らしを続けていた。しかし昨年12月、腰痛が出現し、肝臓と脊椎への転移が認められた。夫は治療をしてほしいと望んだが、本人は積極的な治療はせずホスピスへ入りたいという希望でホスピスへ入院した。ホスピスのケアにはそれなりに満足をしていたが、学校に通う子供や仕事が忙しい夫が週末にしか面会に来られないことなどから、在宅ケアを受け家ですごすことを希望して、今年4月自宅へ帰った。
 
在宅での経過
 在宅では週1回の訪問診療と週3階の訪問看護を受け、ヘルパーは週3回、1日3時間で家事をお願いした。夫は相変わらず仕事で多忙だができるだけ家にいる時間をつくって看病にあたっている。夫は銀行員で仕事一筋に生きてきた人だが、今は仕事が二の次でできるだけ妻の世話にあたりたいと考えている。息子は大学受験を控えた高校3年生、娘は中学2年生でクラブ活動で帰宅が遅くなりがちだが、それなりに母親の世話をしている。子供は2人とも母親の病名については父親から知らされているが、予後が短いことは知らない。
 痛みは経口モルヒネ(MSコンチン)240mgとボルタレン坐薬でコントロールされている。食事は量的には少ないが好きなものから少しづつ摂取していた。しかし反回神経麻痺が出現し、嚥下が難しくなってきている。水分がわずかではあるがどうにか摂取できている。意識はあるが一日中ウトウトしており、自分からは積極的に話すことはなく呼びかけには応じ答える状態である。血圧は正常に保たれているが脈拍は110/分である。痰がからむことがあり、息子が吸引器で痰を吸引している。医療者は終末期として捉え、あと1〜2週間で死を迎えるのではと予測している。
 近いうちに嚥下困難となり傾向的には全く摂取不可能となる状況である。
 
場面
 エンドステージであることを家族に説明し、嚥下困難となり水分も摂取できなくなったときどのように対応するか、方針をきめる場面です。
 患者宅で医師と看護師が家族(夫)に説明し、話し合う場面です。
 
1−2−2 学生の振り返りから
医師役: 余命を告知しなければならないのだが、相手の精神状態を把握しつつ、今そのことを言ってしまったらどう感じるのかというところまで考えながら、どの程度まで正直なところを伝えるべきかという部分が大変難しかった。
看護師役: 医師と家族、両者の間にはさまれた感じを受けるとともに、自分のここでの役割は何だろう?と考えながらのロールプレイだった。
奥様の死までの生活を家族一緒に過ごすことに意味があるという思いを伝えたかった。これには自分の看取りに関する考え方が入っていたようにも思う
家族役: 苦しい決断を迫られる家族の気持ちを少し体験することができた。実際苦しかった。
「脱水になって呼吸困難になる」と説明されて正直いって驚いたし、怖くなった。具体的なことをききたい気持ちとききたくない気持ちが同じくらいある。
医療者は患者さんに対して医療者としての立場や考えで説明してしまいがちで、迷われている気持ちや不安な思いをきいていく、もっと基本的な部分を大切にしていかなければならないよう感じた。
医師と家族の前にいる看護師は医療者側の視点を持ちながらも患者もしくは家族の立場に寄り添う姿勢が非常に大切だと考える。
観察者: 医師が経過を説明するとき、「栄養不足になる」「脱水になる」「呼吸が苦しくなる」という悲観的な事実だけを羅列したので、家族の不安が大きくなった。
医療者は、家族の言葉にできない思いをくみ取り、引き出していくコミュニケーション能力が大切である
「これから一緒に考えていきましょう」という看護師の言葉は家族に安心感を与えた。
患者や家族の考えは、個人のそれまでの生で作られてきた価値観が影響する。気持ちが入り込めば入るほど、医療職からの強い価値観が説明や話し合いの中で顕著になってくるので、それを理解し、各々に必要な役割を考えながら進められると良いと思う。
 
 ホームケアクリニック川越にて在宅ホスピスケアを受けたご遺族の方2名に、実習場所(ホームケアクリニック川越)まできていただき、表IV−2に示すような資料をもとにお話してくださった。
 学生はご遺族のお話の後、以下のような感想をあげた。家族ケアの大切さ、家族の苦労や喜び、看取った後の思い、など大学での講義では得られない貴重な学びをしたことが伺える。
 
・ これまで患者さんの家族の話をきく機会はなかったので、とても多くのことを学ぶことができた。
・ 在宅ホスピスケアにおける家族へのケアは、患者さんへのケアと一体でなければいけないと思った。
・ 在宅で看ることの家族の大変さが具体的によくわかった。
・ 介護保険の利用に関しての問題点を知ることができた。
・ 在宅ホスピスケアにおいて家族が果たす役割の大きさを知った。医療者として最大限にサポートできるようになりたい。
・ 病院でも同様に家族へのケアも考慮していきたい。
 
表IV−2 「在宅ホスピスケア家族の経験談」(ご遺族作成 日付、病院名は研究班による)
母(享年 80歳)卵巣がん 2001年△月○日没
 
2001年△月中旬にわかる。
A病院、B病院を経て△月○日ごろからパリアンなどの支援で在宅介護
(病歴:亡くなる4年前に第一腰椎圧迫骨折で□ヵ月半入院。伝い歩きまで快復していた)
 
在宅ホスピスの困難だった点
内的
日常生活で死と向き合うこと
仕事との時間の調整
 
外的
介護保険とのすり合わせ
「在宅ホスピス」制度の世の中の認知度が低いこと「こんなに悪いのになぜ入院させない」「点滴しないのか」「早く元気になって」
 
在宅ホスピスで良かった点
本人が生きたようになくなった
残された私に親類、友人などの強い人間関係を残してくれた(ひとえに共通体験による)
母の死をこれからの自分の生き方に反映できる
 
 本実習では、各グループで担当患者のケアプランを作成する。学生は実習期間中に、担当患者の現在の問題点、今後起こり得ること、その対応などまとめ、スライドの形で発表を行った。3グループのうち、1つのグループの発表資料を<資料1>として示す。図IV−1にケアプラン発表の様子を示す。
 帝京大学医学部公衆衛生学では、実習終了後に学内での発表もカリキュラムに含まれている。今回の実習内容の発表に使用されたスライドを〈資料2−1:帝京大医学部公衆衛生学実習 在宅ホスピスケア.ppt〉(Microsoft PowerPointファイル)、〈資料2−2:資料2−1の印刷物〉として示す。
 
図IV−1 ケアプラン発表の様子







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