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2. 聖路加看護大学における在宅ホスピスケア教育
2−1 はじめに
 聖路加看護大学看護学部の専門科目では、初学者に分かりやすいように看護学を組み立てて展関していく。専門科目は6つの科目群から成り立っており、初めに看護の基礎的な諸概念を学ぶ科目群(看護の基本)があり、次に健康状態別の看護援助を学ぶ3つの科目群(人問と環境の相互作用の回復・保護ほか)と実習科目群(臨地案習)があります。最後に、看護学を発展させる視点や方法論に関する科目群(看護学統合)で締めくくる。
 
 専門科目中の臨地実習の一つである総合実習では、関心のある看護領域において、対象と環境との相互作用を力動的に把握し、対象の最適健康状態を生み出すことができるよう、メンバーの一員として主体的に自らの役割と機能を発揮し、働きかける能力を養う。さらに、看護実践を通して、看護の専門性について考え、自らの看護に対する看護観を深める。
 
 4年次前期の専門科目である総合実習の一つとして、地域看護活動の中で、在宅看護、産業看護の2分野で実習を行う。この実習先の一つの訪問看護ステーションにおいて在宅ホスピスケアに関して学ぶ。
 在宅看護の分野では、都内の訪問看護ステーションあるいは聖路加国際病院の訪問看護科において訪問看護実習を行う。訪問看護活動のシステム・特徴を理解するとともに地域における在宅ケアシステムの中での訪問看護の果たすべき役割を考える。
 実習内容としては、受け持ち患者のケアマネジメントを行うためにアセスメント・ツールを用いたケアプランを立案する。これらの看護過程の展開を通して、ケア提供能力を養う。また、訪問看護ステーションでは、訪問看護事業所としての管理・運営上の課題についてST管理者の活動を通して理解する。
 産業看護の分野では、勤労者が健康を保持増進し、職場適応を図って行く過程を支援する産業看護活動の意義と一連の流れについて実践を通して理解する。
 
(1)実習期間及び場所
期間: 7月前半の1週間(月〜金)
場所: 1. 病院からの訪問看護(聖路加国際病院 訪問看護科) 3名
  2. 都内の訪問看護ステーション 2ヶ所 6名(各3名)
  3. 都内の企業健康管理部門 4名
 
(2)実習目的(在宅ホスピスケア実習)
 地域における在宅ホスピスケアの実際に触れ、在宅ホスピスケアに必要な基礎的知識とチームアプローチについて学習する。
 
(3)実習目標(在宅ホスピスケア実習)
2. 在宅ホスピスケアの概念を説明することができる。
3. 在宅ホスピスケアに関わる専門職の法的根拠と役割を述べることができる。
4. 在宅ホスピスケアのチームケアの原則を説明できる
5. チームの一員としてカンファレンスで発言することができる。
6. 末期がん患者の死までの病状経過を述べることができる。
7. 末期がん患者のケア計画を立案することができる。
8. 末期がん患者の疼痛コントロールの方法を説明できる。
9. 末期がん患者と家族が抱える心理・社会・霊的な問題を説明できる。
10. 家族を失った人の悲嘆を理解し悲嘆のケアについて述べることができる。
11. 在宅死を前提とした「死の教育」について説明できる。
12. 末期がん患者と家族とのコミュニケ―ションの原則を理解した上でコミュニケ―ションをとることができる。
13. 在宅ホスピスケアにおける法的・倫理的課題を述べることができる。
 
(4)評価
1. 毎日の実習記録及び実習所での実習態度 50%
2. レポート 50%
 
3−1 はじめに
 筑波大学医学専門学群医学類では、病気の治療・予防や健康の保持・増進という問題に、身体的のみならず精神的・社会的な要素も含まれていることを踏まえ、自然科学だけでなく人文・社会科学にわたる知識と洞察にもとづいて問題を解決する能力、すなわち、基本的臨床能力と基礎的研究能力を備えた医師となることを目標としている。
 
 この目標を達成するため、本学類では必要な知識と技能の修得にとどまらず、自ら学ぶ態度と習慣を身につけ、未知の問題を解決する能力を獲得することに教育の重点をおいている。独自のカリキュラムは6年一貫の医学教育を行うためのもので、豊富な実験・実習とさまざまな学問分野を組み合わせた統合カリキュラムを取り入れて、総合的な理解力の育成をはかっている。
 具体的には、1年次から医学セミナーや介護体験を通して医学・医療に触れ、ついで、生命科学やヒトの構造と機能の基礎(2・3年次)、ヒトの正常と病態(3・4年次)、臨床実習(5・6年次)の順に専門科目を履修する。
 
 基礎医学では解剖学・生化学など、臨床医学では内科学・外科学など、社会医学では環境医学・法医学などが学問分野にあたるが、医学類の特色は分野別講義を減らし、統合カリキュラムを主軸としていることである。具体的な問題を解決するために、さまざまな学問分野を組み合わせたカリキュラムを編成し、総合的な理解と問題解決能力の育成をはかっている。
 
 統合カリキュラムでは、例えば“せき・たん・呼吸困難”という問題がまず提起される。これを解決するには、呼吸器の構造と機能を知り、症状や病態を理解し、診断と治療法を学ぶことが必要である。そこで解剖学、生理学、薬理学、内科学、外科学等の講義・実習を有機的に組み込んだカリキュラムとなっている。
 
 履修科目は一般科目と専門科目に分かれ、専門科目は4つのカリキュラムで構成されている。
 
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(1)医学入門
 医学教育のオリエンテーションと早期体験学習を目的として、1年次から医学入門が始まる。医学セミナーでは、学生が小グループに分かれて教官を囲み、医学・医療上のテーマを選んで調査・報告・討論を行う。 お互いの交流を深め、自己学習・グループ学習の習慣を身につける。
 
(2)細胞生物学
 ヒ卜を構成する分子・細胞・組織を対象に、生理学、生化学、薬理学、組織学などを通して、分子から組織に至る構造と機能の基礎を学ぶ。
 
(3)ヒトの構造と機能
 基礎医学を中心とし、マクロレベルでのヒトの構造について学んだ後に、統合コースとして呼吸・循環系、消化系、神経系などの器官系を広い視野から学ぶ。
 
(4)ヒトの正常と病態
 臨床医学が中心となる。基本症状からはじめ、病態生理・検査・診断・治療までを総合的に学ぶことを主眼としている。
 
(5)臨床実習
 4年次後期から、ベッドサイドで患者さんと接する臨床実習が始まり、6年次まで55週間にわたって行われる。最初は主として附属病院で、続いて学外教育協力病院においても実習を行う。本医学類の実習は特に、患者さんを中心に問題をとらえ、解決する思考能力を身につけることに目標を置いている。また保健所などにおける社会医学実習も行われる。これらの臨床実習で身につけた能力を客観的に評価し、真に臨床現場で役立つものにするために、6年次生に対してはOSCE(Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験)を実施している。例えば面接能力、救急蘇生法、画像診断能力、創傷縫合などの課題で臨床能力を総合的に評価し、各学生にフィードバックしていく。
 
(6)医学総括
 卒業試験に先立ち、臨床医学を中心に計20のコースについて、整理して総復習する総括講義が行われる。
 
「医療・福祉現場でのふれあい」
〔一般学習目標〕
 人間性を尊重する全人的医療の第一歩は、お互いを知り、理解を深め、相互信頼関係を確立することである。これを学ぶために、医療・福祉現場に出て、そこでの活動を知ると共に体験することが大切である。医学生として医療・福祉活動に参加することによってこれから学ぶ学問の真の目標を知り、自らの動機づけとする。
〔実習内容〕
(1)「付属病院実習」
 看護を中心とした見学実習をする。
(1)各クラス(19人)ごとに3回実施する。
(2)病棟において、配膳、食事介助、下膳、食事摂取量のチェック、イブニングケア、患者・家族とのコミュニケーション、病党内の整理・整頓などを行う
 
(2)「学外施設実習」
 地域における看護・介護・福祉活動の実際を体験実習する。
(1)実習は原則としてman to man方式とsmall group方式で対応する。
(2)1年次の7月の2日間 9:00〜16:00
実習先:1. 介護老人福祉施設
2. 訪問看護ステーション
3. 介護老人保健施設
 
3−5 6年次医学総括(前項の(6月))におけるターミナルケア教育1)
 
 大阪大学大学院人間科学研究科の恒藤助教授を講師として、卒業直前の3学期にターミナルケアについてロールプレイ形式で2コマ(3時間)学習する。
(1)対象と方法
 6年次全学生を対象とし、ターミナルケアの場でよく出会う普遍的な場面設定で患者や医療者の役を自薦他薦の学生に割り当て、教室の前面のスペースで椅子に座り、ワイヤレスマイクをそれぞれが持ちアドリブで演じる。ロールプレイ終了後、まず演じた学生が感想を述べ、次に見ていた学生を交え全体で討論する。最後に教官とホスピス医から各役者の振る舞いに対する感想や質問に対する考えを簡潔に述べる形でコメントする。ロールプレイは討論後に2回目を行い、再び前回同様に討論を行う。後日行われる医療総論の総括試験でロールプレイの感想を書いて提出する。
 
(2)学生の感想文から
 1999年度のロールプレイの感想文では、精神的ケアの重要性とその困難さに言及する学生が多く、また、傾聴や共感、受容や支持の重要性やその方法についての言及があった他、受容の前提としての自身の死生観の確立に気づく学生も一部あった。
 
(3)意義
 筑波大学ではターミナルケアの教育としては講義形式ではなく、このロールプレイ授業を当てて学生が能動的に学べる参加型の学習を行っている。ロールプレイ形式の教育は臨床の具体的場面に向かうこと、演者の学生のみでなく、見学している学生も自分の立場で考える機会があること、討論において他者の意見がきける、等の利点がある。これら利点の効果により、指導者が講義形式で明確に示すことなく、学生自らが精神的ケアや受容・共感・支持の重要性や困難さに気付くことができ、中には死生観を確立していこうとする姿勢も現れる。ターミナルケアの教育は、患者中心の医療の姿勢を学ぶのに適した分野であるが、特にロールプレイ形式の講義は、ターミナルケアに関する知識の教育のみならず、QOLを重視する患者中心医療の態度教育として非常に有効である。







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